「日本の課題」カテゴリーアーカイブ

日本経済はどうなる?日本流の発展とは~その1~

自民党総裁選や立憲党首選がマスコミを賑わせている。「日本を世界のてっぺんに押し上げる」、「世界をリードする日本」、「所得倍増で新しい日本」など、スローガンは立派だが、今の日本の現状をどう変えていくか、具体的な施策、道筋は見えない。

いろんな指標が示すが、過去の日本の栄光が今や昔物語となっている。世界企業価値ランキングでは、1989年には、1位がNTT,10位以内に金融業が5行、10位から20位の中に製造業が11位のトヨタはじめ6社が入っている。それが、2024年にはトヨタが39位で、20位までに米国企業が17社という状況に一変している。

大学世界ランキングでは、2016年の閣議で「今後10年間に世界ランキング100位以内に10校目標とする」と決定されている。が、2016年時点と2024年の100校以内を見ると、中国2校→7校、香港2校→5校、韓国2校→3校、日本2校→2校となっており、目標は2年後とは言え、閣議目標達成は絶望的だ。GDPは長らく2位を維持していたが今は4位、一人当たりGDPは38位。平均年収の低さも問題で、新卒の平均年収が、スイス約900万円のところ日本は300万円。韓国にも負けている。池上彰氏によると、アニメーターの給料も中国約50万円、日本は約35万円で、アニメの世界も中国の下請け化も必至と言う。脱炭素、EV化の遅れも指摘され、テスラやGAFAの動きから、トヨタもいずれはアメリカ、中国の下請け化となることが危惧されている。このような状況の中で「日本を世界のてっぺんに!」と言われても・・・。

8月27日朝日新聞夕刊の記事に目が留まった。カリフォルニア大学サンディエゴ校のウリケ・シェーデ教授の「日本経済は失われていなかった」との主張記事だ

「食うか食われるか」の厳しい米国文化と違って、社会の安定を大事にする日本の経済は時間はかかっているが、着実に成長している、との論調だ。

詳細は「日本経済はどうなる?日本流の発展はあるのか?~その2~」に続く。

人への投資・後追いの日本企業(朝日新聞)

少し古い記事ですが、今年1月13日の朝日新聞朝刊の連載記事「資本主義NEXT価値ある企業とは」が目に留まった。リード文は

工場や機械、店舗のような目に見えるものより、働き手のスキルなど目に見えないものに投資する方が企業価値を高められる。そんな考え方が広がり、欧米企業は人への投資を競い合う。「人を大事にする」はずだった日本企業は、後れを取り戻せるのか。

「人的資本経営」と呼ばれる潮流の中、人的資本に関する上場企業の開示情報を調べ尽くした経営者がいる。人材関連サービスの「Unipos」の田中弦社長だ。3月期決算の有価証券報告書を約5千社分分析したそうだ。その結果は「一部に優れた開示をした企業がある一方、サボっていた企業が多い。二極化が進んだ」と。女性の管理職比率に、男性の育児休暇取得率、男女間の賃金格差の3情報のほか、人材戦略やその目標などの開示が上場企業に義務付けられたのが2023年。分析の結果、3情報の開示で済ませた企業が大半で、充実した開示が出来たのは、6段階の独自格付の結果での上位評価が約5%に過ぎなかったと言う。

田中社長が高く評価するのが丸井グループだ。丸井は、小売りや金融にとどまらず今では、IT,物流、住宅などのビジネスに幅を広げている。丸井の考え方は、「企業価値と人的資本の関係は氷山のようなもの。見えやすい財務データとは違って“見えない資本”として人的資本がある。水面下に隠れているが、人的資本の分厚さこそが企業価値を生む源泉」とのことだ。青井社長は、「人財のポテンシャルを全開に出来る組織やチームをいかにつくるかが、資本主義の要」と言う。その考え方に沿って、社員のポテンシャルアップにいろんな施策をこうじている。一例をあげる。重要な経営課題について月に一度話し合う「中期経営推進会議」。幹部に限定していたメンバーを、希望する社員にも広げた。毎回1000人近くが手を上げ、論文審査を通過した約300名が参加する。新規事業や、昇進試験、職種をまたぐ移動も希望者を募る。自ら手を挙げた経験がある社員が8割を超えると言う。失敗を許容する活動として「挑戦する文化」作りにも力を注ぐ。新事業立ち上げなどの挑戦を打席数と数え、会社で5000回の目標を掲げて推進している。成果として、祖業の小売りや金融にとどまらず、IT,物流、住宅など幅広いビジネスを立ち上げ、今はPBR目標に届いていないが、将来的に5倍に引き上げたいと言う。

