「働き方改革」カテゴリーアーカイブ

脱せるか”やる気後進国”(日経)

こんな驚くべきタイトルが2月21日の日経朝刊1面の連載中「働き方改革進化論」の記事にあった。これまでも当ブログで、日本人のエンゲージメント(仕事への熱意度)の低さの問題を指摘してきた。当記事においても米国ギャラップ社の調査で、「熱意溢れる社員」の割合は米国の32%に対し日本は6%で、調査した139か国中132位となった。しかも日本は「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合が24%、「やる気のない社員」が70%に達したとある。「バブル崩壊以降の経済低迷で、長く働いても賃金が上昇するとは限らず志気は上がりづらい。組織の生産性を高めるには、社員のモチベーションを高めることが急務」と指摘し、いくつかの企業での取り組みを紹介している。
コニカミノルタの開発拠点(八王子)。インド工科大学卒で昨年入社新人のプログラム速度には舌を巻く。松崎前社長が「異質性を取り入れないと変化に対応できない」と外国人を積極的に採用、日本人エンジニアに刺激を与えているそうだ、
パンソニックでは、希望者が別の部署で仕事を兼務する「社内副業」や、スタートアップ企業などで最長1年働ける「社外留職」制度を実施、「成長したい社員の後押しをする」。昨年12月末時点で20~50代の社員40人超が別世界での仕事に挑んでいるそうだ。
リクルートキャリアでは、データを活用して社員のやる気を測り始めている。「活動できていない社員を見つけ、活躍の場を提供する」との思いで、過去7年間の効果や残業時間、移動回数など46種類のデータを、織り込んだアルゴリズムを使って、1年後のやる気を4段階で測る。正確に測れるかどうかは分からないが、現状に甘んじていては活力を失う。起業家を輩出し、働く意欲が旺盛な人が多いとみられているリクルートでも模索が続く。

私もある時、大連理工大学の学生採用で現地面接に行ったことがある。人事が500名くらいの応募者から15名に絞ったあと1名の採用枠を選ぶ面接だった。受験者とその後懇談会を行ったが、その席で男女問わず、落選した学生から、なぜ私が選ばれなかったのか、詰め寄られたことを強烈に覚えている。格差社会における悲壮感がそうさせていると思っていたが、それだけではなさそうだ。自分を高めるために日本に行きたいとの思いを強く感じた。今、米中で知的財産の問題で交渉が続いている。意図的に盗むことは論外だが、どん欲な技術吸収力は如何とも致し方がない面もあると思われるが、このままでは日本は負けると危機感を覚えたことを思い出す。
少子高齢化問題も大きな課題だが、今いる、あるいは生まれてきた人材の質向上のための国挙げての施策も必要ではなかろうか?伊藤忠商事の元社長丹羽宇一郎氏も「仕事と心の流儀」(講談社現代新書、2019,1刊)で、“若いうちに外国に行け”と言っている。サッカーでも海外修行に出るようになってから日本は強くなった。国内でも期限付き移籍と言う制度を利用して成長させている。国内や海外の企業間での人材交流でお互いに刺激を受けながら成長するような「社員の挑戦心」を呼び覚ます風土つくりが求められている。JASIPAのような組織で相互人事交流制度を設けることも意味あることかもしれない。
<参考ブログ>
・「日本の人材競争力の世界からの評価は?(22位)」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/8944)
・アメとムチのマネージメントでは21世紀を乗り越えられない(https://jasipa.jp/okinaka/archives/8903)
・社員を躍動させるホラクラシー組織とは(https://jasipa.jp/okinaka/archives/8774)
・生産性革命(続き)(https://jasipa.jp/okinaka/archives/7820)
・「安倍首相、生産性革命の本丸はここ」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/7809)

“アメとムチ”のマネージメントでは21世紀を乗り切れない!?

従来の“成果報酬”に基づく管理は、新しい発想を生む、いわゆるクリエイティブな作業にはつながらず、むしろマイナスに作用する。「成果主義では人は動かない!21世紀の職場に必要なのは自発的な動機付け」と言うのは、アメリカのベストセラー作家ダニエル・ピンクだ。「モチベーション3.0~持続する”やる気をいかに引き出すか~(ダニエル・ピンク著、大前研一訳、講談社+α文庫)の第6刷がこの8月に発行された。ダニエル・ピンクの提言の概要を下記する。

40~50年前から広範な実証実験で検証されてきた科学的アプローチでは、ダニエル・ピンクが言う”モチベーション3.0“の内発的動機(学びたい、創造したい、世界をよくしたい)が永続的なクリエイティブ性を発揮するということが実証されているそうだ。現在多くの企業が取り入れている”モチベーション2.0“は、アメとムチ、信賞必罰の管理で、古い経営者やブラック企業幹部が大好きな営業ノルマ・歩合制を課す。これらの報酬方式は、20世紀的、昭和的な大量生産時代には大いに役立ったが、これからの先進国特有の満たされた時代は、大量生産や安さだけでなく、価値の需要が高まり、マズローの欲求5段階説の”欠乏の欲求“から“成長の欲求”への変化や“自己実現の追求”段階へ向かわねばならない。すなわち、アメとムチのような外発的な動機付けではなく、心から求める”内発的動機が求められる。価値を生み出すには、真のクリエイティブ性、新たな工夫や新しい発想、創造力を個々人に発揮してもらわねばならない。

