35歳で史上最年少執行役員となった女性の心構え

教育事業のリーディングカンパニー・ベネッセコーポレーションの成島由美さん。高校・大学(東京女子大)は第一志望に入学でき順風満帆で迎えた就職活動。本人は放送・出版業界を希望だったが悉く落とされゼミの先生のアドバイスで福武(現ベネッセ)に仕方なく入社。入社当時はモチベーションが働かず、「こんなはずじゃなかった」と文句ばかり垂れていた(配属先は進研ゼミ中学講座編集部)。以下、「致知2014・5」号の連載「20代をどう生きるか」42回目の「成長の要諦は心の置き所一つにあり」との成島さんの記事より抜粋した(現在成島さんはベネッセコーポレーション家庭学習カンパニー長)。

そんな彼女が変わったのは、入社3ヵ月のある日の事。楽しそうに働いている男性の姿が目に飛び込んできたそうだ。その方は約150名の社員を束ねる部長だった。「私もあんな風になりたい!」と。そしてその部長に「どうやったらその席に座れるんですか?」と聞く。部長が「何年でなりたいの?」、成島さんは「十年以内です」、部長は「おまえ、本気で帝王学を学ぶか覚悟はあるか?」、成島さん「はい、ついていきます」。その時成島さんの心のスイッチがオンになり、仕事のやりがい、面白さを追求し体感していくことになる。

先輩に勝つためには「若さを武器に」と考え、中学講座の顧客である13歳から15歳の中学生の目線でのアイディアを心掛け、「顧客に向き合う、顧客に会いに行く、顧客にならない人の声を聴く」の3つを徹底的に実行し成果を出していく。そして後日担当した高校講座の英語リーダーとなった時は、継続率、受講者数ともに過去最高の記録をたたき出した。そして、28歳で管理職、31歳で中学講座事業部の統括責任者、34歳で史上最年少執行役員に就任した。しかし、執行役員になった頃、ベネッセは創業以来最大の試練に直面し、進研ゼミの屋台骨である中学講座の在籍者が他社の追随で、毎年10万人づつ減少していた。そんな状況下での抜擢であったが、重度のプレッシャーで眠れない日が続いたと言う。減少を止めるための具体的数値目標を置かず、社員に訴えたのは「高校受験の春に、日本中が15歳のうれし涙で溺れるようにしよう」。そして年上も年下も事業部全員が合格発表の日全国に飛び、各高校へ足を運んだ。その現場で合格した学生や親御さんからの感謝の声を肌身で感じ、会社に戻ると憑き物が落ちたように仕事に打ち込むようになった。現場での実際の感動が彼らのモチベーションとなった。そして3年目には増加に転じた。

成島さんは20代の人へのメッセージで締めくくる。まずは

自分のマーケティングは誰もしてくれない

と。自分は何が出来て、なにができないのか。これから先、どんな力をつけていかなければならないのか。それは決して会社の上司に求めるものではない。つぎのメッセージは

20代は弱い自分をさらけ出せる最後の機会

得意な分野ではドンドン力を発揮し、出来ない事は素直に認める。そうやって自分自身と真正面から向き合いながら、出来ない事を確実に出来るようにしていく。その繰り返しが30代、40代を花開かせる。

つまらないと感ずる仕事も自らの心の置き所一つで百八十度変わる

今与えられた環境の中で不平不満をいわず、何が出できるかを考え、目標をさだめて挑戦していくことで人生は拓ける。

2020年に女性管理者比率を30%にすることを政府は目指す。JISAでもIT業界として同じ目標を掲げ推進している。女性が働く環境はまだまだ課題は多いが、是非とも目標に向かって頑張ってほしい。

「怒らない経営」で成長した宅配寿司「銀のさら」

宅配寿司「銀のさら」や宅配釜飯「釜寅」を展開し、宅配寿司業界では44%のシェアを有するライドオン・エクスプレス。高校卒業後アメリカに渡り、寿司店での経験から飲食店を経営するとの目標をもって帰国。アメリカで人気だったサンドイッチ店を岐阜市に創業したのが1992年、しかし上手くいかず、寿司店経営に変わった。紆余曲折の中で見つけた経営手法は「感謝の心」と「怒らないこと」。「人間はみな平等だと分かっていることが、どんな経営手法を学ぶより大事」という江見朗社長の人間大事の経営に関する記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年3・4月号」に掲載されている。

サンドイッチ店が上手くいかず、にっちもさっちもいかなくなった時、仕入れ業者の納品の時ふと「ありがとう」の言葉が口をついて出た。背水の陣に追い込まれた時の気付き「自分には相手の気持ちを思いやる優しさがなかった。業者さんもきちんと納品してくれるが、自分は彼らに対して何ができているのだろう」と、その時心の底から感謝の気持ちが湧きあがってきたと言う。そこから経営状態が改善し始めたそうだ。松下幸之助氏、本田宗一郎氏、盛田昭夫氏など名経営者も著書の中で言っていることに共通点があった。それは、「周囲への感謝の気持ち」だった。それ以来、「私は半端な気持ちではなく、99.999%周囲のお陰と感謝の気持ちを持って生きている」と江見社長は言う。「感謝の心」はよい人との出会いを引き寄せ、人生の好循環を生みだす原点であるとも。

もう一つ「怒らない経営」は、宅配寿司を配達した時のお子さんも含めたお客さまの笑顔が忘れられず、宅配の役割は「お寿司を届けることではなく、家族の団欒を届けている」ことに気付く。「お客さまとの一瞬の接点が宅配ビジネスの要諦」と。そのためには、社員みんなが常に気分よく仕事ができ、常に笑顔でお客さまと接することが出来る雰囲気を作ることが経営者や店長の役割と考えた。人間の尊厳と言うはかりでは、経営者も従業員も同じ重さであり人間に上下の序列はなく、自分には一方的に怒り人を傷つける権利はないとの考え方でもある。しかし「叱る権利」はあると言う。それは例えば仕事をさぼったり、手を抜いたりする人が居れば、その人は評価が下がり、給料も下がる可能性がある。江見社長は「自社の利益と言うよりも相手(従業員)の利益を最大化するために叱る」と言う。しかし、自分は完璧な人間ではないため怒ることも有るが、その時は、自分がとても恥ずかしく、すぐに「怒っちゃってごめんね」と謝るようにしているそうだ。

「怒らない経営」を世間では「ぬるま湯」と批判する人もいる。しかし、江見社長は「怒らない経営が一番も儲かるからやっている。証拠は、ぬるま湯ではなかなか達成できないシェア一位がとれたこと」と言い切る。

最後に江見社長は「“よい人生”とは、夢をかなえたときに訪れるのではありません。いちばん大事なのは、今この瞬間。その積み重ねが、よい人生になるのだと思います。怒ることで「今」を不快にするのではなく、感謝をしながら生きて見ませんか」と言う。

今回の「松下幸之助塾」のテーマは「人間大事の経営」。名経営者の誰もが言う「社員こそ宝」との考え方をいろんな形で実行、具現化している企業は数多くある。この事例もヒントにはなると思われる。