日本創生会議(座長・増田寛也氏)が今年の5月に発表した衝撃のレポート「消滅可能性都市896のリスト」。「消滅可能性都市」とは、2010年から2040年までの間に「20歳から39歳の女性」が5割以下に減少する自治体の事を指している。生まれる子供の95%はその年代の女性が出産していることから、若年女性の人口が減少し続ければ、その自治体の将来的な人口減少は免れないとの判断だ。2010年時点では1799の自治体が存在した為、実に5割近い自治体が消滅危機にあることになる(「致知2015.1」意見記事「地方消滅の危機(増田寛也)より」。
もともと政府は2003年に「少子化社会対策基本法」を制定したが打開策を打ち出せず今に至っている。今年5月にショッキングな増田レポートが出て、政府は重い腰を上げ「50年後に人口1億人」との数字目標を戦後初めて掲げた。しかし具体策の進展はなかなか見られない。19日の新聞に、「政府の人口減対策と地方創生の方針となる”長期ビジョン“と、2020年までの施策を盛り込んだ”総合戦略“の原案が掲載された。それによると、「50年後の2060年に総人口1億人」が確保されるためには現在の出生率1.4を、2030年までに1.8まで引き上げ、2040年には2.07との数値を提示した。そのためには「東京一極集中の是正」「地方への人材還流と人材育成を2020年までに10万人」などの数値目標が盛り込まれている。そして政府は、地方に本社を移した企業への支援や、地方に就職する学生への支援策などを打ち出そうとしている。
12月17日の日経朝刊17面「大機小機」に「人口減少は怖くない」とのコラム記事があった。記事では、日本が先進国のなかで突出して人口密度が高いと言う。そして「8000万人~9000万人程度」が居心地が良い感じもする、と。そのためには、効率的な国土・社会の運営へ思い切った構造転換を進めていくべきと提言する。その際、人材が成長のエンジンで、ハード産業が高い付加価値を生み出すとの発想から抜け出すことが必要と指摘する。そのために、地方の中核都市のコンパクトシティ化と相互のネットワーク化が、エコ社会の推進につながり、人が住まなくなった土地で生産性の高い農林水産業を展開できると主張する。まずは都市への人の集積でソフトオパワーを磨き、地方に生まれたスペースを活用して国際レベルの1次産業を育成する。
私も地方(姫路)に24年間勤めた後、転勤で初めて東京に住むことになってほぼ20年。東京と地方の差が住んでみて初めて分かった。第一に、データショーやセミナーの質と回数、そして参加の容易さ・効率性だ。データショーも大阪で行われていたが、出品の豊富さはけた違い。第二に、人の多様性。人との交流による刺激の多さ。人材育成の観点からすれば、圧倒的に地方より東京が有利だ(東京にずっといる人はその有利性を活かしていないことも多いが)。私も東京に来てからの人脈は、地方にいる時とは比べようのない位増え、今もその恩恵を受けている。当初は東京に住むことに拒絶感があったが、いざ来てみると、なぜもっと早く来れなかったのか悔やみきれないことに。
しかし、子どもを育てる環境は、地方が優れている。マンションなどと違ってコミュニティがあり、隣近所の付き合いを通じて、子どもの面倒も見てもらえる。コマツの坂根相談役は、少子化問題は東京独自の問題と言い放つ。人間らしい生活は、圧倒的に地方が優れている(便利な生活は東京だが)。
ただ単に東京一極集中は否定するのではなく、すべての自治体を救うのではなく、まずは日本をどんな社会にしていくのか、と言う像が必要と思う。適度な人口で、人材育成に焦点をあて、コラム氏に言うような、「中核都市のコンパクトシティ化と相互ネットワーク化」を目指すというのも一つの案だと思う。その上で、都市の人材育成環境の整備問題や、少子化問題などに焦点を当てた国の具体的な支援策を策定する(バラまきではなく)とのプロセスの中で国民的納得感をえることではなかろうか。難しい問題ではあるが。