働き方改革で“働きがい改革”を!

今、コロナ禍が吹き荒れる中で、テレワークが拡大している。これを契機に、多様な働き方改革を推進することは、日本の経済にとっても意味あることと思える。しかし、慣れない環境の中、今まで以上の成果を出せるかどうか、克服すべき課題も多いと思われる。
4月2日の日経社説で「離れても信頼高める働き方に」のタイトルの記事が目に留まった。
一つは「コミュニケーションの問題」。以心伝心で空気を読む日本的な手法は通用しない。簡潔な言葉で明確に伝える技術をみんなが身につけなければならない。在宅で一人で働く孤独感も克服せねばならない。会社で働くとき以上にチームとしての一体感をもって効率的に働ける環境つくりが必要となる。
顔を合わせる時間が減り、働きぶりを見ての人事評価は無理となる、在宅で働く人達の役割分担を明確にし、目標をはっきり設定する。そのための組織のリーダーのマネージメント能力も問われる。実績を重視し、結果をきちっと評価することで、チームみんなの納得性が得られモチベーションの向上につながる。このような課題を克服するためにデジタル技術の出番も多くなると思われる。記事では「テレワークを続けると無駄な会議や作業があぶりだされてくる。新型コロナ禍を業務の効率化や働き方改革の好機としたい」と締める。

3月24日の日経朝刊では「次は働きがい改革」とのタイトルで紙面半分以上を使った記事があった。当ブログでも、日本のエンゲージメント度(仕事に対する熱意)の低さに関する問題を提起した記事を何度か紹介した(例えば、”心の資本”を増強せよ! HTTPS://JASIPA.JP/OKINAKA/ARCHIVES/9256)。日経記事のリード文は
働きがいを意味する「エンゲージメント」を重視する日本企業が増えている。組織の「健康診断」を実施して職場風土を改善し、生産性アップや離職防止につなげる狙いだ。単なる働き方改革だけでは高めにくい。経団連が旗を振り三井住友銀行が全行で意識調査を始める。働きがい改革は、日本企業が競争力を取り戻す妙薬になるか。
三井住友銀行は今春にも国内約2万8千人の従業員を対象に職場への満足度や人間関係を毎月実名で調査し、分析する。各拠点ごとに「アンパサダー」と名付けた旗振り役の管理職を配置するなど、組織風土改革にかける思いは切実だ。ツールとしてはこれまで試行段階から使っているアトラエの「WEBOX」を使う。日本ユニシスも2013年からグループ約8000人の意識調査を始め、結果をもとにコミュニケーション改善に取り組んでいる。「エンゲージメント」に火をつけたのは経団連中西会長。1月下旬のフォーラムで「エンゲージメントがもっとも重要なテーマ」と位置付けた。従業員やそのチームのエンゲージメントを測定する手法は様々だ。過去に紹介した「日立製作所のハピネス計測技術の活用」や、ユニボスが提供する職場の仲間が互いに評価して報酬ポイントを送りあうピアボーナスなどもあるが、今回の記事では前出の「webox」と組織・人事コンサルティングのリンクアンドモチベーションが手掛ける「モチベーションクラウド」を使う企業も多いと言う。3月時点で両サービスを導入した企業・団体は1900に迫り18年比で6割増えたそうだ。両社によると大企業からの関心が高まっていると言う。
2017年のギャラップ調査で「熱意溢れる社員」の割合が日本は6%で世界139か国中132位という「やる気のなさ」が経営層に火をつけた。今年2月の調査でも、世界60か国の大規模調査「働きがいのある会社ランキング」でも、7000を超える企業の調査結果の中で日本企業の問題が提起された。低下傾向が42.5%、改善傾向が15.9%と取り組みが効果を出していないともいえる。記事では、長時間労働の是正などを進めた一方で、効率を重視するあまり、職場のコミュニケーションが減ったことなどが背景ではないかと指摘している。エンゲージメントの向上は、日本企業にとっては大きな課題であり、2020年代は「働き方改革」より「働きがい改革」が企業の競争力を左右しそうだと記事を締めている。

コロナ禍で大変な時期ではあるが、働き方改革と同時に”働きがい改革“にもトライしてみては如何だろうか?

