「教育問題2」カテゴリーアーカイブ

京都から大学を変える(京大松本総長著)

以前にも、懇意にして頂いている京都大学松本紘総長(今年満期を迎えられるそうだ)の大学改革に対する熱意を紹介した(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/2/17)。3年前の記事で、入試改革やグローバル人材育成のための全寮制の5年大学院の創設を熱く語っておられたが、その後着々と進んでいる大学改革(高校との連携も含めて)について、表題「京都から大学を変える」(祥伝社新書、2014.4.30)を出版された。

「今、大学で何が起きているか」の章から始まる。受験科目の減少に伴う受験科目に特化した学習やAO入試、推薦入試の弊害、就職活動の早期化などにも起因して、ますます学生の質が劣化している現状を問題視する。そして、世界大学ランキングでも、かってはアジアで圧倒的な地位を占めていた日本だが、近年は中国、韓国、シンガポールなどが猛烈な勢いで台頭してきていると言う。日本政府は「10年以内に世界ランキング100に日本の大学を10校入れる」ことを目標に掲げている(2013年は、2社ある調査会社でそれぞれ6校、2校しかない)。国際化指標(外国教員や留学生の受入数や、英語での論文数など)が、北京、香港、シンガポールなどは80点~90点代なのに、東大、京大は20点代という現状と言う。さらには、日本の大学での留学生の学習意欲のすさまじさに日本人ははるかに劣るとも。実際、日米の比較(大学生)でも、1週間に勉強する時間が11時間以上の比率が米国は58.4%、日本は14.8%(2007年度東大調査結果)。このような現実を放置していると、日本は「先進国」ならぬ「先衰国」になること必定。このような危機感を持って、「育人」こそが、資源の乏しい我が国におけるもっとも重要な未来への投資と、積極的に大学改革に取り組まれている著者の情熱と志が伝わってくる。その施策の一部を紹介する。

京大方式特色入試(2016年春より実施)

受験科目しか勉強しない傾向に対して、幅広い教養が創造力の源泉と言う筆者は、高校時代音楽や体育も含めて幅広い知識と教養の土台をしっかり身に付けることを目的として、2016年度より、学部ごとにある人数をこの方式で採ることとしている。高校での学修における行動と成果、そして各学部におけるカリキュラムや教育コースへの適合力を判定基準とする。前者では、在学中の各種活動歴や、学業活動報告書を学校長の責任で作成し、志願者は「学びの設計書」を提出する。後者は、各学部ごとに決められた選抜方式に則って行う。センター試験の成績もあるが、小論文や、口頭試問などがある。

国際高等教育院の設置(2013年4月)

地球規模の課題に取り組むための複眼的な視点を培える教養・共通教育を実施するために全学部連携の制度を作った。筆者独自のキーワード「異・自・言」を身に付けた人を育てる。「異」とは、異文化・異分野を理解し尊重する態度。「自」は、自国の文化などに対する知識や、日本人としての自らの考えの確立と主張。「言」は、言葉=対話力で、「異」と「自」を繋ぐ語学力を意味する。外国人教員を約100人に増やし、カリキュラムの約50%を英語による授業に切り替えていくと言う。

リーダーを育成する新大学院「総合生存学館」(通称思修館)(2013年4月)

現在の専門性を磨く修士課程(2年)、博士課程(3年)に変わり、幅広い知識と深い専門性、柔軟な思考力と実行力を備えたグローバル人材を育成するための新しいタイプの大学院だ。地球そのものを持続可能にするためには、資源・エネルギー問題、人口・食糧問題、さらには地球温暖化の問題など、専門に特化した従来の大学院では対応できないことや解決出来ない難題に対応するための人材育成を司る。企業も針先のような尖った専門性を有する人材よりも、幅広い専門性を有するグローバル人材を求めている。定員は年20人、学寮制。かなり厳しい教育制度だが、真に日本が世界に羽ばたくために必要な人材を目指す。

その他にも若手研究者を支援する「白眉プロジェクト」、海外経験を支援する「ジョン万プログラム」、新しい学問を生む「学際融合教育研究推進センター」などユニークで、世界が求める人材育成のための各種施策を実施している。

今、秋入学の話題など、各大学で改革が議論され、実行されつつある。昔から問題視さている有名大学志向の「お受験」ママのような視野の狭い考え方を廃し、グローバルに活躍できるリーダー育成をするための大学改革、そして入試改革が日本を変えることを期待したい。

“日本の子どもは忍耐力に欠ける”ってほんと?!

21日の日経朝刊にOECD(経済協力開発機構)による15歳を対象とした2012年アンケートの調査結果として、調査に参加した44カ国・地域で日本の「忍耐力」は最下位との記事があった。

質問は5項目。()内数値は、日本、OECD平均を示す。‘約’と付けた数値はグラフから読んだ数値。

  • ●「困難な問題に直面するとすぐにあきらめる」(22%、17%)
  • ●「難しい問題は後回しにする」(約50%、約30%)
  • ●「すべてが完璧になるまで課題をやり続ける」(25%、約57%)
  • ●「取り組み始めた課題にはいつまでも関心を持つ」(29%、約50%)

