“フェアトレード”製品が世界的に拡がっている!

前稿で「社会的インパクト投資」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/4496)を紹介した。同じ日経朝刊1面の連載記事「新産業創世記~課題に挑む4」(3月3日)にイギリスを中心に広がりつつある消費者の消費性向「フェアトレード」について掲載されていた。同記事の中に以前当ブログでも紹介した「人を幸せにする経営=コンシャスカンパニ―」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1718)米国自然食品スーパー、ホールフーズ・マーケットも紹介されていたので興味を持って読んだ。

世界で消費者の行動が変わってきた。先進国では必要なモノは満たされて物欲は薄れ、むしろモノを減らして暮らす生き方に注目が集まる。物を買うにも、誰かの犠牲の上に成り立った「安さ」より、自分の価値観に照らし、正しいと思える商品を選ぶ人が増えた。

また、下記のような表現もある。

消費者が自らの信条に沿った製品を選ぶ動きが広がっている。環境にやさしく、途上国の持続的な発展につながるフェアトレード。

この事例として、岡山にあるカジュアル衣料大手ストライプインターナショナルが紹介されている。該社はファストファッションで成長したが、その担い手は新興国の工場だ。2013年にバングラデシュで縫製工場が倒壊し千人以上が亡くなる事故が発生。劣悪な労働環境が明るみに出ると批判の矛先はアパレル産業に向った。そこで、2014年に該社は「ビジネスモデルを変えるしかない」と腹を括り、「着る人も、作る人も幸せになる服」との理念の下、児童労働や強制労働、公害のない工場とだけ取引することにし、中国を含む海外の工場(1000社以上)を綿密に精査し、取引工場を選んでいる。ブランド名は「KOE」。まだ日本では浸透していないが、「フェアトレード」が拡がる欧米で普及を目指している。

ホールフーズ・マーケットは、株主価値の最大化を信奉する米国で、それとは一線を画し従業員の幸福、共同体や環境への配慮を優先する企業として紹介されている。価格は他のスーパーよりは2~3割高いが、理念に共鳴した消費者が支持する。

フェアトレード認証製品(国際フェアトレードラベル機鋼(FLO)による認証)の世界市場は約7200億円で、10年で7倍強に拡大したと言う。スターバックスは倫理にそぐわない調達先から購入しない方針を表明。ネスレも調達先に社会福祉や医療も提供する。日本市場は約80億円で、世界市場の1%ほど。先進校である英国の30分の1、ドイツの12分の1にとどまる。しかし、日本でも震災を契機に世界とのつながりを意識し、生産地を気にする人は増えているという。イオンも2004年にフェアトレード商品の販売を始め、全社の取り組みに拡げているそうだ。大量消費社会の申し子のイオンも変わろうと動く。

「社会的インパクト投資」や「フェアトレード製品の販売」などでイギリスが積極的に動いている。原発や武器輸出でGDPを伸ばすことよりも、GDP(消費)の中身(質)での競争が、新興国も含めた地球規模の発展につながるのではなかろうか。

“社会的インパクト投資”が世界に広がる???

2月29日の日経朝刊1面「新産業創世記~難題に挑む2」の記事の中の一文に「“社会的インパクト投資”が世界に広がる」とあった。2013年のG8(主要8か国首脳会議)で英キャメロン首相が普及を呼びかけ脚光を浴びた言葉らしい。インターネットで調べると定義は

教育や福祉などの社会的な課題の解決を図ると共に、経済的な利益を追求する投資行動

とある。記事では、塩釜市の「愛さんさん宅食」を紹介している。東日本大震災で身寄りを亡くしたり、家族が県外に働きに出たりして残された高齢者を支えるために食事を宅配する2013年に立ち上げた会社だ。50人の従業員はシングルマザーや障害者。従業員の訓練や、調理や配送の効率化を行い、採算ラインに乗ってきたと言う。同社を支えるのがビジネススクール大手グロービスの堀義人代表が立ち上げたファンドだ。「社会に与える前向きなインパクトと事業収益の両方を考えた。」と言う。

利益成長のみを追うベンチャー投資とも、見返りを求めない寄付とも違う。前稿で紹介したインドの「ナラヤナ・ヘルス病院グループ」のビジネスモデル(http://okinaka.jasipa.jp/archives/4478)も「インパクト投資」になるのだろう。昨秋、英ロンドン市場に上場したザ・ジムグループ。英国内の低所得地域に約70のフィットネスジムを運営する。一般的なジムの4分の1と言う格安料金と、定休日なしの24時間営業という利便性で低所得者に健康維持の手段を提供している。会員数37万人超、時価総額約410億円の企業に育った。インドで、農業や教育など貧困層向けビジネスに投資するアビシュカール(ムンバイ)も躍進している。CEOビニート・トライ氏が100ドルで始めた会社が今ではシスコシステムズなど役50社から200億円強を調達する企業となった。世界でのインパクト投資の規模は約7兆円弱、平均収益率は年6.9%、2019年には57兆円の規模に拡大するとの予測もあると言う。