その他にも、新薬を生み出す力が企業価値を大きく左右する「アステラス製薬」や、人口減で経営環境が厳しい地方銀行「北国フィナンシャルホールディングス」の企業へのコンサル事業に活路を見出すための賃金体系の見直しなど、人材の活性化を目指す具体的な諸施策を実施する企業が増えつつある。

大学でも、「人的資本など会計上の数字では表せない”見えない資本“への先行投資が、長期的には高い確率で企業価値を高める」とデータで示した研究結果も出ている。人件費を1割増やすとPBRが7年後には3%増える”正の相関”を東証主要型株で観察した結果だそうだ。

日清食品ホールディングスでも、2021年から取り組みを強化し、「女性の育児短時間勤務を増やすと1年後にPBRが上がる」などの関係を多く見つけたと言う。「どんな具体策が”エンゲージメント”と企業価値を高めるかの分析も独自に始めているそうだ。

前述の田中社長「人口減が進む日本では、人に関する戦略の優劣が企業価値に直結する」、さらに「労働市場が明らかな売手市場になれば、人材戦略を語れる会社とそうでない会社には大きな差がつくだろう」と警鐘を鳴らす。

日本のGDPは、ドイツに抜かれ4位になり、いずれインドにも抜かれると言われている。人口減が急速に進む日本の将来を考えると、欧米にも遅れをとっている「人への投資」を生産性向上の施策として、真剣に考えるべきではないだろうか。

「難関大学を目指す」教育、見直す時(朝日新聞)

前回も教育問題に関する記事を紹介したが、期せずして、12月14日の朝日新聞朝刊にも、目が留まった。元京大総長山際寿一氏のコラムで、題名が「好きなこと選び、能力延ばしたい子供たちー”難関大を目指す“教育見直す時」だ。

前回も述べたが、今不登校の学生が増え問題になっている。小中学生で前年比22%増の30万人近く、高校生で前年比19%増の65000人強(2022文科省調査)となっている。スポーツ選手のように毎日画一的な義務教育ではなく、早くに自分の能力に目ざめ、それを延ばす道に歩む方が得策とも思える。今、子供たちの選択枝は増えてきている。

不登校の児童・生徒たちを支援するフリースクールは現在全国に1000校以上ある。今人気のあるインターネットと通信制を活用した「N高校」や「S高校」があり、合わせて2万6000人以上の生徒数だそうだ。当初は不登校の生徒向けだったのが、そうではない学生もいると言う。屋久島の「あおぞら高校(通信制)」や、全国に展開しスポーツや料理などの専門学校や大学を併設して進学をサポートしている「飛鳥未来学校(通信と通学)」などもある。

世界を相手に活躍したい人には、英語の授業を基本とするインターナショナルスクール(全国で60校以上)があり、毎年学生数は増えているという。英国のパブリックスクールのハロウ校(2022年安比高原)、ラグビー校(2023年千葉県柏の葉)が日本でも開校している。今年9月に小平市に開校したアルバーン・カレッジもある。すべて中高一貫教育校だ。しかし、これらの学校は授業料が高く、子供を入学させられるのは一部富裕層に限られることが課題だ。

山際氏は、日本の義務教育、高校教育に問題提起をしている。米国では、個人の能力を伸ばすことを目的とし、私立大学が主流となり、グローバルリーダーを目指す教育に変化していると言う。

日本では、難関大学の合格者数を競い、個人の才能の発見と育成という教育本来のミッションを欠いている」のではと指摘するのは、英国のパブリックスクールに詳しい関西外国語大学秦由美子教授だ(英国名門校パブリックスクール「ザ・ナイン」から日本が学ぶべきこと | リセマム (resemom.jp))。この記事の中で、ハロウ校の校長の言葉が紹介されている。

成績だけではなく、大学においてもその先の人生においても、より良い人間になることを私は彼らに望みます。ハロウに来る目的が単に試験で高得点を得ることであれば、スポーツ、音楽、課外活動を減らさなければなりません。しかしそれでは彼らはあまり魅力的な人間にはならないでしょう。高い理想ほど、長くかかるのです

少子化の中でますますグローバル化が進んでいる。子供たちの未来を拓くためにも、難関大学への合格数競争をするのではなく、個人個人の思いを聞き出し、目的を持って未来に進む教育がより必要となっているのではと思う。そして何よりも子供たちに、親も先生も愛情をもって臨む姿勢が求められているのではないだろうか。企業が求めている人材像も学業成績以上に、目的意識を持った人間性の高い学生だと思う。英国や米国に後れをとらないよう、日本も真剣に子供の成長のために義務教育の在り方、偏差値教育に偏る教育制度などを変えねばならないのではなかろうか。