「経営改革」カテゴリーアーカイブ

貢献力の経営(続き)

NTTデータ山下社長の著「貢献力の経営」から。

真のプロフェッショナル人材は、「井の中の蛙」状態では育ちません。さまざまな知と触発し、学び、自分の強みと弱みを客観的に観察するうちに生れてくるものです。そして自律的に働くためには、武器となる自らの市場価値をしっかり把握しておくことが必須条件です。

山下さんは「公私混同」ではなく「公私混合」を説いておられます。

そもそも若手のモチベーションを呼び覚ますものは、個人プレーによる業績の達成などではなく、多様な人々とつながり合う楽しさ、ともに働く事で得られる達成感ではないでしょうか。多様なコミュニティの中に飛び込んだり、自分で仲間を集めたり。そこで「貢献のループを回せるようになれば、新たな能力や成果が生れてくるはずです。仕事の場でも生きてきます。これこそ、「公私混合」ともいうべき知識労働者の新しい働き方であり。成長の法則なのかもしれません。

そこで参考に挙げられているのが、東京海上日動システムズの試みです。同社はもともと典型的な縦割り組織だったそうですが、インフォーマルな活動組織を多数作り、セクショナリズムを打破することに成功したのです。活動内容は多彩で、ラーメン愛好会やスポーツ観戦の会といった趣味系もあれば、異業種交流会や、会議の運営方法を改善する会などビジネスやキャリア系の会も。現在では100以上もの活動組織があるそうです。

確かに、NTTデータの人たちもJISAをはじめ、いろんな外部コミュニティで主体的に活動されている方が目立ちます。社内でも、10年後の有るべき姿を創るワーキンググループ員に若い人たちから多数の応募があり、「変える力を、ともに生みだすNTTデータグループ」のブランドメッセージの実行に移すために、社員有志チーム(リスペクターズ)が非常にユニークな社内SNS「Nexti」を立ち上げたそうです。個人の暗黙知をSNSにより集合知へ、そして実践知へ進化させていく、その事例が数多く出てきていると言われています。

「言われたことはきっちり出来る人」から「社会の変化を敏感に捉え、自律的にモノ申せる人」になるために、いろんな人と話し合える環境を創ること、JASIPAの役割の一つかも知れません。

貢献力の経営(NTTデータ山下社長)

NTTデータの山下社長がこの7月に標記題の本をダイアモンド社から出版された。山下さんご自身、ライバルのNRIとの協創で日本のIT業界を改革するとの行動で世間をあっと言わせたり、本の中にも出てくる富士ゼロックスが主管し、慶応義塾大学と連携してANAなど複数の企業が参加する「バーチャルハリウッド協議会」の副会長をやられたり、1企業の枠を飛び越えた活動を積極的にやられています。今回の本の主題は、正念場を迎えている日本の企業運営に最も必要なものは「貢献力」だとの提言です。

今日本で起きている大きな変化、一つはコミュニティにおける変化。地域社会や企業における個人主義の進展によるコミュニティの衰退と、ツイッターやフェースブックなど新たなソーシャルメディアの台頭です。この変化は「新たなコミュニティを獲得し、新たな力を得るもの」と「新たなコミュニティから取り残されるもの」と2極分化する時代の予兆とも言っておられます。

もう一つはグローバル化に見られる「経営環境の予想以上の変化」です。企業における国の概念がなくなる時代に、企業としてのアイデンティティをどうするか、コンプライアンスやCSRなど「社会の公器」としての役割も求められます。スピードをますます増して経営環境は変化していきます。このような時代になると、もはや経営陣や、一部の人間のリーダーシップだけでは企業を牽引できない時代と言える(社長の決断の間違いが取り返しのつかないことになる)。

いつ何時想定外の災難がふりかからないとも限らない時代、正解のない時代に求められるのは「個々の知を結集させ、皆で立ち向かう仕組み」に他ならないというのが山下社長の主張です。

まさにIT業界は、労務提供型から知識・知恵・サービス提供型に変わらなければ海外のベンダーに蹂躙されるとの危機感が言われています。これを追求し実現するには、一人一人のモチベーション・知力を育成せねばなりません。しかし、一人だけの力では限界があります。いかに社内外含めた知恵を結集させて、お客様の要望を満たすかが問われるのです。成果主義がその壁を阻んでいるため、見直さねばばらないとも言っておられます。

社内外のいろんなコミュニティに参加し、人脈を作る。また社内外にいろんなコミュニティを作り運営する。NTTデータは社内にSNSを作り、また「貢献事例研究会」も発足させ、事例つくりを行っています(本にもいくつか掲載されています)。

私もまったく共感できる考え方です。この本を深く読み進め、再度報告したいと思います。

会社は変われる!

タイトルを題名とする本が6月に出版されている。副題が「ドコモ100日の挑戦」とあります。元日本コカコーラ会長の魚谷正彦氏が低迷していたNTTドコモの改革に寄与した軌跡を記述したものです。2006年の「ケータイ満足度調査」で競合2社に惨敗し、新聞では大々的に「巨人の凋落」と酷評されていたが、2010年に堂々の一位を勝ち得たのだ。確かに、この7月21日に発表されたサービス産業生産性協議会が発表したJCSI(日本版顧客満足度指数)の調査結果でも、キャリアで昨年に続き一位となっている。

魚谷氏曰く「お客様起点のマーケッティング」発想に基づく改革を徹底したとのこと。何が問題だったか?価格の高い機種を買ってくれるお客様が一番いいお客様で、高いものを如何に買ってもらうかが社全体の課題であった。これはまさに作り手側の発想。そしてさらには、既存顧客よりは新規契約の拡大に注力していた。こうして、他社との競争においてドコモブランドの劣化が進んでいた。

そのため、「手のひらに、明日をのせて」のスローガンのもと、社長が先頭に立って、お客様起点の意識改革に取り組んだ。「コンタクトポイントの量と質がブランドを高める」ことは分かっていても、3万人のスタッフの行動方向性が統一できていただろうか?具体的なターゲット顧客を決めるには?高度成長期とは違い、成熟期では新規顧客以上に顧客基盤の強化(既存顧客が維持できるブランド力)が必須。いわゆる「ロイヤリティ戦略(継続的な利用意向)」こそが重要となる。

社長がトップの「ロイヤリティ・マーケティング委員会」では、100以上の具体的なアクションを決めた。その中の一つが電池無料交換期間の短縮(プレミアム会員向け)であった。寿命が1年3カ月程度と知りながら交換は2年としていたのを1年にした。社員も気付いていたが、コストがかかるため言い出せなかった。

このような活動で3年で会社が大きく変わった結果が顧客満足度一位であった。

先週27日のJASIPA定期交流会で講演して頂いた小松製作所の渕上様の主題は「本業回帰で劇的な収益向上」でした。とかく業績が思わしくないときは、新規事業に関心が向き、新規顧客拡大に目が向く。渕上様曰く、新日鉄はじめ多くの大企業もそれで大失敗に終わっていると。成熟社会の今、既存のお客様に視点をあてた活動を重視し、お客さま視点のサービス強化で他社との差別化、すなわちブランド化で企業をよみがえらせる、そのための具体的な方策を打ちだすべきではなかろうか。先述のサービス産業生産性協議会のJCSI調査結果(*1)では昨年と一位が逆転した業種が増えつつあるそうだ。まだサービス競争は緒に就いたばかり、早く目覚めた企業が勝ち組になれる、

 *1:http://activity.jpc-net.jp/detail/srv/activity001042.html