「人間らしい組織づくり」を模索する米国ビジネス

「従業員の幸せが顧客と社会の幸せを生む~米国優良企業が実践する「コアバリュー経営」~」と題した日米間ビジネス・コンサルタントダイナ・サーチ、インク代表石塚しのぶ氏の投稿記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014/3・4月号」にあった。

記事のリード文に「・・・実は、効率重視のイメージがある米国企業の中に、従業員の満足を優先して業績を伸ばし、注目を集めているところがあるという。規模や業績の追求より、理念や価値観、企業文化を重視することで、従業員の満足や一体感が高まり、結果として業績につながっている。本稿では、30年以上にわたって日米間のコンサルティングで実績を上げる経営のプロが、米国で行われている“人間大事の経営”についてレポートする。」とある。そして、実例として紹介されているのがラスベガスを本拠とし、靴やアパレルを取り扱うネット通販の「ザッポス」とオースティンを本拠とし、北米や英国で335店舗を展開する世界最大のナチュラル・オーガニック・スーパー(自然派食品を扱うスーパー)だ。

ザッポスのコア・バリュー経営“お客様に幸せを届ける”

ザッポスは、当ブログでも紹介したことがある(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/entry/6170)が、1999年に設立し10年足らずで年商10億ドルを突破、その後3年間でさらに2倍にするなどめざましい成長を遂げている会社だ。その快進撃の源は、最高経営責任者のトニー・シェイクいわく「企業文化」だ。「人=貴重な財産」と考え、労働力だけではなく感性や、創造性、機転といった人間ならではの能力を発揮してもらうことを狙う。そこで、企業文化として規則や階層に基づく命令系統で個人の仕事を統制するのではなく、企業文化の基盤である「中核となる価値観(コア・バリュー)」を定め、規則や命令の代わりに「価値観」に基づく行動や発言を徹底して、従業員が自律する組織を志した。これを石塚氏は「コア・バリュー経営」と呼んでいる。「サービスを通してWOW(驚嘆)を届けよ」を第一条に掲げる「10のコア・バリュー」があり、コンタクトセンターのオペレーターにも「顧客を満足させるためなら、ほとんど何をしてもかまわない」ほどの裁量権限を与えている。“お客さまに幸せを届ける”それが、ザッポスの存在意義(コア・パーパス)だ。

ホール・フーズ・マーケット“会社はみなのもの”

年商129億ドルを誇り、比較的高い価格帯にもかかわらず、年率二ケタ台の勢いで成長し続けている優良企業だ。該社の「コア・バリュー」は「民主的な会社であること」で、従業員の「運命共同体」意識を高め、「全員参加型」を地で行く会社作りをしている。その一例としてユニークな「採用プロセス」が紹介されている。店舗で働く店員は、まず各店舗の管理者の面接を受けて仮採用となるが、本採用となるまでには、自分が希望するチームのメンバーによる面接と見習い期間(30日から90日間)をクリアすることを求められる。見習い期間の終わりにチームメンバーの討議と投票を経て本採用(全体の3分の2の賛同)となる。「仲間を選ぶ責任を個々の従業員に課すことによってチーム意識を育み、ひいては会社への所有者意識を育む」事を目的とし、チームを重んじ、自律性・自主性を重んじる経営を目指している。その成果は、様々なアイデアが各店舗で生まれ、いいアイデアは国を跨って拡がっていく。「自分達の会社は自分たちの手で作るんだ」との責任感と義務感、そして喜びと誇りを実感できる制度がいくつも存在し、実践されている。

大きくなるより偉大になろう「スモールジャイアンツ」

米国では「大きくなること(規模の追求)」よりも「偉大になること(意義の追求)」に重きを置く小・中規模企業が自らを「スモールジャイアンツ(小さな巨人)」と称してネットワーキング団体を組織し「最も働きたい会社」や「もっとも急速に成長している会社」などのリスト上位に登場して頭角を現しているそうだ。商品や価格では差別化が難しい時代の中で、「人」の力が最大の武器になったと言える。これに磨きをかけるのは莫大な資金力を要することではなく、小・中規模企業にも大企業より優位に立つチャンスがあるということと石塚氏は言う。ただし、莫大な資金力を要求しない代わりに、経営者をはじめ、関わる人達全員の覚悟と真心と辛抱強さを要する。「従業員の、従業員による、従業員のための会社」をめざすことが、未来の経営の姿であると締めくくる。

時を同じくして、ホール・フーズ・マーケットの創業者兼共同CEOジョン・マッキーが「世界でいちばん大切にしたい会社」(鈴木立哉訳、翔泳社、2014.4)を出版した。ホール・フーズ・マーケットはもちろん、イケア、コストコ、サウスウェスト航空、スタ―バックス、タタ・グループ、トヨタなどの企業を紹介している。今読み始めたところで、いずれ紹介したい。

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体を感動で震わさないと・・・(日経)

