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日本で一番視察が多いスーパーの経営哲学(ハローディ)

期せずして「PHP Business Review 松下幸之助塾2014年1・2月号」と「致知2014/5号」に北九州市のスーパー「ハローディ」が紹介されている。松下幸之助塾のリード文は「かって60億円の借入金を抱えて倒産寸前だった北九州の地域スーパー。ここに跡継ぎとして入社した三代目が当初見たのは雨漏りのする店舗、我がちに逃げ出していく取引先と従業員、そして押し寄せる借金取りと言うまさに地獄絵図だった。それから25年。今や業種を問わず見学者が引きも切らない「日本一見学の多いスーパー」として、そして20期連続増収を続けた企業として注目を集める。それは「縁ある人達を幸せにする」という目標に向かって全社員が知恵を集め挑戦を続けてきた結果である。」と。

ハローディ社長の加治敬通氏は、二つの事を徹底的に追及し、パートを含む全社員に徹底している。

「より多くのお客様に感謝する会社」
「日本一働きたい会社」

最初は、倒産寸前の会社を引き受けて、社員や取引先などにも文句ばかり言っていた。その頃先輩経営者から、「相手が悪い時どういう風に指を指す?」と問われて実際に指を指すと「加治君よく見てごらん。人差し指は相手に向いているけど、三本の指は自分を指していないか」と。そして「相手も悪いかもしれないが、自分自身も悪いところが三つあるから考えてごらん」「潰れそうな会社でも商品を卸してくれる人や働いてくれる人、そういう人たちが目の前にたくさんいるのに、目の前の悪いものばかりしか見ていないだろう貴様は!」と怒鳴られた。これで大きな「気付き」を得て、心の中に「感謝」と言う二文字の柱がドンと打ち立てられたと言う。

その後は、「口だけの感謝」から「心からの感謝」とするために徹底的に社員(嘱託社員、エリア社員含む1400名対象)研修を実施している。例えば「お元気様研修(月1回、講師社長・幹部13人、生徒12人)」、2日間かけて感謝や感動といった“人として本当に大切なこと”を学ぶ。実は研修名の「お元気様」は、同社での挨拶言葉として「お疲れ様」の変わりに使われている言葉だ。同社では「暗くて、病的で、反抗的な」“暗病反(あんびょうたん)言葉の使用を固く禁じ、代わりに「明るく、元気で、素直な」”明元素“言葉を使うことを奨励している(”ありがとう“発信を普及させる活動を展開しているヒューマンウェア研究所の清水英雄先生の教え?)。その他にも、各店が如何に客を喜ばせ、感動させられるかを競う、パートが主役の「ハロリンピック(3ヵ月に1回)」や年1回の「全体感動フォーラム」などもある。店舗視察者が最も驚くのはパート社員のモチベーションの高さとか。

加治社長は言う。「私は何のために生きているかというと、それは縁のある人たちと一緒に感動するためなんです。この研修ひとつにしても私は感動の涙を流さなかったことは一度たりともありません。参加者からも毎回、ほんとにたくさんの感動をもらっています。」と。

研修で覚える言葉に「ピンチはチャンスだ、ありがとう」というのがある。例えば私に怒られて落ち込んでいる人に「よかったなおまえ、おめでとう。チャンスじゃないか」と言って励ますのだそうだ。それは店舗火災事件で大打撃を受けた時、加治社長が何度も万度も唱えた清水英雄先生の詩のお蔭で立ち直れた経験を活かしての事だ。

素直に人の言葉に感動・感謝し、自分を変えた加治社長。事業も人生も多くの人に支えられているとの「気付き」と「感謝の気持ち」が日本一視察が多いスーパーを創りだした。その「気付き」を25年間継続して全社員に徹底するという行動にしたのも凄いことだ

地方で元気な会社は苦労して創り上げた”強み“がある!

主力製品を1点に絞り込み、デザート感覚の「くりーむパン」を大ヒットさせた広島の八天堂(あちこちの店で行列をなすらしい)。糸やニット製品が国内外で脚光を浴び、2009年には、技術を駆使して極細のモヘア糸で作ったニナ・リッチのイエローのカーディガンをミシェル・オバマ大統領夫人がアメリカ大統領就任式で着用して話題になった山形の佐藤繊維。八天堂社長の森光孝雅氏と佐藤繊維社長の佐藤正樹氏の対談記事「厳しい逆境の中でこそ本当のひらめきは生まれる」が「致知2014.1」に掲載されている。双方とも創業80年を迎えるが、倒産の危機など様々な試練を乗り越えて今日に至っている。

佐藤社長は、東京のアパレル会社から22年前に戻り、8年前に4代目社長に。入社時はまさに日本の繊維業界が急速に衰退しはじめたとき。アパレルの下請け会社としては生き残れないとの危機感を抱き、立て直し策に悶々とする日が続いたそうだ。アパレルの下請けではなく、直販することも考えたが、それではお客のアパレルと競合することになる。ある糸に魅せられ、その製造元イタリアまで飛んだ。その工場長の「私たちが世界中のファッションのもとを作っているのだ」との言葉に衝撃を受けた。早速帰って社員に「俺たちも人から言われたモノではなく、自分達だけの糸を作ろう」と呼びかけた。しかし、最初の反応は冷ややかだったが、ある一人のベテランの職人を粘り強く説得し、驚くべき糸が出来た。それが今日に至っていると言う。まさに同業他社が安い人件費を頼って海外に進出しているのを尻目に、国内での差別化を達成したのだ。

