「会社経営」カテゴリーアーカイブ

弱みより強みを磨こう(コマツ坂根正弘)

今年の秋の褒章で「旭日大褒賞」を受賞された現コマツ相談役坂根正弘氏が今月の日経「私の履歴書」に登場されている。以前当ブログでも紹介したことがある(http://okinaka.jasipa.jp/archives/217)が、2001年社長に就任された年の赤字8000億円を構造改革を断行しV字回復させたその経営手腕には興味深いものが多い。今朝の日経(11月5日)にも興味深い記事があった。先日船井総研の「長所伸展法」を紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1875)。同じ趣旨の話を坂根氏もされている。

私はコマツの経営者として“弱みより強みを磨こう”と言い続けた。自社の得意分野を伸ばすことで、ライバルに絶対的な差をつける。こうした考え方を“ダントツ商品”“ダントツサービス”“ダントツソリューション”“ダントツ経営”と名付けて経営の旗印に掲げてきた。

「この考え方は、受験勉強の時からそうだった」と振り返る。理数系が得意だった坂根氏は、徹底的に理数系の勉強に励み、逆に歴史のような暗記科目には興味が湧かずほとんど勉強しなかったそうだ。すなわち得手を伸ばして、それで行けるところに行くのが一番という考え方だ。経営者になってから、「捨てるべきは捨てて、強みを磨く」と言う私の考え方を戦略的と褒めてくれる人もいたが、自分としては高校生の頃から身に着いた自然な発想だった、と。固定費削減のために、コアではない事業からの撤退を決め110の子会社を畳んだ坂根氏の発言だから、非常な重みをもって心に響く。

今一度、自社の強み、自分の強みを整理してみてはどうだろうか。他社との差別化戦略の基本かも知れない。

船井流経営法の神髄は「長所伸展法」!?

日本の経営コンサルティングの草分け的存在であり、コンサルティング会社として世界で初めて上場(1985年)を果たした船井総合研究所創業者・船井幸雄氏。今年1月肺炎で亡くなられたが、その傍らに仕え、4代目の社長として氏から船井総研を任された高嶋栄氏が、創業者から学んだ経営の要諦について話された記事が「致知2014/11号」に掲載されている。

タイトルは「経営者よ、企業経営に命を懸けよ」だったが、私が記事の中で特に興味を引いたのは「船井流経営法の神髄は“長所伸展法”」との言葉だった。日本のコンサルティング会社は10名未満の組織がほとんどの中で船井総研が約700名の規模まで成長したのは、船井幸雄氏の考え方をコンサルティングのベースに置き、その軸をブラさないからだと言いつつ、その真髄は“長所伸展法”との事だ。

コンサルティングの世界は、例えばMBAなど、外資系の手法が注入されやすい業界であり、そのアプローチ方法は短所改善、問題解決型だと言う。ますます競争が激しくなる中で、問題解決型で、ある問題解決が出来たとしても、他社を凌ぐ改善策になるのは難しい。それよりも、長所を、お客さまにとってピカッと光る魅力的なものにする方が近道との考え方だ。しかし、お客様の実態を分析すると山のように出てくる短所に、長所が埋もれていることが多いため、如何に長所を抽出するかが腕の見せ所と言う。

長所を伸ばすか、短所を克服するかの判断は難しいとは思うが、より難しいのは、長所を如何に見出すかだと思う。私も講演でよく言っているが、「自分あるいは部下の強み」はなかなか出てこないが、「欠点、短所」はいくつも出てくる。「自分の会社の強みは?」というより、「自分の会社の弱みは」の方が答えは出やすい。人はとかく欠点を見ることに慣れて、長所を見ることには慣れていない。意識して長所を見る、いわゆる「美点凝視」を人材育成のポイントと指摘される経営者が増えていると聞く。「長所伸展法」は、コンサルティングだけではなく、人の育成にも通ずる話と思うが如何?

「大失敗賞」が社員の奮起を促す!

こんなタイトルの記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年9/10月号」に掲載されている。太陽パーツ㈱の城岡陽志社長へのインタビュー記事だ。記事のリード文を紹介する。

表彰と言うと、優秀な成績をあげた社員をたたえるイメージがある。しかし、加工から製品開発まで行う異色の機械部品メーカー、太陽パーツは違う。挑戦の結果として大損害を与えた社員を表彰することで、再起を促すとともに、沈んだ社の雰囲気を一掃すると言う。1980年の創業以来、不況や円高にも負けず着実に黒字経営を続けてきた同社の力強さの背景には、どうやらユニークな表彰制度があるようだ。

もちろん「社長賞」「優秀賞」というものもあるが、ユニークな表彰制度として下記のようなものがある。「大失敗賞」「中失敗賞」「小失敗賞」、「良いところ探し大賞」「はい、喜んで大賞」「縁の下の力持ち賞」、「最多提案賞」「優秀提案賞」。たんに失敗したというだけでは表彰対象にならない。大きな課題に立ち向かい、チャレンジしたと言う行為が重要だと言う。この大失敗賞をもらった人が、奮起して、海外拠点作りに手を挙げ、上海に一大生産拠点を作るのに大いに寄与した事例が紹介されている。ものを頼まれた時に「はい、喜んで」と答えて積極的に仕事を引き受けた人に贈る「はい、喜んで賞」、日々の朝礼で行う「良い所探しスピーチ」で沢山褒められた人に贈る「良い所探し賞」など、ゲーム感覚でパート従業員も含めて表彰している。

今、日本企業の弱点として「創造性」の弱さが指摘されている。しかし、日本人に創造的能力が欠けているとの指摘は当てはまらないように思う。その能力を、何かが抑えているとすれば、「失敗を許さない風土」そして、「失敗すれば降格、左遷などの人事制度」ではないだろうか?上司―部下の関係を振り返ってみても、失敗を恐れずチャレンジさせる風土はなかなか作れていないと思われる。そんな風土を打ち破り、社員の創造力を喚起するための一つの取り組みとして、太陽パーツの取り組みは参考になるのではなかろうか。会社全体でやることは難しいかもしれないが、企画などの部門に限定して実行するのも意味あるのではと思う。しかし、制度をまねしてもなかなかうまくいかないことも考えられる、太陽パーツが成功しているのは、「まず社員を信ずること、リスペクトする」という基本が徹底されている。その上で、上記のような制度を実施することで、さらに会社と社員の間でより固い信頼関係が醸成されるという好循環が出来ていることだ。だから、太陽パーツはバブル崩壊時も、リーマンショック時も売り上げを落とさず、創業以来黒字を継続できている。

これからは、付加価値で勝負しなければならない時代、「失敗を恐れぬ風土創り」を今一度考えて見てはどうだろうか。