「健康・老化」カテゴリーアーカイブ

”未病”に対処し、介護費3兆円削減!?

2月10日の日経朝刊13面「Game Changer~挑戦者たち~」に「病気にさせないストリート医療」と言うタイトルで、34歳の東京医科歯科大学教授の武部貴則氏の活動が紹介されている。「医療は病気のためではない。人間のためにシフトしないといけない」武部氏の言葉だ。26歳でIPS細胞を用い世界初の「ミニ肝臓」作製に成功し、英科学誌「ネイチャー」に発表。その後、米シンシナティ小児病院の准教授に就任。31歳と言う史上初の若さで教授(東京医科歯科大学と横浜市立大学)に就任した逸材だ。

「ストリートメディカル」、医学書に頼るだけではなく現場(ストリート)での気づきからうみだす治療。

と言っても分かりにくいが、ストリートメディカルの重要な目標は、健康と病気の間の状態をさす「未病」の治療を言い、運動不足や食生活の乱れなど、不適切な習慣を送る人が当てはまるそうだ。解説者(尾崎達也氏)によると、未病の概念は古くて新しいと言う。中国の古い医学書「黄帝内経」には「一流の医者は病気にさせない。二流は病気になりかけた人を、三流は病気になった人を治す」とあるそうだ。医療技術の発展はすごいものがあるが、今では生活習慣病による死因が多くを占めるようになっている。その対策は十分とは言えないと言う。未病の人に働きかけ病気を予防できれば経済効果も大きい。経済産業省は、生活習慣病やフレイル(*1)・認知症の予防策を取れば、2034年には60歳以上の介護費を約3兆円、医療費を約1100億円下げられると試算している。その意味で「人の心をどう動かし、予防につなげるか」、ストリートメディカル活動は、医師にとどまらない幅広い分野の知恵の結集が求められている。

上述の武部教授は、横浜市立大学の特別教授として2019年から始めた「ストリートメディカルスクール」と題した教育プログラの主催者を務めている。この会にはデザイナーなど医療とは縁遠い人も参画しているそうだ。若い女性に婦人科の受診を促したり、子供が闘病に前向きになれるアイディアなど活発な議論の中から製品化の動きも出ていると言う。

武部氏は「ストリートメディカルシティ」と名付けた近未来都市の実現に向かっても動いている。「誰もがより良い人生を実現出来る街」とのコンセプトで、生活しながら病気にならない住まいを目指す。実際、「未病」の街づくりを政策として掲げる神奈川県と連携しつつ、横浜近郊の再開発で、患者や障害者、老人、子供がのびのびと生活でき、働き盛りの人は健康への不安を抱えなくてすむ、病気の人もVR(仮想現実)を活用して外に出かける、そんな未来の街の実現を目指す。

中国の故事にあるように、「病気を治療する」も重要だが、「病気にさせない」ことの重要性がもっと喧伝され、推進されてもいいのではないかと、この記事を読んで強く思った。人の幸せにつながる施策として。武部先生の活動に期待しながら、ストリートメディカルの考え方がもっと広がってほしい。

*1:最近よく聞く“フレイル”とは、わかりやすく言えば「加齢により心身が老い衰えた状態」のこと。フレイルは、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があると言われています。インターネットでも診断チェックリストでチェック可能です。

介護職にもっとリスペクトを!

7月に入り、コロナウィルス感染も落ち着く事を期待していたが、期待通りには行かないようだ。何か月もの間、医療関係者皆さんの命を懸けた献身的なご尽力にはほんとに頭が下がり、国民すべての人が敬意を表している。その一方で、介護にあたる方々は、政府、メディアともに医療関係者に比しては注目度が少ないように感じる。

「介護職にリスペクトを」との題で朝日新聞の”オピニオン&フォーラム“に大阪健康福祉短大の川口啓子教授が投稿されている(6月3日)。団塊世代が大量に後期高齢者になる時代を迎えるに当たって、国としても、企業としても、個人としても、切実な問題であることから、ブログで取り上げることにした。