一方、八天堂は、森光氏が入社した頃(平成2年頃)は創業の地三原市(広島)にはまだコンビニもなく、焼きたてのパンは朝から飛ぶように売れていた。好調な業績を受けて県内に十数店舗を開店したが、次第にコンビニやパン屋が次々と出来、さらに店長が独立して辞める事態に遭遇し、倒産の危機を迎えることになってしまった。スーパーやコンビニを回って、売れそうなパンを作るが、売れ始めると同業者がすぐ追随して、ダメになる。自分しかできないパンに頭を巡らせるがなかなか名案が出てこない。気付いたのはお客様のパンの購買動機が目的買いだということ(クロワッサンはあそこ、サンドウィッチはこのパン屋さんと言う風に)。そこで1品だけで勝負することを決めた(周囲の反対を押し切って)。それまでも奇をてらったパンをいくつも出し、地元のメディアにも取り上げられていたがすぐ飽きられていたのを反省し、スタンダードな1品を考えた。それが「くりーむパン」。特徴は「口溶け」の良さ。パンがスイーツのように口の中で溶けていく感覚だそうだ。パンは温かいのがおいしいという常識を覆し、「くりーむパン」は冷やして食べる。今では各種メディアにも取り上げられ、各大都市圏各店でも行列を成しているそうだ。八天堂も同業他社が追随できない商品で事業を盛り返した。

森光氏は「私たちが何のために仕事をするか?それは決して売り上げや事業拡大ではない。こちらが勝手に売りたいと思うだけではダメで、私たちの思いがお客様に通じなくてはいけない。それには、私たちが作った商品で、どれだけお客様に喜んで頂けるかに思いを馳せていかなくてはいけない。それこそが経営の原点」と言う。そして佐藤氏は「自分がやる仕事の中に夢があれば、それは何物にも負けない強い力になるし、どんなふうにしてでも作ってしまう。人間とはそれだけの力を持つものだと思う」と。

下請けで、価格競争に陥らないためには、他社と差別化できる何物かをつくりあげねばならない。簡単なことではないが、トップが強い意志を持って、粘り強く挑戦する気概を持たねば達成できない。IT業界も同じだ。

セブン&アイが目指す「オムニチャネル」戦略とは

12月2日にセブン&アイHLDGSが、カタログ通販のニッセンを買収することを発表した(日経12月3日朝刊)。その記事に「セブン&アイは“オムニチャネル”と呼ぶ戦略を推進する。いつでも買えるネットなどと国内1万7千もの実店舗を結び、欲しい商品を消費者それぞれの事情に適した形で販売。その一環でニッセンとはリアル、ネットの垣根なく連携していく」とある。

一方で「セブン&アイHLDGS.9兆円企業の秘密~世界最強オムニチャネルへの挑戦」(朝永久見雄著、日本経済新聞出版社刊、2013.9.2発行)と言う本も出版されている。この本には、「消費者がリアル店舗、スマホ、パソコン、テレビなどオムニ(全て)の環境で、継ぎ目なく(シームレス)買い物をする時代が到来しつつある。この“オムニチャネル”の時代において、セブン&アイ・ホールディングスは、オムニチャネルリテイラーとして世界最強になる潜在力を秘めている」とある。

私は恥ずかしながら、この言葉に初めて触れた。米国ネット界では一般的用語となっているらしい。長年にわたり国内小売セクタを代表するアナリストとして高い評価を受ける朝永氏は、国内で1万7000店以上の店舗を持ち、セブン‐イレブン・ジャパン、西武、セブン銀行、イトーヨーカ堂、赤ちゃん本舗など114社を抱える巨大流通グループが、その店舗網、顧客接点の量(頻度)と密度(距離)、商品の多様性、それを支える人材、物流を考えると、セブンネットショッピングを新たなプラットフォームとして各事業会社が一つに繋がることで、世界に類を見ない小売グループへ発展し、最終形では、日本の消費シェアを根こそぎ獲得する可能性を指摘する。

「オムニチャネル」の時代を、物語風に著している。大手商社に勤めるある独身女性(ちあき)が休日朝起きて、スマホにインストールしたセブンアプリを開き「自分の冷蔵庫」をクリック。ちあきの冷蔵庫にある材料で作れるメニューが出てきた。つくりたい料理をクリックし、人数を入れると不足材料が出てきて、注文。「3時間後にお願い」とクリックするときっちり3時間後に材料が届く。以前、その料理の時に同時にぶりの刺身を注文したことがあったが、注文の時に「ぶりはいかが?」と聞いてきた。届く45分前に調理された新鮮なものが届いた。スマホで注文するまでの時間は55秒。

朝永氏は「特に都市部では徒歩のお客さまが多く、“小売業の競争力は売り場面積に比例し、距離の4条に反比例する”」と言う。私も時々、自転車で5分位のイトーヨーカ堂に行くことがある。歩きはきついが、自転車でも坂があるときつくなる。インターネットでも注文することがあるが、これだけ近いとついつい実店舗に行ってしまう。しかし、年を取ると重いものや新鮮なものはインターネットでと使い分けができれば便利だ。イトーヨーカ堂のような実店舗が、ネットスーパーの商品加工拠点であったり、周辺のセブンイレブンへの商品供給拠点であれば、ますますイトーヨーカ堂の存在意義が広がっていく。

「オムニチャネル」戦略、リアルとネットの融合に注目したい。コンビニエンス事業、スーパーストア事業、百貨店事業、フードサービス事業、金融関連事業をシームレスにつなぐインフラづくり、IT業界の真価の発揮どころか。