昨日(9日)の日経夕刊1面のコラム「あすへの話題」に三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長の投稿がある。当ブログでも「感動・感謝・感激」に関する話題を数多く掲載させて頂いたが、新聞などでもこの3つの言葉に敏感で、なぜかすぐ目に留まる。今回の小林氏のタイトルは「小さな感動」だった。

「知恵を絞るのが私の仕事である」で始まり、「絞ればいつも知恵が出てくるわけではなく、逆に頭の中をまめに空にして体を感動で震わせないと、滲み出てこなくなる」とある。「私にとってはやはり、知恵より感動の方が重要なのだ。“芸術が爆発”なら人生は感動だ」と続く。そして日常生活にあふれている小さな感動に言及されている。美味しいもの、うまい酒、壮麗な1枚の絵、もの悲しい調べに感じ入り、庭弄りでのささやかな庭の草木をいとおしみ、実用的な多品種少量の野菜つくりでお日様と汗と大根の小さな花びらに感動する。そしてそんな感動を求めて朝早くから起き出してしまう。

感動の語源は論語の「感即動(感じるから動ける)」だそうだ。著名な思想家安岡正篤氏は「人は感動の度合いが大きいほど人間的な厚みが増し、その感動の量や感激の量が最終的な人格を作る」と述べています(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2011/4/1)。「感即動」とは「感じたら、すぐに動く」の他に、「感じさせることで、人は動く」という意味もあり「感じ方を変えれば即、行動が変わる」と捉えることもできるとある人は言う。

帝国ホテルと顧客満足度で競う「スーパーホテル」は「自律感動型人材の育成」を掲げる(https://jasipa.jp/okinaka/archives/1489)。その成果は、空室率の低さ、リピート率の高さに出ている。

今生かして頂いている幸せに感謝しつつ、日常的な小さな事柄にも感動できる、そしてそのような感動を皆さんに分け与えられるような人間になりたいとの気持ちを忘れないでいたい。

革新力The Company混沌を制する(日経)

日経1面に4月から連載されている「革新力The Company」は面白く読ませてもらっている。イノベーション力というか、いろんな知恵と実行力で、果敢に問題解決に挑戦している企業が満載だ。6月5日の「混沌を制する⑤」ではサブタイトル「過疎路線息吹き込む~賢者は逆境を活かす~」として、埼玉県のイーグルバスや、岐阜県の大垣共立銀行などが紹介されている。以前とある記事で興味を持ち、ブログにも掲載させて頂いた企業であり、興味深く読ませてもらった(イーグルバスはNSD在勤時のイントラで、大垣共立銀行はhttp://jasipa.jp/blog-entry/6477で)。

その記事は「人口約3200人の埼玉県東秩父村でITをフル活用した地域振興策が進む。仕掛けたのは同県川越市に本社を置く中堅バス会社のイーグルバスだ。」で始まっている。日本生産性本部の「ハイ・サービス日本300選」にも選ばれ、日経ビジネスなどメディアにも再々紹介されている。地方の路線バス事業は、人口減少もあり赤字に悩まされている。高速バスや観光バス事業を主事業にしていた該社は、大手が撤退した路線バス事業を2006年に引き継いだが、思い通りに行かず赤字から脱却できなかった。谷島社長は、この状況を克服するため「運行状況の可視化」技術を実現するために埼玉大学工学部に入学し、科学的な再生の道を探った。バスの乗降口にセンサーを取り付け、「どの停留所で、何時に何人が乗降するか」のデータを収集。利用率の悪い時間帯などをあぶり出し、時刻表やルートを頻繁に変えるシステムを開発。結果として、ビッグデータを多角的に収集、路線バス事業が抱えていた課題とその改善策をデータで徹底的に可視化し分析することで、2007年比で客を6万人増やし蘇った。さらに、ITシステムを活用して、観光施設の傍に「ハブ停留所」を作り、ツアー客の乗り継ぎ向上へ村営バスと路線を統合したり、コンビニエンスストアを整える大掛かりな「街つくり」構想を描く。谷島社長は言う。「苦難に直面する地方だからこそ新たな挑戦が出来る」と。

大垣共立銀行も日本生産性本部の「ハイ・サービス日本300選」にも選ばれ、「つきあいたい銀行ランキング」において大手銀行を抑えて全国一位に輝いたりしている。今回の記事では「通帳やカードがなくても手のひらの静脈認証だけで預金を出し入れできる全国初のATMを2012年に導入したことが紹介されている。これをさらに進めて地元商店街で「手のひら決済」を取り入れる構想も持ち、土屋頭取は「手のひらだけでの買い物」を大真面目に考えていると言う。過疎地巡回の移動店、ドライブスルー店舗など、大垣共立銀行は次々と全国初のサービスを実施、個人預金残高は20年以上連続で増加している。土屋頭取は言う。「首都圏は大きすぎ。地方はニーズをとらえやすく自由がきく」と。むしろ地方にいるハンディをプラスに転じて新たな商機を生み出す。