新3本の矢「1億総活躍社会」!?


安倍政権が新たな看板政策として掲げる「一億総活躍社会」に対しては賛否両論があるようだ。その実現に向けた国民会議の民間議員に起用された元アイドル歌手菊池桃子さんが10月29日の初会合で、安倍晋三首相らを前に「『一億総活躍』の定義はなかなか理解されていない」と指摘した。そして「社会の中で排除される人をつくらず、すべての人に活躍の機会があるという意味で『ソーシャルインクルージョン』(社会的包容力)という言葉を使ったらどうか」と提案。首相からも「分かりやすい説明だ」と褒められたとのニュース記事があった。菊池氏は、アイドル歌手としてのイメージが強いが、第一線を退いた後で大学院に通い始め、2012年からは「雇用政策を踏まえた人々のキャリア形成」を研究する大学教授となった。キャリア形成をとりまく社会構造に問題意識を抱いたきっかけは、33歳で出産した長女が病気の後遺症でハンディキャップを持ち、義務教育である小学校でさえ探すことが難しかったこと。長男は何の問題もなく就学できただけに疑問がわき、今の道を歩みはじめたそうだ。

先週10日の朝日新聞朝刊「わたしの紙面批評」で2008年末「年越し派遣村村長」をやった湯浅誠氏が「1億総活躍社会」におけるメディア(朝日新聞)の取り上げ方に対する問題提起を行っている。名目GDP600兆円などの新3本の矢の実現可能性はともかく、安倍総理や加藤担当相は「若者も高齢者も、男性も女性も、困難な問題を抱えている人も、また難病や障害を持った人も、みんなにとってチャンスのある社会を作っていく。そういう日本に変えていかなければならない」と推進室発足式で挨拶したことが紹介されている。即ち二人が強調しているのは社会や環境を作ると言う条件整備の重要性であり、個人をターゲットに「さらに頑張ってもらう」とは言っておらず、障害者や難病患者も含めて職場だけではなく地域や家庭での「活躍」も想定したものと湯浅氏は言う。まさに源流を欧州とする「ソーシャルインクルージョン」(社会的包摂)の理念であり、社会的に排除されかねない人たちを包み込めるように社会全体が変化していくという、社会の自己変革にあるとする。「1億総活躍社会」と言う言葉自体は目新しいが、自民党・民主党を問わず、ここ10年近く歴代政権が一貫して主張してきた「全員参加型社会」であり、朝日新聞も「社会的包摂」は大切にしてきた理念であることを考えると、総理や大臣のこうした発言をもっと大きく取り上げて、実際に打たれる政策がそれに沿うものになるよう政権に促すことではないかと湯浅氏は提言している。

「名目GDP600兆円」や「出生率1.8」とかの目標を見て「生めよ、増やせよ」との経済成長に重点を置いた考え方に息苦しさを感じる人も多いと思うが、上記のような社会を作っていくことと考えれば、うなずける面も出てくると思われる。グローバル化人材育成、2020年のパラリンピックの活性化(障害者への偏見問題)、難民問題、女性活躍など、同質性を重視する日本特有の課題も多いと思われる中で、障害者や貧困層、外国籍の市民、病人、老人、幼児など、社会の一員として、そのままでは戦力になりにくい人々を援助し、サポートして、すべて成員を社会の一員として「包摂」(インクルード)して行こうとする考え方を如何に普及させていくか、今度こそとの思いで安倍政権の本気度を見守りたい。

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