サービス業として「お客様のためになるシステムの提供」、すなわち労務提供型からサービス提供型への脱皮が叫ばれている。「お客さまに対する付加価値を考えること」にとって最重要なのは、お客さまの問題は何かを定義する「問題設定能力」と言えるのではないでしょうか?
学生時代、問題を設定するのは教師で、解くのが我々学生であり、そして答えは必ず一つ。これに慣らされた我々は、なかなか問題を探し出し、問題を定義することを苦手としています。今から20数年前、私は鉄の生産管理システムの企画業務を担当していました。その時日立のシステム開発研究所の支援を得ながら、問題を如何に定義するか、そしてその問題定義を管理・経営者でも分かるよう、日本語で記述する言語の開発を日立と共同で実施しました。
鉄の生産管理システムでは、いろんな規格の受注ロットを如何に製造ロットにまとめるか、また厚み品質を維持しながら如何に圧延ロールを長く使うための通板スケジュールを決定するかなど、製鉄所の生産性、製造コストを大きく左右する重要な問題が一杯あります。このような問題でも、ユーザー部門とシステム部門の担当者同志で相談しながらいつの間にか一つの答えを出してしまうのです。そしてさらに、システムから出た答えをユーザー部門の担当者が勝手に変更するのです。その正当性は、ユーザー部門の部長にも課長にも分からない世界を築いてしまっているのです。これでは、組織として実行解の正当性の判断が出来ず、改善論議も出来ません。
そこで、システム部門の若手にまず現場に常駐させ、現場の長が何を考えて通板順序などを考えているのか、徹底的に問題の定義に当たらせたのです。最初はどうしても答えが気になり、答えから問題を逆定義する傾向がありました。それを何度もつき返しながら答を考えるなと指導し何とか問題定義が出来ました。その後、解き方は別の若手に考えさせます。そうすると大体、複数の答えが出てくるのです。すなわち問題定義においては、社会システムも同じですが、方程式の数より変数の数が多いのが一般的で、当然複数の答えが出ます、複数の答を一つに絞り決定するのは、前後工程の責任者を含め、利害の衝突する部門間で決めてもらうしかないのです。
この考え方を「業務の論理」「解法の論理」「政策の論理」と三つの論理に整理し、「業務の論理」の記述に日立開発の「HSPG」を使い、「解法の論理」には巡回セールスマン問題のアルゴリズム(室蘭工大から譲り受けた)などを使い、「政策の論理」で、複数の解毎に評価値を提供し経営者に分かりやすい画面を構築しました。この論理は、国際学会でも発表し、東京工業大学の先生の目にも止まり学生に講義もしました。が現在は、ERPなどに押されて、この考え方のシステムは消えつつあるのではと思います。
具体的なシステム化はともかく、この「業務の論理」すなわち問題設定は、お客様も正確に定義できないのが一般的だと思います。まさにここに、我々の出番があると思います。昨年出版された「論点思考―BCG流問題設定の技術」(内田和成著)がボストンコンサルティングの手法を解説しています。経営の神様ドラッカーは「経営における最も重大なあやまちは、誤った答えをだすことではなく、間違った問いに答えることだ」と言っています。まさしく真の問題に気付く力こそ現在のビジネスパーソンに最も必要なものと上記本には書かれています。
お客様との関係作り、ヒアリング能力含めて、問題設定能力を是非とも高める努力をしてください。