22日の各新聞朝刊に元ワイルドワンズ加瀬邦彦氏の訃報が報じられた。グループサンウンズ華やかなりし時代の我々団塊世代の青春の歌「想い出の渚」をYouTubeで聞きながら加瀬氏を偲んだ。加瀬氏は喉頭がんで声が出なくなったそうだが、悲しいことに自殺の可能性が報じられている。「つんく」も喉頭がんで声が出なくなったが、生きる為に声を失う決断(がん切除手術)をしたと言う。この年になると、同僚や同級生ががんで亡くなることが目立つ。ガンの告知を受けた時の気持ちを思うと惨憺たる気持ちに襲われる。さぞかし、声を生きがいにしてきた加瀬氏とつんく氏も多いに悩まれたことと思うが、生きることへの決断は二人で違った。
「致知2015.5」に「“がん哲学”が日本の医療を変える」とのタイトルで一般社団法人がん哲学外来理事長(順天堂大学医学部教授)樋野興夫氏のインタビュー記事がある。そのリード文は
いまや国民の二人に一人が罹るといわれるがん。突然の宣告に直面した患者の多くは、生きる意義を見失い、悩み苦しんでいるという。そんな患者たちの駆け込み寺となっているのが、樋野興夫教授が提唱する「がん哲学外来」だ。
とある。「がん哲学外来」は2008年に開設し、今では全国に70か所の拠点がある。
患者の多くはがんと宣告されたことで鬱的になる人が多く、自殺未遂を起こす人が3人に一人はいるそうだ。樋野教授は、「日本の医療は医療者中心で患者視点からは遠い」との問題意識から、がんを宣告されることで、生きることの根源的な意味を考えようとしている患者さんが最も必要としていることは何かと考え、患者さんとの対話の必要性に思い当たり、「がん哲学外来」の創設に至ったそうだ。樋野教授は個人面談の形で患者に対しておられるが、他の拠点では、患者が中心となってお茶を飲みながら語り合う自主的な運営となっているとの事。
樋野教授は、大学浪人時代に出合った尊敬する人から、「自分の専門外の本を、寝る前に30分読む習慣を身に付けよ」と教わり、薦められた東京大学初代総長南原繁や新渡戸稲造、内村鑑三などの書物を読み漁った。そして彼らが説く「人間いかに生きるべきか」という思索の中に入っていったことが、自分自身を形成したと言う。「人生における邂逅の三大法則は、よい先生、良い友、そしてよい読書」とも。そして、患者の心を読みながら、これらの著名な方々の発する言葉を“言葉の処方箋”として薬の代わりに出されている。例えば、ガン治療後職場復帰したが、もとの重要な仕事に戻れず辛さを吐露する患者に、内村鑑三の「人生の目的は品性を完成するにあり」の言葉に基づいて
人生の目的は仕事の成功でも世間の賞賛、ましてやお金持ちになることでもない。それよりも今自分の目の前にあることに一所懸命取り組むこと、そして人に喜んでもらうことによって品性が磨かれていく。だから耐えることで品性が生れ、品性を磨くことによって本当の希望が生れる
と患者に伝えている。そんな言葉が100程度あるそうだ。家族ともどもほとんどの方が涙を流されるという。
「がん哲学外来」の各拠点には、1日70名くらいの方が来られると言う。がんに罹り、心身ともに疲れ切った時には、「がん哲学外来」を活用して自分を見つめ直し、これからの生き方に思いを馳せることにしては如何だろうか?加瀬邦彦氏に合掌!