以前、当ブログでも紹介した(“自己肯定感が劇的に人を成長させる”http://okinaka.jasipa.jp/archives/69)一般社団法人子どもの笑顔代表理事岩堀美雪さんが「致知2017.8」の対談記事に登場している。岩堀さんの「宝物ファイルプログラム」を適用して社風がガラリと変わりお客様からの評判を飛躍的に挙げたシバ・サンホーム社長柴部崇氏との対談だ。
「宝物ファイルプログラム」とは、前稿ブログでも説明しているが、岩堀氏いわく「自分の長所に目を向けて、自分のことが好きになる。つまり、“自己肯定感”を高めるための具体的で効果的なプログラム」と紹介する。さらに「人間は自己肯定感が低いと他人の顔色ばかり気にして生きづらくなったり、本来持っている力を十分に発揮できなかったりします。高くなると、家族や仲間のことがいつの間にか大好きになり、毎日が楽しくなり、持っている力を十分に発揮できるようになります。」とも。
「宝物ファイルプログラム」で用意するのは、クリアファイル。子供用と大人用があるそうだが、子供用のクリアファイルの表紙の次のページには「みんなに良いところがあるから、そのことを忘れないでね」と言って、「自分のことを大好きになろう」「家族や友達のことも大好きになろう」と書かれている。この考え方に基づいて、頑張りたいことや、好きな物、残したい写真、お世話になった人、そして自分の長所を自ら書くと同時に、友人や保護者からも誉め言葉をもらってファイルする。このファイルを見れば、保護者も気が付かない一面を知ることが出来、それがまた本人の意欲につながる。自分の長所や友達の長所など、最初はなかなか思いつかないが、時間がたつとともにいくつも書けるようになる。
社内のギスギスした人間関係に頭を悩ませていた柴部社長がある経営者向け研修会で岩堀さんの話を聞き、社内にお招きし社員研修を行っていただいた。月に1回、計3回の研修で、幼少時代からの自分を振り返りながら、両親やお世話になった人を思い出しながら、いまある自分を見つめなおす。その効果が、お客様の「皆仲がええな。元気やな。任せて安心やな」の評価となり、業績も上がっているとのことだ。
岩堀さん自身も小学校の先生として31年間勤められた中で、学級崩壊状態の小学5年生クラス担任を受け持ち、「宝物ファイルプログラム」の適用を試みたがうまくいかずうつ病寸前のところまで経験されたそうだ。が、ある時から根気よく生徒のいいところを見るようにしたところ見事に行動が変わっていき、卒業式の時子供たちが大泣きし、ある子は「先生、まさかこのクラスでこんな楽しい日が来るなって思ってもみなかったです」と言ってくれたことが忘れられないとのことだ。
”自己肯定感“、子供にとっても、大人にとっても人生を変えるキーワード。考えてみたい。
「人材育成」カテゴリーアーカイブ
高プロ人材のフリーエージェント社会は到来するか?
7月16日の日経朝刊1面トップに「プロ人材 移籍制限歯止め~働き方 自由度高く~」と題した記事が目に留まった。前文に
企業と雇用契約を結ばずに働くフリーのプロフェッショナル人材らの労働環境改善に向け、公正取引委員会は独占禁止法を活用する。力関係の差を背景に企業が転職制限をかけたり引き抜き防止協定を結んだりして人材を囲い込む恐れがあるためだ。生産性の高いプロ人材が働きやすい環境を整備することは日本の国際競争力強化にも欠かせない。
とある。最近テレビで、ラグビートップリーグで、移籍選手が移籍元の了解がなければ移籍先で1年間の試合停止を余儀なくされるとの制度が問題視され、見直しを検討するとのニュースがあった。日本代表にもノミネートされるような選手が1年間試合停止となるのは、世界と戦う日本にとって大きな損失だとの認識だ。
日経の記事によると、フリーランスの人材は企業と対等な関係で仕事を受ける専門職で、日本で約1122万人いるという。この中で、専門性が高いプロ人材と呼ばれる人や独立した自営業・個人事業主らはほぼ3分の1の約390万人だそうだ。米国ではフリーランス全体で約5500万人に上り、日本は欧米などに比べて専門性を持った人材活用が遅れている。
このような課題に対して、今まで独占禁止法は、原材料(鉄鋼など)に限定していたのを、スポーツ選手も含めたプロ人材にも拡大適用し、プロ人材を囲い込むための不当な取引条件や、獲得競争による報酬上昇を回避するためのカルテル是正を行う。例えば、仕事を発注する条件として競合他社との取引を長期間制限したり、自社で使う人に仕事を発注しないよう同業他社に求めたりすれば「拘束条件取引」や「取引妨害」になる可能性がある。欧米ではすでに労働市場への独禁法適用は進んでいる。オランダでは医師の引き抜き防止協定もある。