全ての質問に対して、日本はOECD平均よりかなり悪い結果が出た。OECDの学習到達度調査(PISA)は2000年から3年ごとに実施している。昨年12月はじめに発表した「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の全3分野については日本の平均点は2000年の調査開始以降で最も高く、順位(それぞれ4位、7位、4位)も前回を上回った。当時の新聞では「2003年の調査で順位が急落した「PISAショック」をきっかけに、「脱ゆとり教育」へ転換したことが功を奏したとみられる。」とある。また日本をはじめアジア各国・地域の子供たちの「問題解決能力」が、欧米などに比べ高いことが分かった(7位までアジア地域が占め日本は3位)。「問題解決能力」とは、初めて経験することなど解決方法がすぐには分からないような問題が起きたとき、これまでの知識や技能を生かして状況を判断し、解決しようとする力と定義される。コンピューターを使って行われ、説明書がないエアコンの温度と湿度を調節する操作方法を考えさせたり、初めて見る自動券売機で指定された乗車券を購入させたりする問題が出された。だが、日本の場合、得点が高い割には自信がないという、精神面の問題が明らかになった。今回の日経の記事は、同時に実施した「忍耐力」の自己評価に関してである。「物事の理解は早いほうだ」「多くの情報を扱うことができる」と考えている割合も最も低く、自己肯定感が欠如していることも浮き彫りになった。自己評価の為、日本人の謙遜(控えめ)気質が影響したのではと見る向きもありそうだが、文科省はこのデータを見て「粘り強く取り組む力も育てたい」と言っている。

各国もこの調査結果をある程度意識しながら教育改革を進めている。日本でも、脱ゆとり路線に転換した平成20年の学習指導要領改定後、例えば神奈川県教委は「『問題解決能力』育成のためのガイドブック」を作成。理科の実験や社会のフィールドワークなどで、状況の判断力や分析力、問題解決への意欲を高めるプログラムを提唱している。アジア勢でも近年、PISAに対応する教育改革を進めており、シンガポールでは、国家予算の約2割を教育関連政策にあて、理数重視のカリキュラム開発に力を入れていると言う。

日本人の特質とも言われ、東日本大震災時も発揮され世界から評価された「忍耐力」がこんな実態であることに驚く。若い人たちが自信を取り戻すためにも、「日本人の誇り」や「自己肯定感」の教育にもっと力を入れる必要があると思われる。

<参考>自己肯定感に関する記事:http://jasipa.jp/blog-entry/6579

よき人生を送るには自分の最高価値観に気づくこと!

アメリカの国際的な教育者ジョン・F・ディマティーニ氏が来日された際、当ブログでも何度か紹介させて頂いている文学博士で聖心会シスターの鈴木秀子氏(http://jasipa.jp/blog-entry/6241http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/8/22http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2013/5/3など)がインタビューされた記事が「致知2014.5」に掲載されている。ディマティーニ氏は世界を年間300日飛び回り、「ディマテーニ・メソッド」や「バリュー・ファクター」のセミナーや講演会を74の国で毎週のように開催している。日本にも普及協会があり、その招きで2012年3月には、ディマティーニ氏自身が石巻を訪問し、悲しみに打ちひしがれている人達に将来に向けて希望を与える支援を行われたとか。(政治家の父親を亡くしその悲しみを拭えずにいた女性がディマティーニ氏の指導を受けたあと、感謝の涙を流したそうだ。彼女はこれまでも石巻の復興に人生を捧げようと思っていたが、それは政治家の娘としての責任感や義務感だったのを、自分の自発的な意思で「この石巻を世界一にしたい」と心底から思えるようになったことで感謝の涙になったとの事)

人はいろんな価値観を持っている。その中で最高の価値感、すなわち人生の本当の目的が見いだせれば、その目的に向かう過程で起きる成果も逆境もすべて受け止めて前に進むことが出来るということ。人生の目的が定まらない人は、ちょっとした苦しみや痛みが襲ってくると避けるようになり、その痛みや苦しみから逃れようとする。人生においては誰もが苦しみや痛みを経験するが、それをネガティブに考え過ぎると、挫折感を味わうことになる。それでは、どうすれば最高価値観を見出せるのか?「ディマティーニ・メソッド」では、13の質問を使う。(カッコ内はディマティーニ氏の答え)

1.自分の空間をどのようなもので満たしたいか?(本)
2.どのような時間を過ごしているか?(教える、読む、書く、旅行する)
3.何があなたにエネルギーを与えているか?充電するためにあなたは何をやっているか?
4.お金を何に使っているか?
5.最も整理整頓をしているものは何か?
6.最も集中できることは何か?
7.何について最も考えるか?
8.普段、何について思い描くことが多いか?
9.何について自問自答しているか?
10.他人との会話のテーマは何か?
11.何について心を動かされるか?
12.どのような目標を立てることが多いか?
13.何について学んだり読んだりすることが多いか?

各質問に対して思いつくまま各3つづつ答えを出していく。そして答えの重複回数を出し多い順に並べると、最も多いのがその人の最高価値観になると言う(鈴木氏は、この13の質問は最高価値観を探す具体的な素晴らしいヒントになり、丁寧にやっていけば答えを見つけることが出来るのではと言う)。

「とかくサラリーマンは、上役や他人の価値観に従属してしまって、自分の最高価値観に気付かないまま生きている」とも言う。「もし、社員の皆さんが自分の最高価値観を会社の経営理念や自分の業務とつなぎ合わせることが出来たら、その会社で働くこと、自分の業務を遂行することが自分にとっての最高価値観を満たすことになる」とも。

自分の行動を素直に振り返れば、自分の価値観で動いている事例が多くある。それを素直に見ることで、自分の人生の目的(最高価値観)を見出す。目的があることで、前回のブログで言った「ピンチをチャンス」(http://jasipa.jp/blog-entry/9435)に変えることが可能になるとも言える。