川口氏は「今でも現場は絶対的な介護士不足にあえいでいる。根底には、介護と言う仕事に対する”無意識で悪意のない見下しがあるのではないか。誰もがみんな年を取る。いずれ世話になる人たちへのリスペクト(敬意)は足りてますか?」と問題提起する。
政府は、65歳以上の高齢者がピークを迎える2040年度には、介護職を100万人以上増やす必要があると試算している。が少子化で労働者が600万人以上減ることが予想される中、介護職に対する偏見もあって、今でも介護人材養成施設の学生はどんどん減り、入学者数はいまでは定員の半分にも満たない状況(専門学校や短大などの数は08~18年の10年で20%近く減った)を考えると増員は全く困難な状況らしい(文科省は定員割れの養成施設は縮小または閉科するよう指導)。なぜ、需要はあるのに、希望者が増えないのか?
介護職を見下す世間の風潮が加速しているのではと指摘し、介護職に対して「簡単、単純。誰でもできる、学歴もいらないつまらない労働」との思い込みがあるように感じる」と言う。国が昨年改正した“入管法”に関して一部報道で「単純労働に門戸を開いた」との表現で、介護も対象業種に挙げられたが、まさにこれが世間の認識(ネットでは底辺職とも)と言う。このような認識であるため、なりたい職業ランキングにも登場せず、志望者もいない状況が加速し、大学にも介護福祉養成課程はほとんどないそうだ。不愉快な事例として、おむつを交換している介護ヘルパーが利用者に「こんなきたない仕事、娘や孫にさせられないわ」と言われ悔しい思いをしたことが挙げられている、この利用者も悪気がなく、感謝の言葉も口にするそうだが、明らかにヘルパーの仕事を見下している。
家内の母が近くの老人ホームでお世話になっている。92歳で、いたって体は元気だが、目が見えにくくなり、部屋でも物をどこにおいたか分からず、ヘルパーさんを困らせることがある。しかし、ヘルパーさんは、怒ることもなく母に親切に対応してくれる。
川口氏は、どんなことを言われても、つらくても、高齢者の声に耳を傾け、心を開かせるまでに至る行為に介護の専門性を備えた実践力が必須と言う。食事介助などいろんな局面でケアされる側のストレスを知ることも必要となる。
今の若い人たちも、いずれ両親がお世話になる時、あるいは自分の老後について、介護サービスが滞りなく提供されるなんて夢物語を描いているのではとの疑念も持つ。介護の現実に出くわしたとき、その大変さは分かる。
川口氏は最後に「介護職が不足する中、家族介護はまだまだ続く。そこで不可欠なのは愛情でも根性でもなく知識だ。老いを知り、ケアを学ぶ、それは要介護を忌避することなく、老いを肯定的に受け入れる社会のインフラとなる。そのインフラが介護の担い手をはぐくむ土壌になる」と締める。

コロナ禍で医療崩壊が大きくクローズアップされた。団塊世代が高齢化するにともない、今のままでは介護崩壊が起こるのではと危惧される。もっと介護職の重要性と、そのスキルに焦点を当て、相応の処遇をすることで官民あげての対応が望まれる。でなければ、家族介護が増え、ますます介護離職を誘発し労働人口もさらに減らすことにつながりかねない。
「介護職に是非ともリスペクトを!」が切実な思いだ。

ここまで書いて、今朝(7月6日)の日経を見ると「新状態での介護 仕事とどう両立」の記事があった。コロナ禍でデイサービスが停止したりして、苦労している方々や企業の取組が紹介されている。政府は2017年“ニッポン1億総活躍プラン”で20年代初頭までの「介護離職ゼロ」を目標に掲げたが、2018年で10万人近くの介護離職者(うち女性が8万人近い)との厚生省の調査があるとの事。そして介護を理由とする離職者は要職に就き始める40代以降の数値が高いそうだ。企業としても頭の痛い問題だが避けては通れない。

「還暦からの底力」の本で高齢者の生き方に発破!

還暦からの底力(歴史・人・旅に学ぶ生き方)」(出口治明氏著、講談社現代新書,2020.5刊)に刺激を受けた。出口氏の経歴がすごい!日本生命に入社、60歳前に退職しネットライフ企画㈱(現ネットライフ生命保険㈱)を設立、4年後に上場、社長、会長を10年勤めた後、グローバル大学で有名な立命館アジア太平洋大学の学長としてご活躍中だ。古希を過ぎてもなお大きな理想の実現に向けて頑張っておられる。本の出版も多いが、これまで訪れた世界の都市が1200以上、読まれた本が1万冊超と、ともかく年老いても「飯・風呂・寝る」の生活ではなく「人・本・旅」の行動的な生活を送られている。以下に散文的に出口氏の主張を列記する。精神論を廃し、数字・ファクト・ロジックで語る出口氏の主張は、老人に対する発破ともいえるが、将来を担う若い人、あるいは政財界に対する日本の将来を見据えた提案でもある。非常に論理的な主張に頷けるものが多い。

