JR九州が元気だ!

平成24年3月期JR九州は、営業収入対前期比12%増(3328億円)、経常利益対前期比2.3倍の202億円と元気だ。昨年3月3日に新博多駅ビル「JR博多シティ」開業、東日本大震災の直後の3月12日に九州新幹線全線開通など、脚光を浴びる存在になっている。国鉄民営化後25年経った今、民営化後の軌跡を現会長の石原進氏が語っている(致知2012.10)。

面白いと言うか、やっぱりそうだったのかと思ったのは、石原氏がズバリ言う「国鉄時代を反面教師として、国鉄の頃やらなかったことをすべてやってきた」との発言。「国鉄時代はいつも労使問題に追われ、政治家とお役所ばかり見てお客様の存在がほとんど視界に入ってなかった」と言う。経営管理、総務畑を歩んだ方の発言だ。

石原氏が社長に就任したのが10年前。その頃は九州にも縦断道、横断道が完成し、時間・価格面で高速道路との競争が激しく、JR九州としても危機的な状況にあったそうだ。そこで、鉄道のスピードアップや、車両の改善などのハード面に加えて、サービス強化の取り組みを強化した。「新・感・動・作戦」と称した、お客様への感謝の気持ちをベースにしたサービスの提供と、お客さまの声を商品や施策に反映する二点に重点を置いた活動の展開だ。サービスの事象はすべて現場で起こることを念頭に、現場からの意見が社内LANを通じて挙げられ、改善スピードが上がる施策をうった。自分が出した提案が即座に実施されると、良い循環で次々に提案が上がってくるようになる。先に「クロネコヤマトのDNA」をブログにUPした(http://jasipa.jp/blog-entry/7953)が、現場主義を貫き通す姿勢は同じだ。

石原氏は「社員の意識を高め、創意工夫の湧き出る職場にすることが,会社を伸ばすことに繋がる」と断言する。さらに、「根底で人に対する思いやりや愛情がなければ、ビジョンに対する支持も得にくく、リーダーに対する尊敬、信頼は得られない。リーダーは常に心を養い、高めていく努力が求められる」と言う。「社員を認めて、任せて、褒める」ことが、人の育成にとって一番大事」とも言う。吉田松陰の「至誠通天(誠実な心を持って、最後まで貫けば絶対に世の中は動く)」を座右の銘とする石原氏らしい発言だ。

現社長の唐池恒二氏が「世界から集客!JR九州・唐池恒二のお客さまをわくわくさせる発想術」という本を昨年出版している。全国からお客さまを呼ぶための観光列車・デザイン列車の企画にいち早く着手、鉄道ビジネスの新たな成長分野を、常にお客さま目線で発想、実現し続けてきた過程が良くわかる本のようだ。「蒸気機関車“あそBOY”の復活」、」、「全国に知れ渡った優雅な観光列車“ゆふいんの森”の発案」、「高速船“ビートル”が走る、博多釜山の国際航路の開拓」、「東京・赤坂で超繁盛中の居酒屋新業態“うまや”ブランドの開発」や「九州一周豪華列車」などなど、お客さまを喜ばせ続けるアイデアを次から次へと打ち出している。

民営化前は26000人いた職員が、事業の多角化でグループ会社34社を持つ今のグループで9500人となり、しかも1000億の赤字が、今は200億の黒字。経営次第で、会社はこんなにも変われるものなんだと認識を新たにした。頑張れ!JR九州!

‘クロネコヤマト’のDNA

「PHP Business Review 松下幸之助塾2012年9.10月号」の特集は「創業理念を継承する」である。そのトップにヤマトホールディングス会長の瀬戸薫氏の“生き続ける「ヤマトは我なり」のDNA-現場重視が自然な伝播・浸透を後押しする”の記事がある。

記事のリード文:昨年3月の大地震発生から数日間、各地の被災地には、無償で働くクロネコヤマトの社員たちの姿があった。気仙沼市や釜石市では、社員が市に申し出て救援物資の分類・管理や、避難所を回る配送ルートの作成を担い、社用車を使ったボランティア配送まで行っていた。情報が寸断されていたこの時期、これらの活動は、本社はもちろん支社にも上司にも相談されることなく現場の判断でなされていた。(中略)社員たちを自主的な活動へと動かしたのは、「ヤマトは我なり」のDNAだった。

「ヤマトは我なり」は1931年創業以来の歴史を持つ社訓3か条の一つとして掲げられている。一人で活動することの多いセールスドラーバーが、「自分自身=ヤマト」という意識を持って、常にお客様に喜んでもらえる行動を取れるようにするための哲学だ。宅急便を開発し、経営者としても高名な小倉昌男元会長は、現場での会議では利益のことは一度も口にした事はなく、「サービス第一」と「全員経営」の二つを言われた。「サービスが良ければ利益は結果としてついてくる」との論法だ。それを受けて瀬戸氏も「世のため人のため」を意思決定の基準とし、「エンドユーザーの立場にたって物事を考える」ということを口を酸っぱくして話していると言う。

