人類と地球の大問題~真の安全保障を考える~(丹羽宇一郎)

標題は今年1月にPHP新書として発刊された本の題名だ。伊藤忠商事社長、内閣府経済財政諮問会議議員、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任、2010年には民間初の中国大使に就任。その間、世界各地を訪問して、気候変動や食糧、水、エネルギー問題の差し迫る実態を見聞した結果に基づいて、50年先の世界の未来、日本の将来に警告を発している。

冒頭で、「本書で、私は”50年後の世界“について考えたいと思う」、そして「食料にしろ、エネルギーにしろ、海外からの輸入なしには生きていけない日本は危機への耐性が最も低い国の一つと言える」と。さらに「近年日本の経済界は目前の事ばかりに目を向けて、50年、100年単位の射程で社会を考えることが失われてきたように感じる。地球温暖化にしても食糧危機にしても、やがては間違いなく自らに降りかかることである。未来を見据えて、社会がどうあるべきかを精査、検討したうえでメッセージを発信するのは、経済人の重要な役割ではないだろうか。経済人ばかりではない。政治家もメディアも有識者も、50年後の日本の姿について、国民にわかるように語ろうとしない。(中略)その結果、日本が将来に向かう姿は”海図なき航海“を続ける船そのものと言える。」とも。

地球温暖化は着実に進んでいる。台風や豪雨による自然災害は世界的に増えている。日本での熱中症患者も1994年から急増している。温室効果ガスの中でも7割を占めるCO2はなかなか分解せず、寿命は300~500年と言われている。メタンも16%を占め、CO2の約25倍の温室効果があると言われている。しかし寿命は12年強のため、やはり今後も含めて温暖化を促す影響は圧倒的にCO2が大きい。大気熱を吸収する森林、海、土壌ももはや限界にあるそうで、これらが、限界にきて熱を放出するようになれば大変なことになる。COP21で合意した温室効果ガス削減目標を各国で達成したとしても、上昇を2℃以下とする目標には届かないと言う。ニューズウェーク紙は昨年、今世紀末までに2℃を超えて上昇すれば現在の文明は立ちいかず、今の子どもたちが生きている間に東京、上海、ニューy-ク、ロンドンなどの沿岸都市は人が住めなくなると警告している、

水に関しては、温暖化による干ばつの影響もあり、現在のペースで水の消費が続けば2030年位は必要な淡水が40%不足し、今世紀半ばまでには、最悪の場合60ヶ国70億人、最善の場合でも8か国の20億人が水不足に直面することになると言う。水資源を最も多く利用しているのは農業用水(7割)で、世界の人口増加に伴い2007年から2050年までに世界の農業生産を世界全体で60%増やさなければならない。牛や、穀物などを育てるのに水が多量に必要になる。例えば牛肉1㎏に穀物11㎏と水20.6トン、小麦1㎏に水2トンなどのように。食糧を輸入に頼る日本で、全ての食料を自前で作ろうとすれば琵琶湖の2.7倍の水が必要になると言う。中国や米国の地下水も枯渇が懸念されている。

ほとんど輸入に頼っている日本のエネルギー問題も将来を考えれば大きな懸念材料だ。もともと石油、天然ガス、石炭、ウランなど可採年数は後50年~100年とも言われている。今から水や地熱を主体に再生エネルギー開発技術に本腰を入れなければならない理由だ。

ともかく現在72億の世界人口が2062年には100億人を超えると言う。それもアフリカやアジアの後進国で大幅に増えると言う。食糧や水、エネルギーなどの面で先進国と、後進国の格差がますます広がり、テロや戦争がますます頻発することが懸念されている。

「今どの国も戦争や紛争に労力を費やしている余裕はない。中でも自給自足では生きられない日本は、自由貿易を前提に“平和と友好の国”として、世界のあらゆる国と協調関係を結ぶ。それは未来を生き抜くための大前提である。」と丹羽氏は言う。14億人を抱える中国においても同じ問題を抱えている。日本は中国をはじめ米国と欧州と共同で「地球の生命線を守る国際フォーラム」の結成を提唱してはどうかと提言もしている。50年後、100年後の世代のためにも“目前させ良ければ”との考えを改め、将来の危機に関する議論をもっと沸騰させるべきではなかろうか。

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“深層対話力”で仕事の効率UP!

最近、囲碁の世界で「人工知能、トップ棋士破る」のニュースが連日報じられている。米グーグルが開発した「アルファ碁」と世界トップ級のプロ棋士、韓国のイ・セドル九段との対戦で「アルファ碁」が勝利とのニュースだ。チェスや将棋に続き、今まで一番難しいと言われていた碁で人工知能が勝ったから大騒ぎだ。カギとなったのは深層学習(ディープラーニング)とか。「人の脳内で進む情報処理を真似てデータに潜む特徴を自力で見出す」技術との説明がある。人間の直感をビッグデータを基に言い当てる、その精度が今回の囲碁で実現できたとなると影響力は大きいとも思える。「ロボットの脅威~人の仕事がなくなる日」(マーティン・フォード著、日本経済新聞社刊、2015,10など、世間もますます騒がしく成るだろう。我々人間も計算機に負けない実力をさらに磨かねばならない時代になる。