高度経済成長時の若者の人口が圧倒的に多い社会での「ヤング・サポーティング・オールド(若者が老人を支える)」ではこれからの社会は成立しない。「オール・サポーティング・オール(若者と老人が社会を支える)」への発想の転換が必要。所得税と住民票で回っていた社会から、消費税とマイナンバーへのパラダイムシフトを起こす事。
→生物学的な事実を踏まえると、高齢者の生きている意味は「次の世代のために働く」こと。例を挙げると、子育てを支援し、若者が子供を作りたくなる環境を整備すること
→「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」との意味を持つ「敬老の日」はやめてしまえ。存続するなら「高齢者が次の世代を健全に育成するために、何ができるかを考える」にすべき。
→介護に至る前の段階では、一番の親孝行は親に楽をさせないこと。家事や育児でもいいし、何らかの職業的なものでもいい。
年齢に関係なく「働ける人は働く」のが長寿の秘訣であり、人口減社会での生き方。
→高度成長時代の労働慣行でもある、終身雇用・年功序列・定年制度・一括採用から脱皮しないと日本の成長はあり得ない。(米国やイギリスなど諸外国では多くが定年はなし)
→転勤制度に見るごとく会社に忠実な社員つくりを優先してきた弊害を見つめなおす。グローバル企業では転勤があるのは希望者と経営者だけ。働く女性が増えてきたのに、パートナーの事情を無視し、地域とのつながりも考慮せず、会社の都合だけの転勤制度はやめ、社員の専門性を磨くための制度に徹する。
日本経済の低迷は、新たな産業社会のけん引役になれるユニコーンがなかなか生まれないところに根本的な原因がある。ユニコーンを生むキーワードは、女性、ダイバーシティ・高学歴と言う(GAFAを見てみろ!)。3点とも日本は劣位にある。産業が製造業からサービス業に急速に移行している中でユーザーの大半を占める女性が前面に出るべし(女性の社会的地位は153か国中121位)。男女差別にメスを入れなければ人口は減り衰退あるのみ。
長時間労働で、「飯・風呂・寝る」の生活では、勉強する暇もなし。日本の働きかたや社会の仕組みが日本を低学歴化している。
良いリーダーと良い政府は市民が作る。
→リーダーの良し悪しは歴史を遡れば良くわかると言う。明治維新が成功したのは、江戸時代の最後に開国を決意し、その準備を勝海舟などの精鋭を集め陸海軍の前身組織や東大の源流などを作った老中首座阿倍正弘の貢献が大きい。その流れを引き継ぎ明治維新を成功に導いたのが大久保利通。尊王攘夷が叫ばれる中で岩倉使節団を結成、大臣など政府首脳を集め2年間近い間欧米列強を訪問させた。明治維新の成功は、これを契機に開国・富国・強兵に方針転換したことによる。その後日本は開国を捨て、世界から孤立して第二次世界大戦で敗北し、国土は焼け野原となった。東条英樹の「戦争はGDPだけではない。精神力だ」と日本の3倍のGDPを誇る米国に戦争を仕掛けた結果だ。出口氏は「教養=知識x考える力」で、指導者や市民が如何に教養を持ち、歴史を見ることが出来るかであり、日本の将来もリーダー次第と言うことを歴史が語る。
「飯・風呂・寝る」の生活から「人・本・旅」への生活スタイルの変化が必須。楽しい人生を送るには、行動しなければならない。「迷ったらやる。迷ったら買う。迷ったら行く」をモットーの出口氏。誰と会い、本を読み、どこに行くかは皆さん次第。人の感性はさまざまなので、自分が面白いと思う「人・本・旅」に出会い、好きなことにチャレンジしていけばいい。還暦だろうと古稀だろうが年齢など関係ない。「人・本・旅」で得た知識、教養をもって腹落ちした行動が、人の幸せを作る。

人生は楽しくてなんぼだ」と言う。「還暦を迎えたら、古稀を迎えたら仕事はせず、のんびりしよう」は寝たきり老人への道だとも言う。年老いても人生楽しむには「人・本・旅」で学びを一生続けること。これが自分を救い、日本を救う道だと。考えさせられる本だ。