このようなインパクト投資が広がる背景は、前稿ハーバードの事例研究テーマでも述べたが、リーマンショック後の投資家の意識変化で、「20~30代の投資家は資金の使い道に社会的意義を求めるようになった」とJPモルガンでインパクト投資を率いるトミー・ぺル氏は言う。さらに英有力投資家は「世界ではこれまでになく貧富の格差が広がっている。だが政府にはこの問題を解決するリソースがない」と。英国では、逼迫する財政のもとで、貧困層支援などの社会福祉事業をいかに効率的かつ効果的に実施するか、という問いへの答えとして政府が積極的にインパクト投資を推進しているそうだ。

インターネットで調べると、日本においても「G8インパクト投資タスクフォース日本国内諮問委員会」が2014年に設立されている。複雑化する社会課題への対応や財政改革は喫緊の課題であり、インパクト投資の手法を活用した、より効果が高く効率の良い公共サービスを推進するための活動を目論んでいる。

ハーバードでいちばん人気の国・日本

2月23日の日経朝刊17面コラム「一目均衡」に「“ソーシャル”が不要になる日」のタイトルの記事が目に留まった。1月にインドで株式上場したナラヤナ・ヘルス病院グループのビジネスモデルがハーバード大の教材になっていることが書かれていた。「新興国の社会的、経済的な問題を起業家の発想で解決する」と言うのがその教材のテーマだ。当該病院はマザーテレサの主治医でもあったデビ・シェティ氏が2000年に設立し、業務の効率化により米国の3%強の料金で心臓手術をし、貧しい人にも健康になる機会をもたらしたそうだ。しかもシェティ氏は慈善家ではなく、あくまで経営者だと言う。「世界で最も深刻な問題は最大のビジネスの機会にもなる」とのプレートが執務室には飾られている。この事例を受けて、ウォール街に大量の人材を送り込んだハーバード大では、リーマンショックの反省を込めて、社会を敵に回す経営が如何にもろく、逆に社会への貢献にこそ収益の機会があることを教えていると言う。日本には近江商人の「三方よし」の理念や、渋沢栄一の「公益に心を用いんことを要とす」の心得など、社会との共存をよしとする風土があり、米国の新しい資本主義のお手本に日本企業が成る可能性を説いている。このコラム子(編集委員梶原誠氏)は、企業は社会に役立って当然となって、「ソーシャルビジネス」と言う言葉が陳腐化した時、新たな資本主義の形がより鮮明になるとし、期待感を表明している。

時同じくして、「ハーバードで一番人気の国・日本」と言う本がPHP新書として出版された(2016.1.29刊)。著者は佐藤智恵氏で以前当ブログでも紹介したが、「世界のエリートの失敗力」と言う本を出版された方だ(https://jasipa.jp/okinaka/archives/555)。今回は、上記ハーバード大学経営大学院の教授陣を直撃取材した結果、学生が2年間で学ぶ事例研修(議論形式)250本の中で日本の教材に対する学生の評価が高いと言う。上記コラムと同じく、2000年代前半の金融不祥事、2008年のリーマンショックを経て、欧米の金銭至上主義に対する反省から、日本に学ぶことの多さが見直されていると言う。年1回の研修旅行も、定員100名の日本への旅行がわずか数分で埋まってしまうほどの人気だそうだ。必修科目の事例ではトヨタ、楽天(社内英語公用語化)、ANA,ホンダ、JAL,アベノミクス。選択科目では、明治維新と岩崎弥太郎、トルーマン大統領の原爆投下といった歴史的な事例から、日本のIT企業であるグリーのアメリカ進出、「新幹線お掃除劇場」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/315)などの最新事例まで幅広く取り入れられている。日本でもあまり知られていない東日本大震災時の福島第二原子力発電所の事例も注目を浴びている。福島第二原発も、一つ間違えればメルトダウンを起こす恐れがあった中、増田所長と作業員のチームワークで、「冷やす」ための電源を喪失し、それをカバーするために200人総出で2日間不眠不休で重さ1トン(200m)のケーブルを9km引き直して辛うじてメルトダウンを回避できた。増田所長のリーダーシップ(混沌とした中での情報共有)を褒めたたえ、これを受講した学生は、社会に出て危機に遭遇した場合この事例を思い起こすことになるだろうと言う。

日本人が気付いていない日本の強みをハーバード大学の教授に聞くと、答えは下記だ。

  • インフラ技術:電車の時間の正確さ、電車、バス、タクシーなどの新しさ、メンテナンスの行き届いた橋などのインフラ設備
  • 人的資本:高い教育水準、分析的な特性、美意識・美的センス、人を大切にするマインドと改善の精神、環境意識と自然観、社会意識

しかし、日本が「快適な国」でありすぎるジレンマを指摘する教授もいる。グローバル化、イノベーションの創出、若者と女性の活用の3点で課題があると言い、「世界の人は日本をもっと知りたいと思っている。内向き志向を変え、もっと海外に出かけて日本の良さを拡げてほしい」と日本企業の熱烈なファンとして、熱いメッセージを送る。

日本人の良さが「グローバル化」の名のもと失われつつあるとの懸念を持つ方も多いと思われるが、世界は日本の良さを認め、それを見習いたいと思っているのだ。以前紹介した「コンシャスカンパニー」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/1718)化の流れは、米国のこれまでの金銭至上主義からの脱皮の動きだ。折しも、美瑛の「哲学の木」が切り倒されたとの悲しいニュースがあった。日本の誇るべき特質を大事にしたいものだ。

冲中一郎