またまた末期がんから復帰された方が!

当ブログでも何度か、末期癌から回復された方を紹介してきた。例えば、博多の歴女白駒さん(「強く生きる力が湧いてくる「感動する日本史」(HTTPS://JASIPA.JP/OKINAKA/ARCHIVES/399)だ。「医師は治すのが仕事なのでこうした事例を追跡研究することはなく、「たまたま」治ったという話は「偽りの希望」を与えるだけだとして積極的に口外することもなかったために、自然治癒事例は事実上放置されてきた」というのは、全米ベストセラ―『がんが自然に治る生き方』の著者Dr. Kelly A. Turner ケリー・ターナー博士だ(HTTPS://JASIPA.JP/OKINAKA/ARCHIVES/2016)。
今回は、「致知2020.4号」で紹介された南三陸町で「農漁家レストラン松野や」を経営する松野三枝子氏の事例だ。ターナー氏の話からすれば、このような事例は、がん患者の人たちに希望を与える貴重な事例と言える。タイトルは「”生きる“それが人生で最も大切なこと」。
記事のリード文は下記。

2006年、53歳で突然末期がん(スキルス性胃癌ステージⅤ)を宣告された松野三枝子さんは、東日本大震災時、津波で壊滅的な被害を受けた南三陸町の病院に入院中だった。間一髪で命を助けられ、翌日から重篤な体を必死に動かし炊き出しを開始したところ、3か月後の精密検査で全身に転移していたがんがすべて消えていたという。松野さんが呼び寄せた、科学では証明できない奇跡に迫る。

反対を押し切って名家に嫁いだ松野氏は、弱音を吐けない状況の中で、11人家族の食事の世話から畑仕事など歯を食いしばって頑張っていた53歳の時、突然倒れ、緊急搬送された。3日間意識なくステージⅤのがん宣告、「余命1日もなし」と。1か月後の2度目の手術で食道・胃・脾臓・胆嚢・胆管・腎臓、そしてリンパ節180か所を摘出。2011年大震災の年には、無数のがんが肺に転移、輸血治療と点滴で寝たきり、絶望の生活を送っていた時、大地震が発生。その時2週間ぶりの風呂に浸かっている時だった。看護師さんからもらったバスタオルを体に巻いて、屋上に駆け上がった。途中で津波が襲ってきて、流される患者や、車ごと流される若い娘さんなどが流される、まさに地獄を見た。将来の有る若者が命を奪われ、余命短い自分が生かされている不合理さを強烈に感じ、炊き出しをしようと、前日まで寝たきりの身でありながら、バスタオルに看護師から貸してもらったジャンパー姿で、高台にあった自宅まで帰ることにした。自宅まで車で10分位の道のりを2時間40分かけて帰ったそうだ。その後は毎日5升釜三つでご飯を炊いて周囲に配り、ご本人は行方不明の父を探して遺体安置所を回り続ける。こんな姿がテレビで放映され、主治医の目に留まり、津波ですべて流された薬をもらうことが出来、そして震災3か月後の精密検査で奇跡が起きた。「余命なし」と言われるほどの重症だったにも拘らず。前身のがん細胞がすべて消え去っていたのだそうだ。その事実に先生のほうが驚きを隠せなかったと言う。
その後、避難している人たちが南三陸へ戻った際の憩いの場ともなることを願って、「農魚家レストラン松野や」を立ち上げ、2014年1月にスタート。疲れ果てて動けなくなったり、しょっちゅう意識不明になりながら、今も郷土料理つくりに精をだして多くの人に感謝されているそうだ。
松野さんは下記のような言葉でこの記事を締めている。

私は自分の人生を最高に楽しんでいます。末期がん、大震災を共に生きぬくことができたからこそ、まずは自分が真剣に生きて、命の大切さを伝えたい。とにかくあと1年でも2年でも生き続けたいと思います。

末期がんからの生還に関する科学的研究は、冒頭のターナー博士が言うには、進んでいない。が、これまでの事例では、後ろ向きに考えるのではなく、積極的に前を向き、人と協調しながら笑顔で目標をもって生きる人に、たまではあるが起こる奇跡のようだ。

日本人が誇るべき「利他的遺伝子」!