上記で言う実証実験は、数多くあるそうだが、有名な「ローソクの問題」に関しては
http://parm.hatenablog.com/entry/2016/09/01/002000 を参照ください。また、報酬ではなく内発的動機で動く事例として、マイクロソフトがプロのライターや編集者に有料で依頼し、16年間提供してきた百科事典「MSNエンカルタ」のサービスを停止したのに対し、自主的(無償)な参加で作成し続けている世界で最大の規模と人気を誇る百科事典へと成長を遂げた「ウィキペディア」を挙げる。さらには、世界中のボランティアで作成されたリナックスなど数多くのオープンソースの存在だ。これは成果報酬で動くとする”マネージメント2.0“では説明がつかない。また“内発的動機”が”報酬“により阻害される事例としては、献血の報酬化(報酬化したら献血者が半減)や、保育園でのお迎え時間の遅れに対して罰金制度を作ると、遅れる人が期待に反して増加したことなどを挙げる。

人間の本質は“”受動的で自ら行動できない“ことではなく、この世に誕生した時には”好奇心に満ちて自発的だ“と言う。何かが原因で後天的に自発性を失っている。管理主導の”マネージメント2.0“も原因かも知れない。
ピンクは、“様々な企業での”モチベーション3.0“への取組を紹介している。グーグルでは「Gメールなど素晴らしいアイデアのほとんどは20%ルールから生まれている」という。自然食品のホールフーズでは、30日間の試用期間中に一緒した従業員による投票で採用決定する。ある素材製造会社では、チームを率いたい人は、自分と働きたい人を集めなければならない。靴のザッポスベストバイなどの有名企業も積極的に新たな改革に取り組んでいる。

当ブログでも最近の動向として“ESG投資”あるいは“SDG’s”が社会的な流れになっていることを紹介した(https://jasipa.jp/okinaka/archives/7167)。利益を最大の目的として管理する「モチベーション2.0」の限界が品質検査不正などの問題で吹き出ていることを考えると、「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す」を経営方針とした松下幸之助の慧眼にあるごとく、企業人としての本分を取り戻し、人としての自発性、自律性を重視した働き方改革を考えなければならない時がきているのではなかろうか。
別稿の「ホラクラシー組織」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/8774)の中で、仕事に対する熱意(エンゲージメント度)が、日本は139か国中132位の全従業員の6%であることを紹介した。今まさに”働き方改革“や、”外国人労働者受け入れ“が国会で議論されている。日本が真に働きやすい、働き甲斐のある国として世界にアピールできる国になれば、少子高齢化の中、人口が減少しても経済成長は約束できるのではなかろうか。

社員を躍動させる”ホラクラシー”組織とは???

9月11日日経朝刊に大々的に“「ホラクラシー」組織躍動”との記事が掲載された。サブタイトルに「上司も部下もなし」、「アトラエ 社員の熱意引き出す」とあり、関心をもって読んだ。記事のリード文を紹介する。

社長の下には役員・管理職がいて、その他多くの平社員―――・日本に限らずヒエラルキー型の組織は企業の一般的な姿だ。ところが6月、上司や部下も命令もない企業が東証1部に登場した。「ホラクラシー」などと呼ばれ、指示を受けず自分で考え自分で動く自律型スタイルだ。そんな「性善説」経営で本当にビジネスが回っているのか。

6月に上場したのは求人サイト運営の「アトラエ」(“アトラエ”とはスペイン語で“魅了する”との意)。約50人の会社で8期連続増収増益を達成している。会社法で取締役、CEO,CFOは置くが、それ以外の肩書は基本的になし。全社員が情報共有し、自ら考え自ら行動するための施策が豊富だ。ホラクラシーの弱点ともいえる公平な評価制度に関しては、「360度評価」と独自アルゴリズムを活用する。まず自分の働きを理解していると思うメンバー5人を選ぶ、5人の評価も、周囲からの評価の高い人、低い人で重み付けをし、公平性を保つ。新卒の面接は5回行い、中でも不満を外部の理由にし、できない理由を見つけようとする人は外す。

米調査会社のギャラップが17年に公表した仕事への熱意についての国際比較によると、日本で「仕事に熱意をもって積極的に取り組んでいる」従業員の比率は全体のわずか6%。調査した139か国の中で132位と最下位級に沈む(日本人の低エンゲージメントに関してはhttps://jasipa.jp/okinaka/archives/7809)。埼玉大学の宇田川元一教授は「“ヒエラルキー型“は決まったことをきちんと実行するにはいいが、イノベーションは生まれない」と言う。
以前、JASIPAの定期交流会で講演頂いたソニックガーデン(https://jasipa.jp/okinaka/archives/2399)もホラクラシー型の企業として挙げられている。“社員にとって働き甲斐のある企業”を求めて、社会は動き始めている。社員の意欲をかきたて、社員の能力を最大限発揮できる環境を作ることで、成長をし続けている企業も数多い。日経9月13日の夕刊「目利きが選ぶ3冊」で「この会社を知らずに中小企業を論じる人はもぐりだ(兵庫県立大学中沢孝孝夫員教授)」と評された「遊ぶ鉄工所」(ダイヤモンド社、2018,7刊)もすごい挑戦をして会社をクリエイティブ集団にし、増収増益を継続している。京都にある「ヒルトップ㈱」だ。いずれ紹介したい。

事業継続の活路は、“社員の自主的なやる気”であり、“人はその気になればすごい力を発揮する”ということを実証している。