言葉力が人を動かす(コマツ坂根会長)


この連休、二つの書物でコマツ会長の記事が目に留まった。以前、ハイアットリージェンシーで講演を聞く機会があったが、コマツが厳しい時代に社長となられ(2001)、構造改革を断行してV字回復された実績を持たれる坂根氏の話は、迫力があり大いに参考になる。

3月に「言葉力が人を動かす~結果を出すリーダーの見方・考え方・話し方」という本を出された(東洋経済新聞社)。坂根氏は、社長就任1年目にコマツとしては初めての大赤字(800億円)を出した。それをバネに翌年から6期連続の増収増益を記録した。坂根氏は、その理由を社員や取引先などが、自分の発する言葉に耳を傾け、協力してくれたからと言う。なぜ耳を傾けてくれたか?

言葉が人を動かす力を持つうえで、「見る」「語る」「実行する」の3つが欠かせないと言う。現実をよく見て、それから語り、語った後にはその言葉を実行すること。トップは事実の本質を「見る」力をもったアナリストでなければならない。坂根氏は、「社内外では、海外より製造コストが高いため競争力を失ったという意見が主流を占めていた」のだが、米国のライバル会社と比較したところ、製造コスト以外の固定費が高いことに気付いた。だから「固定費を下げればいい」との結論を導いた。これが本質を「見る」ということ。

固定費削減の施策の一つとして「希望退職」を募った。これだけでは社内は暗くなる。そこで「研究開発費は削らない。その代り他社が真似のできないダントツ商品を作ってナンバーワン企業になる」と宣言。固定費削減に対するリーダーの覚悟を示すため、110の子会社を畳んだ。コアではない事業からの撤退である。これが「語る」「実行する」である。

PHP Business Review「松下幸之助塾」5・6月号の特集「本物の経営者を育てよ」に坂根氏の記事がある。この記事にも、上記内容に加え、「コマツウェイ」として経営の基本をまとめ、冊子にして全社員に徹底するなどの施策も語られているが、私が興味を持ったのが「ビジネスリーダー選抜育成制度」と「サクセションプラン(後継者育成プラン)である。前者は、グローバルで活躍できる経営幹部候補生育成のための制度である。30代の若手対象のB研修で毎年25人、40代の部長クラスを対象とするA研修で10人程度。面白いのは、この研修で選抜された人の人事権を人事部にしていること。研修を開始して10数年が経過した今では国内外含めて執行役員などを務めている人のほとんどが、当研修受講者だと言う。後者のサクセッション制度が最も興味深い。役員や部長に「自分の次はだれ、次の次はだれ」という候補者リストを提出させ、社長と意見交換する制度だ。「次の次はだれ」までリストアップしようとすれば若手も対象にせざるを得ない。そして自分の部署以外の人もリストアップ可能としているのが面白い。常に、役員、部長は意識して社員を知り、後任を意識せざるを得なくなる。またそれが社員の評判、評価につながる。

経団連でも、エネルギー問題など幅広く活躍されているが、「発言力」あるいは「発信力」というのは、当たり前の話ですが、聞く側が受け止めてくれなければ意味がなく、坂根氏の活動には大いに期待したいものです。

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