「フリーエージェント社会の到来~組織に雇われない新しい生き方~」(ダイヤモンド社、ダニエル・ピンク著、池村千秋訳、2014.8発行)によると、米国では組織に忠実に使える「オーガニゼーション・マン(組織人間)」から、組織に縛られない「フリーエージェント」が労働者の新しいモデルになりつつあるという。既に教育の現場も変化し、18歳未満の子供の10人に一人が在宅教育を受けている事実もあり、プロフェッショナル性をより高度なものにするための教育制度も、徒弟制度などが復活したり、高校をスキップして大学に行くなど多様な選択ができるようになるとの予測や、キャリアの考え方や働き方、部下の監視を主体とする管理職の価値の低下、定年退職の考え方の変化などが起こるとピンク氏は主張する。
近い将来さらにグローバル競争が激化し、仕事の高付加価値化が進み、AIが仕事の質を変える中で、1企業内で市場が要請する高度化人材を揃えるのはかなり困難になるのだろう。日本でもすばらしいプロフェッショナル人材や、個人事業者が力を発揮しているが、その評価と流動性は米国などに比べて十分ではないように思われる。政府は骨太方針「人材投資」を掲げる。同時に人材への独禁法適用など、制度的な充実も図りながら、企業と連携しながら高度プロフェッショナル人材の育成、流動化の促進を図っていくことが求められている。
「人を育てる」致知2016.12特集より
逆境を克服して成功された方の経験談や、年齢を重ねても世のため、人のために頑張っておられる方のお話など、大いに刺激をもらっている人間学を学ぶ月刊誌「致知」。2016.12月号の特集テーマは「人を育てる」。以下に事例二つを紹介する。
まずは、人材教育家として自ら起業(シュリロゼ)し、女性向け自分磨きスクールや、大企業をはじめ数多くの企業での社員研修を通じて、これまで数万人を指導して来られた井垣利英さん。表題は「人は生きている間に生まれ変われる」。
プラス思考の人は、それなりの人に出合う。そして、その人の考え方に共鳴しつつ実行に移し、素晴らしい人生を歩んでいるのが井垣さんだ。フリーアナウンサー時代に、突然の父の死から父の経営していた名古屋の塾を継ぐために帰省。塾の在り方を追求する中で、船井総研の船井幸男氏、国際ジャーナリストの落合信彦氏と偶然会う事ができ、そのアドバイスを受けて、思い切って東京に出て30歳で起業。井垣氏の人材育成のポイントは「自分を信じてプラス思考で素直に行動」だ。「すべてに感謝をすることがプラス思考の前提」と言い、人は無意識のうちに1日約7万回もマイナス思考を繰り返している中でプラス思考に持っていくには相当な訓練が必要という。そのためには、日常生活の中で「ありがとう」をともかくたくさん言うこと。「ありがとう」は地球上で最もエネルギーの高い言葉だが、「ありがとう」というべき場で「すみません」とか「どうも」と言っている人が多い、と言われる(私も思い当たること多し)。「言い訳は敗北の前兆」「一人一人が世界で唯一の存在、その価値に気付いて自分を大切にしてほしい」、人を育てる熱き心をマッチの火ではなくバーナーの火と自ら言い切る。
もう一つ紹介する。福岡県北九州市内にガソリンスタンド3店舗を構える野口石油の野口義弘社長の話だ。タイトルが「愛は与えっぱなし」。設立以来20年、140名に及ぶ非行少年を雇用して来て、今では3店舗ともお菓子が途切れたことがないほど、お客様から差し入れを沢山いただき、地域の人たちから様々な恩恵を受けて成り立っていると言う。しかし、非行少年を立ち直らせる道は、そう簡単ではなかったと振り返る。「うちに来て何事もなく1回で更生できる子はこれまで一人もいなかった」、再び非行を犯して少年院や鑑別所に送られていく。しかし、野口社長は「どれだけ信じても騙され、裏切られる。それでも信じ続けた」と言う。彼らは一様に幼少期からの親からの愛情不足が非行の根底にある。だから、彼らと話をするときは嘘を言われてもずっと黙って聞く。絶対に茶々を入れずに目線を合わせて彼らの話を最後まで聞く。そして「見返りを期待せず、愛は与えっぱなし」の精神で接することで、再犯を繰り返しながらも「野口社長に申し訳ない」との気持ちが生れ、再犯1回目より2回目、2回目より3回目と反省の心が生れてくる。どんな場合でも「解雇はしない」というのも徹底している。会社のお金を持ち逃げしてもクビにはしない。会社に来なくなると電話ではなく、迎えに行く。奥様も次男も保護司をされているとの事だが、野口社長も「これからも非行少年の更生にこの身を捧げていく」との覚悟をされている。非行少年の更生の話だが、「人を育てる」ための基本が明示されている。