約6万人いるセールスドライバーに、経営理念や方針を徹底するには、通達1本ではなく、経営者が現場に出て、現場第一線で働く人たちの悩みを聞き、あるいは6~8名の小集団活動を褒め、みんなと膝を突き合わせて議論することが必要だ。少子高齢化や過疎化が問題になる中で、一人暮らしの高齢者の安否確認をはじめ、多くのプロジェクトも地方で立ち上げている。セールスドライバー自ら考えて立ち上げたプロジェクトである。

論語の「子曰く、苟(いやしく)も仁に志せば、悪なきなり」の言葉にあるように、世のため人のために尽くそうと言う人であれば、心が悪に染まることはないとの確信のもとで、いろんな施策を打っている。「満足創造3か年計画」は、皆がお客様に対しても、社員同志でも、満足創造のために自主的に努力しようとすれば、社員たちのモラルも向上し、会社全体のレベルアップにつながるということで策定した。その中には「満足ポイント制度(社員同志)」や「ヤマトファン賞(お客から褒められた場合)」でポイントを貯め、ポイント数に応じてダイヤモンド、金、銀、銅の満足バッジが進呈され、上位者は表彰される。制度開始から1年以内に3万人以上がバッジを獲得したそうだ。「感動体験ムービー」を実際に経験した実話に基づいて作り、全社員対象に実施している「満足創造研修」で上映している。コールセンター宛に来たお客様からのお褒めの言葉は、すぐ登録され「ありがとうの見える化」も出来たそうだ。

瀬戸氏は最後に「日々の仕事の中で、こういうことが、実は「社訓」にマッチした行動なのだ」と社員が自然に納得してくれるような工夫が必要だと思う」と言う。これからのIT業界でも、マーケット規模が縮小する中で、顧客の信頼獲得競争がますます激しくなること必至である。「現場重視」「全員経営」に加えて、企業理念の現場への浸透のさせ方に学ぶべきことは多いのではないかと思う。

元祖ホンダの言う「ワイガヤ」とは

6月にもブログでホンダの哲学「自律、信頼、平等」(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/6/25)を紹介したが、日経電子版で、SRSエアバッグを開発された小林三郎氏の連載は今も続いている。その中で7月18日から8月9日まで4回にわたって、ホンダの企業文化を創りだした「ワイガヤ」の仕掛けを説明されていた。

小林氏は、「ワイガヤはホンダのイノベーションを加速する装置の一つ」という。一般には「ワイワイガヤガヤと活発に議論するブレーンストーミング」と理解されているがホンダでの「ワイガヤ」とはかなり異なっているそうだ。ホンダでの「ワイガヤ」は、まず社外でやる3日3晩の合宿を言う。妥協・調整の場ではなく、新しい価値やコンセプトを創りだす場であり、「熟慮を身に付ける場」と位置付ける。そのため、「ホンダは何のためにあるのか」とか、「自動車会社の社会にどんな貢献が出来るのか」というような本質的議論に立ち返ることが多い。若手技術者も自分なりの考えを発言することを求められるが、最初はなかなか難しくても3日3晩寝るのを惜しんで(実際4時間睡眠らしい)議論し、先輩から「あなたはどう思うか」と問われていると、熟慮せざるを得なくなると言う。年間4回程度の参加を要請されるそうだが、20回参加で「白帯」、40回参加で「黒帯」の称号が与えられ、「黒帯」でワイガヤのリーダーとなれる。

「ワイガヤ」に必要な他の要素としては、「学歴無用のフラットな組織」で、役職や年齢、性別も関係ない。「異端者、変人、異能の人」大歓迎とのこと。こうした企業風土は、ホンダの哲学である「自律、信頼、平等」と不可分のもの。ホンダでは、ワイガヤは単なる議論の場にとどまらず、ホンダの哲学とDNAをしみこませるために欠くことのできない機会にもなっている。3日3晩同じテーマを議論することで、会社の存在意義は?愛とは何?人生の目的は?など本質的な議論に立ち戻ることもたびたび起こる。

「ワイガヤ」に関してインターネットで調べたら、日経ビジネスの記事で『世界一を生んだ秘訣は、なんと「ワイガヤ」(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110920/222724/)』という世界最高速コンピューター「京」の開発チームの記事があった。まさに小林氏の言う「イノベーションを加速する装置」の一つの証明とも言える。IT業界においてもイノベーションが求められている。「全員経営http://jasipa.jp/blog-entry/7685」と「ワイガヤ」でイノベーション、検討の余地あるのではなかろうか。企業理念を社員に徹底する意味でも。