「教育問題2」カテゴリーアーカイブ

幼稚園などで取り組む「立腰(りつよう)教育」とは

哲学者・教育者の森信三が唱えた「立腰教育」の重要性を実地に教育に取り入れているところが多くある。「立腰教育」の必要性についての森信三の記述をまず紹介する。“”常に腰骨をシャンと立てること-これ人間の根性の入る極秘伝なり。

人間は心身相即的存在ゆえ、性根を確かなものにしようと思えば、まず躰から押さえてかからねばならぬ。それゆえ二六時中、「腰骨を立てる」以外に、真に主体的な人間になるキメ手はない。
「腰骨を立てる」ことは、エネルギーの不尽の源泉を貯えることである。この一事をわが子にしつけ得たら、 親としてわが子への最大の贈り物といってよい。
一、腰骨を立て
二、アゴを引き
三、つねに下腹の力を抜かぬこと
同時にこの第三が守れたら、ある意味では達人の境といえよう。

そして、さらに「躾の3原則」」として下記を挙げる。

(一) 朝のあいさつをする子に。
それには先ず親の方からさそい水を出す。
(二) 「ハイ」とはっきり返事のできる子に。
それには母親が、主人に呼ばれたら必ず「ハイ」と返事をすること。
(三) 席を立ったら必ずイスを入れ、
ハキモノを脱いだら必ずそろえる子に。

「致知2014.4」にも、足立区の梅島幼稚園長山下有一氏が「古典の旋律が園児を目覚めさせる」の記事の中で生活習慣や社会生活の基本として立腰教育を取り入れていることを語られている(丈夫な体を作るための薄着教育、音楽や楽器演奏など音楽を中心とした感性教育に加えて最も特徴的なのは、言葉の活動で漢字教育をベースとした古文教育を行っている)。そして「致知随想」の中で、和歌山の教円幼稚園園長の浅井周英氏も森教学の根本である立腰教育を実践され、効果を出している。インターネットで調べても、全国各地で幼稚園だけではなく保育園、小学校などでも実践されているのが分かる。兵庫県西脇市のパンフレットでは。その効果を下記のように記述している。

☆ やる気が起こる。
☆ 集中力が増す。
☆ 持続力が増す。
☆ 行動が俊敏になる。
☆ 内臓の働きがよくなり、健康的になる。
☆ 精神や身体のバランス感覚が鋭くなる。
☆ 身のこなしや振る舞いが美しくなる。・・・など

昔、先生が「シャンとせよ」と言っていたのを思い出す。会社でも、だらしない恰好で仕事をするより、シャキッとした姿勢で仕事をする方が効率は上がるように思う。「立腰教育」は、まじめに人生を生きるための効果的な手段でもあるようだ。

長友、葛西も今あるのは母の力!

野口英世やアンデルセン、福沢諭吉なども花のお蔭で偉人になったとの話を以前紹介した(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2013/9/18)。今イタリア1部リーグ(セリエA)インテル・ミラノ所属の長友佑都や、先のソチオリンピックで銀メダルのスキージャンプ葛西選手も母の力が大きかったそうだ。

葛西紀明氏は「致知2005年8月号」に登場し、メダルに懸ける思い、そしてこれまでの辛く苦しい道のりと母の深い愛情を語っている。米も買えない、電話も引けないといった貧しい少年時代。それでも大好きなジャンプを続けられたのは母のお陰。苦労を掛けた母に金メダルを取って、家を建ててあげると約束し、厳しい練習を乗り越えてきた。そんなある日、実家が火事に遭い、母親が全身火傷を負い、手当ての甲斐なく亡くなってしまいます。入院中は手も握れないひどい状態だったそうですが、痛みと死の恐怖に必死で闘いながら書かれた励ましの手紙。そこには「いまこの時を頑張れ。絶対お前は世界一になれる。おまえがどん底から這いあがってくるのを楽しみに待っているよ」という、母の深い思いが綴られていたそうだ。死後見つかったという日記に葛西選手は、「今でも手紙を開くとポロポロと涙がでてくるんです。大事な大会の前にはこの手紙を読み返します。見るたびにものすごく大きな力をもらえるんです」と話している。(2月17日致知出版社“おかみさん便り”より)