「仕事の技法」(田坂広志著、講談社新書、2016.1では、身につけば仕事力が圧倒的に高まる「対話の技法」について書かれている。仕事の根幹は「対話」であり、その対話には1種類あると言っている。

  • 表層対話:言葉のメッセージによる対話
  • 深層対話:言葉以外のメッセージによる対話

言葉以外のメッセージを如何につかむか、これが仕事力に飛躍的UPの根幹と言う。15日の日経朝刊1面「アジアひと未来」で「パパイア売りから420億円企業」との題でインドネシアのハイフラックスCEOオリビア・ラム女史が紹介されていた。マレーシアの村に孤児として生まれ、電気も水もない貧しい生活の中で、成績は優秀で進学し、商売を夢見ながら、路上でパパイアを売っていた。その時、客に声をかけ相手の望みを察する術を身に付け、その後ウェートレスや家庭教師で稼ぎ大学まで行ったとある。この術こそ、田坂氏の言う「深層対話力」ではないかと思う。

「深層対話力」は上司、同僚はもちろん、お客さまとの関係においてもより重要になる。これを身に付けるためには、「反省の習慣」が効果的と言う。商談の帰りに、「A部長の反応と心の動きは?」「B課長の質問にあの答えは正しかっただろうか」「C担当のあの質問の背景には、どんな思いや考えがあったのだろうか」・・・。たしかに、このような反省を習慣づければ、相手との対話をより注意深く行うようになり、深層を探るようになっていくのだろう。よく私も、「お客さまとの飲み会などで、お客様のグチなどにも注意せよ」と言っていたことを思い出すが、お客様の本音は正式な場での言葉だけでは知ることが出来ない。しかし、「深層対話」には、落とし穴もあると田坂氏は警告する。「相手に深い敬意を持って接する」ことをしなければ、相手を意のままに操ろうとしたり、無意識の傲慢さに陥りかねない。

「受託開発からサービス提供」型への脱皮を目指すIT企業にとって、お客様自身の悩みや課題を聞き出すことは非常に重要だ。その意味でも田坂氏の言う「深層対話力」を磨くために、「反省の習慣」を考えて見てはどうだろうか。

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都内有数の進学校都立小山台高校がなぜ強くなったのか(高校野球)

人間学を学ぶ月刊誌「致知」の「致知随想」記事は、信じられないような苦難を経ながら志を忘れず成功した人たちの物語が毎回綴られている。いつも真っ先に読んでいる。今回2016.4号に「大輔が残したメッセージ」と題して、東京都立小山台高校野球部監督福島正信氏が投稿している。2014年の春の選抜高校野球に21世紀枠だったが小山台高校が出場した時は私もびっくりした。新日鉄住金にも幹部など小山台高出身者が数多くいる。

「大輔」は、2006年当時2年生で唯一のレギュラーだったが、先輩と一緒に新しいバットを買いに行ったその帰りに、当時マスコミを賑わせた自宅マンションのシンドラー製エレベーター事故に巻き込まれ帰らぬ人になった。何事もコツコツと一生懸命取り組み、誰からも信頼される選手だった。当時は、小山台は都内有数の進学校で、練習スペースも時間も限られており、甲子園はおろか上位進出さえ難しいチームだった。あの時、大輔にバットを買いに行かせなかったら・・・、事故後監督も生徒も悔しくて悲しくて涙が溢れ、練習もままならなかった。その時、再び前を向いて一歩を踏み出す力を与えてくれたのが、大輔のお母さんだった。「皆さん、悲しい顔で練習をしていたら大輔が泣きます。だから笑顔で練習してくださいね」との手紙。そして大輔の野球日誌の「エブリデイ・マイ・ラスト」「1分1秒悔いのないように生きる。精一杯生きる」などの言葉に、全員「泣いてはいけない。大輔の為にも笑顔でプレーしよう、毎日を精一杯生き、絶対に甲子園に行こう」と、チームとしての絆が深まり、必死に練習に励むようになったそうだ。試合のたびに赤とんぼがベンチに飛び込んでくる話(大輔の変わり身)も織り込みながら、何事にも一所懸命取り組み決して手を抜かない、大輔が教えてくれた生き方が、小山台高野球部の伝統的精神として根づき、目に見える結果として表れるようになった。そして2009年と2012年の夏の東京大会で準々決勝まで進出。そんな中で、2014年1月春の選抜高校野球に21世紀枠として選ばれたとの報が飛び込んできた。結果は初戦敗退だったが、その悔しさを胸に、21世紀枠選出にふさわしい実力、≫品格を備えたチームになろうとあらためて誓い合うことが出来たと監督は言う。実際2015年夏の東京大会でも準々決勝まで進出している。

何よりもこの記事に驚いたのは、「人間、志を持つことによって、こうまで変わることが出来る」のかという事。リーダーの役割にも注目した。大輔のお母さんの言葉をきっかけとして掴み、大輔の遺した言葉をもとに、「何事もコツコツ努力する先に光がある」と選手たちの心の持ち様や、日常の基本姿勢の大切さを、以前にも増して強調するようになり、監督との信頼関係がより増幅し、世間も驚く成長を見せた。

同じ目標に向かって、みんなが一致してあるべき方向にやる気が集中すれば何でもできる」、このことを実現した小山台高校野球部のみんなは社会人になっても、目標に向かってあきらめず頑張れることと思う。小山台高校野球部頑張れ!

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冲中一郎