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日本人はなぜ海外に行かないのか?

訪日客が今年3000万人を超えたことが賑わしく報じられている。いろんな課題がある中で2年先の2020年には政府目標4000万人も達成しそうな勢いだ。

このような中で、海外に飛び立つ日本の“アウトバウンド”状況に懸念を示す記事が、12月23日の朝日新聞朝刊3面「日曜に思う」のコラムに「”インバウンド”だけではなく」とのタイトルで編集委員大野博人氏が投稿している。アウトバウンドに関してメディアではあまり報じられていないが、観光庁によると20年ほど前から1700万人あたりで増えたり減ったりで、あまり変化がないと言う。人口に対して国外に旅行に出る人の割合を表す出国率と言う指標で、日本は13.5%(2016年)。シンガポール、マレーシア、英国などは100%を超えている。繰り返し国外に出る人が多いことを示している。日本と同様の島国である台湾が61.9%、韓国も44.0%だ。国連機関によると世界中で国境を越えて旅する人はどんどん増えており、2000年の6億8千万人から2017年には13億2600万人にほぼ倍増している。このような中で、“じっとしたままの日本人”でいいのだろうか?”との問題提起だ。特にこれからますます進むグローバル化の時代を担う若者の出国率に懸念を示している。政府も懸念を示しており、観光庁が「若者のアウトバウンド活性化に関する検討会」を作り、その中で若者がコミュニケーションを学ぶきっかけや勧誘の場として「海外体験」の重要性を指摘しているそうだ。各大学でも取り組みが始まっている。玉川大学では観光学部の学生は全員がオーストラリアに1年間留学する制度を設けている。最初は不安そうに出発する学生だが、外国語や多文化の人に接することに抵抗がなくなって帰ってくると言う。

OECDの統計では、日本人の海外留学生も、ピークであった2004年(8万2945人)から11年(5万7501人)までの7年間で3割超も減少している。中国、韓国などにも大きく後れを取っている。以前JISAの支部で、グローバルなヘッドハンター会社を経営されている橘・フクシマ・咲江さんに講演をお願いした際、「グローバル人材とは、隣の席に外国人が座っていても違和感なく過ごせる、仕事ができる人をいう」と言われたことを覚えている。私には残念ながらできなかったが、これからの若者には、海外に積極的に出て、外国人と自然体で親しく接することのできる人材を目指してほしいと強く思う。まさに、外国人受け入れ法案が議論になり、“外国人との共生”も大きな課題となっているが、日本が働きたい国として選ばれるためには、日本人が外国人に対する違和感を如何になくせるかが問われている。私自身も大きな課題と思っている。

”人生100年時代”を迎えて考えるべきことは?

人生100年時代を迎え、本やメディアで高齢者問題の課題を論ずる機会が増えてきた。五木寛之氏は著書「百歳人生を生きるヒント」で、「従来、人の寿命は50年、それ以降は余生とされてきたが、21世紀の今、人々の寿命は延び、“人生100年時代”を迎えようとしている。そこにあるのは、悠々自適の静かな老後ではなく、あとの50年をどう生きるかという、歴史が体験したことのない、未踏の世界だ」と言っている。五木氏は50歳以降の人生を長い”下り坂“との覚悟をもって生きなさいと提言する。
一方で、高齢者としての役割を認識し、社会に役立つことをしていかなければ、日本は生き残れないだろうとの提言をするのは多摩大学長寺島実郎氏。寺島氏著の「シルバー・デモクラシー(戦後世代の覚悟と責任)」(岩波新書)と「ジェロントロジー宣言(”知の再武装“で100歳人生を生き抜く)」NHK出版新書}を読んだ。少子化が進む中で、2060年には高齢化比率が40%となり(前回東京オリンピックの頃に人口1億人を超え、高齢化率は7%)、今では100歳以上が約7万人もいると言う。しかも、若手より高齢者のほうが投票率が高いことを考えると、有効投票の6割が高齢者となると言われ、まさに政治も「老人の、老人による、老人のための政治」になりかねない状況が進む。「株高誘導政治」に多くの高齢者が賛同することで、将来の日本は果たして大丈夫なのか?我々団塊世代が高齢化した今は、まだそれを支えてくれる現役世代がいるが、少子化が進む中その後の時代は若手が支えることが出来ない時代が来る!(「逃げられない世代」https://jasipa.jp/okinaka/archives/8695参照ください)

寺島氏が言う「異次元の高齢化社会」(世界の中でも突出した高齢化率)を目の当たりにし、このままではいずれ日本も現在の生活レベルを維持できなくなるのは誰もが懸念していることではなかろうか。しかし、社会制度・システムはこの状態を予測できたにもかかわらず、放置されたままだ。政府に「人生100年時代構想推進室」が昨年9月にでき、掛け声だけはいさましいが、議論の方向性も見えないままだ。

高齢化社会を福祉、年金、介護など社会的コスト負担増大との関連で論じ、何やら息苦しい老人社会と言ったイメージが広がっているが、寺島氏は、経験豊かな高齢者の知を活かし、さらには知の再武装もしながら、社会システムの中にもう一度位置づけなおし、社会に参画し貢献する主体として高齢者が活躍できる社会づくりを提案する。その意味で”老年学“的アプローチから、高齢者一人一人の生き方を再構築するための社会工学的アプローチを意味する”ジェロントロジー”と言う言葉を使っている。