「佑都の武器は、スピードでもフィジカルでもなくて、相手の懐に入っていく力だよね」インテルでチームメイトと楽しくやっている僕を見て、事務所のスタッフが言った。「どこへ行っても仲間といい関係が生み出せる。それはひとつの才能」とも。その「才能」は中学時代の経験から開花したと長友は言う。長友は、小学校時代からサッカーをやっており、地元の愛媛FCに入りたかったが不合格。中学でもサッカー部に入ったがそこは不良の巣窟。長友もゲーセンに入り浸ったりして、サッカーはあきらめかけていた。当時お母さんは離婚し、家族を養うために働きづめだったが、荒れていた息子にも何も言わず、「自分が気付かないと何を言っても仕方ない」と周囲に漏らしていたそうだ。そんな時、中学のサッカー部を何とかしたいとの強いを持った先生(井上博先生)が赴任してきた。その先生が、自分が小さい時からプロになりたいと思っていた気持ちに火をつけてくれた。「俺はお前とサッカーをやりたいんや」の言葉が胸に響いた。座る暇もない位、愚痴も一言も言わず働いてくれている母さんに対する感謝の気持ちも思い出させてくれた。情けなくて、腹立たしくて、申し訳なくて、カッと身体が熱くなった。涙が頬を伝ってきた。一筋涙が流れると、もう止まらない。声をあげて泣いた。長友は自分の弱点を自分で掴み、自分なりの練習でそれを一歩一歩、克服していく。サッカー部での練習の他に、早朝と夜間は自主トレだ。睡魔との戦いだったが、授業中には絶対に寝ないで頑張った。母親が必死で働いて、授業料を払ってくれているからだ。その先生のお蔭で、中学時代、ウソ偽りのないまっすぐな思いでぶつかりあう人間関係の熱さや感謝の心を学ぶことが出来た。誰かを思い、大切な人のために闘う。そして誰かとつながっている。ひとりじゃないといつも感じられる。だからいい仲間に出会えるのかもしれない。「感謝の気持ちがあるから、僕は成長できる」と長友は言う。その言葉通り、高校から大学、プロ、そして欧州へと、その都度、下から入って、そこで成長して這い上がっていく繰り返しだった。

 長友の成長の原動力は中学の恩師と母に教わった「感謝の心」だ。そして、その「感謝の心」があるからこそ、イタリアのインテル・ミラノでもチームメートの「懐に入って」、チームの要としてやっていけているのだろう。(JOG-Mag No.838 ‘長友佑都を育てた母と教師’より,2014.3.2)

残念だが、‘父のお蔭’と言う話はほとんどなく、‘母のお蔭’との話が圧倒的に多く、また話題にもなる。後者のJOG-MAGには、今回の記事について「本編に登場する長友の母親や井上先生のような人物が我が国の教育再生に必要です。」とある。母の力は大きい!

米国の大学生就職先人気企業ランキングTOP10に非営利法人が複数社!

2012年の調査では、1位がディズニー、2位が国連、3位に非営利団体のTFA(Teach for America)、4位がGoogle,6位がApple、7位に途上国でボランティア活動を行う、日本の青年海外協力隊に似たPeace Corpsが入っている。日本では業界最大手の総合商社や金融機関ばかりが上位を占めているのに対し、非営利団体が上位を占めるというのは日本では考えられないことだ。この違いから日米の教育の差異に注目し、問題提起を行っているのが九州にある中村学園大学教授の占部賢志氏だ(「致知2014.3」)。占部氏は当ブログでも何度か紹介しているが、「日本のこども大使育成塾」で子どもを東アジアに派遣したり、「語り継ぎたい美しい日本人の物語」などの本を出版され、幅広く教育問題に取り組まれている方だ(http://jasipa.jp/blog-entry/8971http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2011/10/13)。

