豊かな山梨県八ヶ岳の麓にあるスーパー「ひまわり市場」は、地元の人のみならず、県外からも大勢の人が詰めかけ、客足が途絶えることのない人気店だ。もともと赤字続きで倒産寸前だったという同店を、ユニークな取り組みと、愛にあふれた経営で再生に導いた那波秀和社長に、その改革の軌跡と共に、皆を笑顔にする経営のヒントを語っていただいた。
これは、「致知」11月号に掲載の記事「すべての人を笑顔にする経営を目指して」のリード文だ。甲府の魚市場に勤めていた時、ひまわり市場の先代社長に会い、誘われるままに32歳の時転職、すぐ店長を命じられた。が、先代社長は業績好調の別事業に集中し、スーパー事業は赤字でもいいとの雰囲気で、社員はやる気もなく、若造の言うことも聞かないような状態だった。そのうち、好調だった事業もうまくいかず、倒産の危機にも直面。安売りなど必死に対策をいろいろうつが上手くいかず、お客様に商品の価値をきちんと伝え買っていただくにはどうすればいいか、高級食材を扱う成城石井のバイヤーに教えを請いに飛んで行った。そして、現在の好調を支える“ユニークな取り組み“に辿り着いた。
店長自らの”マイクパフォーマンス“だ。「今ちょうどカツオの刺身が出ました!」「いま取り立ての枝豆入りました!」など朝から夕方まで時間があれば、マイクでお客様に情報を提供している。以前は懇意な問屋に仕入れを任せていたため、品ぞろえが偏っていたが、仕入れ先を広げ多様な商品を揃えたことから、お客様に他のスーパーでも見る”ポップ“で商品紹介していた(他と違って、例えば台湾が好きな社員が仕入れたバナナには「台湾が好きすぎて台湾へ旅行に行ってしまった」のような、背景にある物語を伝えることを意識)。がポップはそこを通ったお客さましか見ないことから、多くの人に情報を伝えるためにマイクパフォーマンスを考えたそうだ。
マイクパフォーマンスは、商品の魅力を伝えるだけではなく、それを仕入れた社員についてもありったけの美辞麗句で持ち上げる。毎朝朝礼でも社長の思いをぶつけるが、「この食材なら山梨で一番の目利きになろう」とか、社員がマイクパフォーマンスに応えようとし、自発的に本当に良いものを仕入れてくれるようになったと言う。マイクでは嘘はつけないため、品質を重視する風土も出来上がる。
結果として業績が上向き、ボーナスも出せるようになり、働きかたもブラックイメージから、完全週休2日制や育休制度、住宅手当も出せるようになり、繁忙期以外は8~9時間で家に帰れるようになった。那波さんは「社員が楽しく活き活き働ける環境を作れば、お客さんも満足して、自然と売り上げも上がって、頑張った分を社員に返せば、さらに一生懸命に働いてくれるようになる」と言う。さらに「会社と言う組織は、皆が仲間として信頼しあって働き、お客さんや取引先も含めて、皆が幸せになるために先人が考え出した仕組みだと思うんです。その会社が人を追い詰めるような存在になってしまってどうするんだ」と。
来年のNHKの大河ドラマに渋沢栄一が登場する。「論語と算盤」の精神がまさに、八ヶ岳の麓で花開いている。