久しぶりに、人間学を学ぶ月刊誌「致知」の記事を紹介する。2020.3月号に当ブログでも紹介したことのある筑波大学名誉教授村上和雄氏(生命科学研究者)の「日本人の利他的遺伝子」があった。そのリード文は
人間には誰かの幸せや喜びのために生きようという「利他的遺伝子」が備わっているというのが遺伝子工学研究者の第一人者・村上和雄氏の持論である。日本人の利他的遺伝子の発現は、その歴史の中でいくつもの事例を挙げることができるという。そこから見えてくるのは、日本人が持つ他に誇るべき美点である。
とある。

日本人の利他的遺伝子の発現事例は数多くあり、諸外国からの評価は高い。村上氏が挙げる事例の一部を列記する。
1.記憶に新しいアフガニスタンに命を捧げた日本人
★アフガニスタンで医療や人道支援に尽力された中村哲氏。昨年12月4日に非業の死を遂げられ、国内外で追悼の声が挙がり、中村氏の死を悼んだ。人道支援に対する脅しにもめげず、「平和に武器はいらない」「百の診療所より一本の用水路を」「家族と一緒に暮らし、食べていける。まずそれさえ保証されればアフガニスタンの人々は満足してくれる。紛争も収まっていく」との固い思いの元、1万6500haの灌漑を実現し、65万人の生活が維持されることになった。想像を絶する「利他的遺伝子」の発露に頭が下がる。

2、ポーランドやイスラエルが今でも日本に恩義を感じている件
★第二次世界大戦時のユダヤ系ポーランド人を救出した杉原千畝氏(当時リトアニアの領事代理)の話(https://jasipa.jp/okinaka/archives/98)。当時同盟関係にあったドイツの迫害を受けたユダヤ人の救出には相当の覚悟をもって望まれたことと思う。
同じく2万人のユダヤ人の入国を拒否した満州国(ドイツへの気がね)を説得し、救済した関東軍ハルピン特務機関長の樋口季一郎少尉の話。

3. 中国の人に感銘を与えた件
★2008年5月四川省での大地震の時の事。死者の数9万人という悲惨な事態でした。その中で駆け付けた日本の救援隊が残した1枚の写真に反日感情の強い中国人の間から絶賛の声が挙がった。それは、母子の遺体を日本の救援隊が発見、救援隊全員が整列し、二人の遺体に黙とうをしている写真だ。失われた命に敬意を表する姿に「日本人を見直した」と言う声が広がったそうだ。
★東日本大震災の時の女川町での出来事。ある水産会社で働く中国人20人を専務が自らと家族を犠牲にしながら全員救出した話だ。
★同じく東日本大震災の時、香港から石巻市に旅行に来た夫婦をJR職員が救い、その後、ある一家に5泊お世話になった話。など。

本来「利他的遺伝子」を人は内在的に持つと言われている。それを“スィッチオン”でき様々な場面で活躍しているのが日本人ということであり、“日本人が持つ他に誇れる美点”と村上氏は言う。「このような心温まるエピソードに触れるにつけ、日本人としての誇りが高まっていく」と村上氏は締めている。
悲惨な事故、事件も多く、惨めな気持ちになることもあるが、“人間とはこんなに温かったんだ”といろんな事例を思い出しながら、自らも「利他の遺伝子」をスイッチオンすることで日本の美点を増幅していければと思う。

冲中一郎