高度成長期に就職した団塊の世代が東京に集中し、その結果できた16号線沿いのニュータウンに住む人は、当時は老人世帯から干渉されない自立した独立した「ニューファミリー」として注目を浴びたが、今では独居老人化がものすごい勢いで進んでいるそうだ。自ら食材を育て、地域で融通しあう田舎型高齢者社会に比べ、都市郊外型高齢者の幸福感は大きく異なる。この都会のサラリーマン卒業者中心の高齢者を“新都市中間層”と名付け、この人たちを田舎の農村との交流を深めるよう誘い、日本の農業再生に寄与する集団とすること、さらにはサラリーマン時代の経験を活かしつつ、観光事業に従事することを推進することなど、多摩大学長としてこの問題に取り組まれ、実績を挙げておられる。

期せずして、12月3日よりに日経朝刊2面の“迫真コラム”に「人生100年の生き方」の記事が連載されている。その記事の中に「人生100年時代。学校を卒業して一つの会社を勤め上げ、年金での残りの。人生を楽しむ。そんな生き方は大きく変わる」として、60代、70代の人の新しい生き方をはじめ、30代~50代の人たちもこの変化をとらえながら新しいチャレンジをする姿を紹介している。

私も100歳まで生きようとは毛頭思っていないが、現在は100歳以上人口が7万人だが、2050年には50万人を超えると予測される時代、100歳までにはまだ30年近くもある自分としても。世の中のためになることを真剣に考えねばと強く思うようになった。団塊世代の責任として、次代にツケだけを残さないためにも。

逃げられない世代(現20~30歳代)

元通産官僚で現在30歳後半の宇佐美典也氏が「逃げられない世代」(新潮新書、2018.6刊)を出版している。サブタイトルは「日本型”先送り”システムの限界」で帯封には“2036年完全崩壊(年金、保険、財政赤字から安全保障まで)”とのショッキングな文言が気になり、購入した。
イデオロギーに偏ることなく、中立的に今の日本を見て、将来の日本を考えたいが、書店に並ぶのはどちらかに偏向する本ばかりなのが、この本を出版した理由だとか。そして、先送りした財政問題など、にっちもさっちもいかない状態になるのが2036年、その時に最も被害を受けるのが現在の20~30代で、宇佐美氏も当事者ということで、切実な問題ととらえ、出版の動機となった由。
社会保障と安全保障の2大課題に関して、現状の先送り政治構造を分析し、今のままでは2036年に問題が顕在化、先送り不可となり、その時現役世帯である現在20~30代の人が老後に向けて被害を直接受けることになるとの問題提起だ。その上で、問題を政治に求めるのではなく自らのものと捉え、「我々はどのようなスタンスでキャリア形成を考え社会に参画するのか」考えていかなければならないと提言している。

政治の世界は、「選挙でいかに勝つか、勝てるか」が第一義のため、中長期的な課題に関してなかなか手が打てない。代表例として「消費税」や「税と社会保障の一体改革」に見られるように先送り構造が当たり前となり、今後ともこの先送りシステムが解消する見込みもない。「シルバー・デモクラシー」との言葉があるように、選挙の勝ち負けを大きく左右する高齢者への気配りで社会保障にも手が付けられない状態は続く。宇佐美氏は「低金利環境が財政赤字を許容し、社会保障関係費の膨張が財政赤字を拡大させ、拡大しきった財政赤字を金融緩和が呑み込む、という三位一体の関係で社会保障制度の問題解決を先送りしていく構図だと言う。社会保障制度は国民が相互に支えあうシステムであり、人口構成の変化が制度改革に直結する。現在は、高齢化した団塊世代(1947~1951生まれ1028万人)を、団塊ジュニア世代(1971~1975生まれ984万人)が支えてくれているが、団塊ジュニアが高齢化した際、次の世代に人口の塊がなく、問題の先送りが出来なくなる。国債残高、政府債務、社会保障費の伸びなどを考えれば、限界点は20年後に来ると宇佐美氏は言う。金利上昇に伴う利払い増や、株価ダウンによるGPIF運用の年金予備費の減少などが起これば、もっと早く限界が来る。
安全保障に関しても、今はGDPでも世界3位で存在感はあるが、中国がいずれ突出し、インド、インドネシア、ブラジルなどが猛追してくる。エネルギー、食材などの自給率の低い日本は自由貿易体制を堅持することが生命線だが、世界における日本のプレゼンスが弱くなると、世界に対する指導力の衰えが懸念される。さらにはアジアでのポジションが変わり、米国が日本との同盟関係を解消する可能性にも言及する。

金融緩和の出口論議はまだ時期早尚とのことで議論されていない(議論することさえ怖い?)が、いずれ出口が来るのは必定。完完全崩壊が2036年か、それとももっと早いのか、遅いのかは分からないが、宇佐美氏の分析は非常に分かりやすい。平均寿命が今以上に伸びることを考えると親も国も会社も積極的に守ってくれない65歳~74歳の期間の生き方を考えねばならないと宇佐美氏は言う。人生のステップが「教育→労働→引退(老後)」から「教育→労働→自活→引退」とならざるを得ず、現在30歳代以前の若い人たちは、65歳~74歳の間“自活”できるよう、若いときからスキル、ブランドを磨くことを忘れてはならないと説く。20年後世の中は予想もできない変革が起こる可能性は大きい。孫の時代が心配だ。