「掃除道」を説き日本だけではなく海外にも普及させておられる鍵山秀三郎氏に関してはこれまでも何度か当ブログでも紹介してきた(http://okinaka.jasipa.jp/archives/432)。私が愛読している「致知」や「PHP松下幸之助塾」などにも、巻頭言や連載物など鍵山氏の記事が目立つ。「致知2015.11」に、自らの人生を振り返り、若い経営リーダーに向けて語った講話が「後から来る者たちへのメッセージ」とのタイトルで掲載されている。
“凡事徹底”“コツコツ”などの言葉を使い、「日常の本当に些細な、他人から見たらどうでもいいようなことであっても、それをコツコツと積み上げていく、これが皆様方の人生を変えていく」と言われ、82歳になられる今でも精力的に、掃除道(トイレ掃除)をひろめられている鍵山氏。その人生はまさに「山あり谷あり」の多難な人生だったが、その苦労があったからこそ、今の自分はあると言われる。幾多の苦難の中で、その都度「気付き」を得ながら成長して行かれた経緯にも触れられている。
もともと怠惰で、無気力で、ただ遊ぶことしか能のない少年時代、戦争時の学童疎開が一大転機となった。学童疎開で栄養失調になり視力を失うほど厳しい生活を強いられた時、初めて親のありがたさを知り、忍耐心を身に付けた。その忍耐心を持って20歳で東京に出た時の就職先の労働環境も、今の時代からは考えも及ばないほどの過酷な労働環境で、自分の能力を遥かに超えた理不尽なことを次々と命じられ、何度も死の危険を感じたそうだ。ここから下記格言が出てくる。
人間と言うものは、人から愛されたり、守られたりしていることに対しては極めて鈍感です。逆に、自分の意に沿わないことに対してはとても敏感に出来ている。
自分の能力を遥かに超えることを求められる環境に身を置いたときに、初めて人間は成長していく。
鍵山氏は、自分に学歴も、知識も、技能もなかったからこそ、ここでやるしかないと覚悟を決め、我慢できたと言う。そして成長できたと言う。要は、今置かれた環境に向き合い、苦難にも耐え、精一杯努力することで成長することが出来たということで、苦労から逃げるなと言われている。そして、“凡事徹底”、些細なことにも全精力を注ぐことが自分を成長させることだと言う。
人間は自分の得にならないことをやらなければ成長できない
今も朝早く3時間近く近所の講演の掃除と草刈りをやられている。その草刈もどうすれば綺麗に抜けるか力の入れ加減を意識しながらやり、抜いた草はきちんと束のように揃えて並べている。鍵山氏が草取りをした後は、他の人のものより一段と綺麗と皆さん驚かれるそうだ。どんなことも工夫しながらきっちりやり遂げることを徹底されている。鍵山氏は、どんな困難に遭われても、笑顔を絶やさないそうだ。他人(社員)の気分を害する事を極力避け、周囲の人に心配を懸けぬよう、以前は笑顔で接することが苦手だったが、努力して笑顔で過ごせるようになったとも言う。トイレ掃除は今でも全国を回って普及活動をされているが、会社や自治体などたくさんのところで運動の輪が広がり、これまでトイレ掃除をしてきた学校の数は700校を超える。
自分に与えられた力をいつも人を喜ばすことに使おうと心掛けて行けば平穏な人生を歩むことができましょう(「致知2015.8」巻頭言より)
幾多の逆境を乗り越え、このような心境になって、自ら範を示しながら、人の幸せをのぞんで、その信念を広めんとされている鍵山氏に、感動さえ覚えてしまうと同時に、自分の人生を顧みて、その甘さに反省し、これからの余生の生き方に思いを馳せたい。