標記題の本が今年8月に出版されている(日経BP社)。著者は、早稲田大学ラグビーを2006,2007年全国大学選手権で連覇を果たした監督の中竹竜二氏だ。中竹氏は、早稲田大学在学中にもラグビー部主将として全国選手権で準優勝し、卒業後渡英し、レスター大学大学院修了、その後三菱総研に入所された経歴を有し、現在は日経BP「課長塾」をはじめ、企業研修やセミナーの講師としても人気を博しておられる。
主題は「部下が成長するためにどんな言葉をかければよいか?」だ。レトリックとは、古代ギリシアに始まった効果的な言語表現で、「修辞学」と言う。人を動かす皇帝、武将などが学ぶ教養項目の一つで必須のスキルだったそうだ。中竹氏は、日本の企業は暗黙知を信頼しすぎ「背中を見て学べ」「雄弁は銀、沈黙は金」のように語らずとも相通ずるものがあるというのは、もはや幻想で、多くの上司の部下の育成のための努力が部下に伝わっていないことを懸念している。そのため、チームを束ね、部下を成長に導くための、きちんと伝わる言葉を提示している。
- 苦手なことはやらなくていい:人にはそれぞれ「らしさ(個人の強み)」がある。ステレオタイプの理想像を求めるのではなく、「らしさ」を見つけ、「らしさ」を発揮できるような業務に配置する。
- ストーリーに「君らしさ」はあるか?:個人面談では通常目標をすり合わせる。中竹氏は、目標は設定しても、「らしさ」を考慮した目標に向かう道のり(ストーリー)をイメージし、そこで起こりうる困難に立ち向かうためどんな行動を仕込むか(シナリオ)をも考えるべしと言う。目標の空回りを防ぐために。目標とストーリーは事前に考えてきてもらい、面談時「そのストーリーに君らしさはあるか?」と問いかける。
- 「すごい人」より「出来る人」になろう:「すごい人」とは何をやらせても出来るスーパーマン。「出来る人」とは、きちんと準備して抜かりなく問題を片付け、確実に成果を出す人を言う。すなわち物事に対して真摯に向き合う態度に他ならない。(いろんな方が言っている「今に全力投球しろ」と同じことと思う)
- 準備を失敗するということは、失敗を準備する事:これはベンジャミン・フランクリンの言葉で、準備に誤りがあれば、たいてい失敗するということ。準備段階で、何が起こりうるか、どんな対処法を考えているか上司は部下に常に問い続けなければならない。
- 失敗することが若手の組織貢献だ:「若いうちはチャレンジして失敗することが重要」だけでは、失敗を恐れる若手には無責任。
- 自分のどこを見てほしい?:上司が個々人を見ている時間は少ない。どんなに努力しても部下の事をすべて把握することは不可能。「1日5分しか君の事を見ていられないとすればどこを見てほしい?」と聞き出し、成長と言う観点で問題あればきちんと議論して修正してやる。そして「君の成長につながる行動を、私は毎日きちんと見ている、だから頑張れ」と言えば、部下はそこに注力し、行動を改善していく。そこを上司は見逃さず評価する。
ラグビーでも、何でもこなすスーパーマンを作るよりも、個々の「らしさ」をより磨くことによってチーム全体が成長できるとの実体験に基づいた提言だ。これは本田宗一郎氏の言う、「適材適所で石もダイヤも宝になるよ」の言葉と同じと思われる。石でも石の良さを生かせば宝になる。個々人の「らしさ」、言い換えれば「強み」を見つけ、それを伸ばすための部下とのコミュニケーションの方法として参考になるのではなかろうか。