「日本の教育を取り戻す」とのテーマで連載されているが、今回は第10回目で「行動に移してこその惻隠の情~一歩前に出る意志と行動力を育てよ~」とのタイトルだ。上記TFAの創設者はウェンディ・コップと言う米国女性で、大学時代に低所得地域など、何処で生まれるかで、受ける教育の中身がまるで違ってしまうとの教育界に潜む根深い問題に気付き、その問題解決にあたる決意をした(1988)。そして「全米の名門大学から優秀な学生を集めて、卒業後の2年間、低所得地域の公立学校に教師として派遣する」との企画を立案。しかし現実は、資金集めはともかく、名門校の優秀な学生をどうやって集めるか難題が次々と現れる。コップ氏は彼ら若手の志に賭けるしかなく、各地の大学に出向いて切ないほどのアピールを繰り返し、ついに若者の志に火をつけた。全米の名門大学から2500名の応募があり、その中から500名を選び、講師としてのトレーニングを施して各地の学校へ送り込み、画期的な成果を収めた。今では、この救国運動に、日本円で30億円近い寄付が寄せられ、応募者も2006年は1万9000人、現在はその倍以上を数えているという。気高き志に打てば響いて参画した大学生、志や良しと見て寄付を惜しまなかった企業や財団の度量も見上げたもの。これが米国の懐の深さと占部氏は言う。

国際的にも日本の学力が落ちているとの問題認識から、学力向上が叫ばれているが、米国に比して“国や社会のために自分を賭ける若者が乏しい”のではないかと占部氏は問題提起する。それを物語るデータとして、平成17年度国立教育研究所が全国の小中学校約2850校の校長と約9000人の保護者に実施したアンケートの結果として「他者 の立場に立って物事を考える」教育はほぼできているが、「社会や他人のために尽くすこと」の教育は出来ていないとの結果が出ている。即ち、他者の立場に立つことで芽生えた惻隠の情はあるが、行動には移せないのではないかと言うのである。別のデータ(平成22年日本青少年研究所日米中韓の高校生対象)では、「私の参加で変えてほしい社会現象が変えられるかもしれない」と思う高校生が日本は30%台に対し、米中韓は60%台だったそうだ(選挙の投票率が他国に比して低いのもこのせい?)。

ではどうするか?平成10年度文部省が実施した小中学生約11000人対象のアンケート結果では、よく家などでお手伝いをする子供の60%は道徳心や正義感が身に付き、「電車で席を譲る」「友達が悪い事をしていたらやめさせる」といった行動を示すのだそうだ。お手伝いをしない子は4%程度しか身についていないらしい。従って、今話題の道徳教育は、学校での学習だけではなく家庭などで身を持ってする奉仕体験が欠かせないと占部氏は言う。東京大学が提唱した秋入学が実現すれば、高校卒業後半年間公共の奉仕活動を義務付ける制度の導入を提言している。オーストリアでは、すべての男子に6カ月の兵役が義務付けられているが、兵役拒否者には州知事の承認を受けた病院や福祉施設などで9か月の代替役務を果たすシステムが採用されている。イギリスでは、50万以上のボランティア団体が存在し、成人人口の二人に一人にあたる2500万人近くが活動に従事していると言う。「ノーブレス・オブリージ」の国でもあり、公けのために生涯を捧げる意志を養う教育をイギリスでは「エリート教育」と言うとの事だ。

今「教育再生」が叫ばれている。災害時のボランティアは阪神大震災以降、大きなうねりを見せている。が実際に行動に移している若者はほんの一部だ。企業でも、一部の時間を社会貢献活動に割くことを方針に掲げている所も出始めた。「道徳」教科の必修化が話題になっているが、家庭、社会全体が、問題認識を共有化して占部氏の提案にある公共の奉仕活動を活性化することが、日本人を甦らせるとの占部氏の提言に賛意を表したい。