こんな「カリスマ添乗員」もいる!(日本旅行)

この3月阪急交通社のイタリア旅行に行った際、添乗員の博識に感心し、添乗員次第で旅の面白さが変わることを述べた(http://okinaka.jasipa.jp/archives/2744)。

それを突き抜ける驚くべき添乗員が日本旅行にいることを「致知2015.8」の記事が教えてくれた。その名は、平田進也氏(日本旅行西日本営業部個人旅行営業部担当部長&おもしろ旅企画ヒラタ屋代表)。その記事のリード文を紹介する。

突き抜ける、とはこの人の事を言うのだろう。平田進也氏は大手旅行代理店の1社員だが、年間売上8億円、お客さまからなるファンクラブの数も2万人にのぼる「カリスマ添乗員」である。平田氏はいかにしてお客様の心を掴んだのか。いかにして前例のない驚きと感動のツアーを企画し続けるのか。その仕事術に学ぶ。

平田氏が企画したツアーの一部が紹介されている。

仇討ツアー:日頃旦那さんたちが遊び回っている大阪の歓楽街・北新地に奥様方が繰り出し、高級クラブ、高級レストランを巡る旅。奥様の反応―男たちはこんな遊びをしているのか、腹立つわ(笑)。

快GOツアー:ファンクラブの方のお父さんが脳梗塞で倒れ、「車椅子でも行ける旅行」を希望されたため企画。介護福祉士を同伴し、日頃介護されているお客さんに代わって車いすを押し、お風呂にも入れてあげる。この取り組みがテレビで紹介され、同じような要望が殺到。

こんな企画を年間40本近く企画、平田さんの企画なら何でもいいから参加したいと全国から平田ファンが集まってくれる。平田氏の原点は「お客さまに喜んでもらいたい、とのお客さまに寄り添う心」だと言う。場合によっては、お客さまが喜んで下さるなら女装や変装も辞さず。「なんでそこまで?」と思う方もいるが、中途半端にやるのではなく、人生やりきる、ただ生きるのではなく、生き尽くさなければならない。肩書も関係なく、人間・平田進也がどれだけ仕事に尽くし、お客さまに尽くし、周囲の皆様に尽くして、かけがえのないご縁を築けるか、それこそが人生の財産であると平田氏は言い切る。

当初はお笑い芸人を目指していたが、意に反して旅行会社に入社。そしてお客様の喜ぶ声と顔に魅せられて、これからも添乗員を天職として感動のツアーを提供し続けていきたいと意気込む。まさに「いま、ここ」に志を持って集中する、その生き方がお客様の感動を生み、ファンを増やし続けることだろう。

なんとかなるではなんともならない!

「なんとかなるではなんともならない」イトーヨーカドーや関連会社の改革に取り組み、大きな成果を出され、現在は経営相談や後進の指導を行われている「オフィスはなわ」の社長塙昭彦氏が貫き通した信念だ。「朝の来ない夜はない」との自然体に任せる言葉に対して、「朝の来ない夜もある」とも敢えて言われている方だ。要は、「挑戦、行動無くして成長、成功はなし」との強い信念を実行に移され、数多くの業績を上げられた方だ(PHP松下幸之助塾2015.7-8号)の記事より)。

部員3人(選手は1人)しかいないバレーボール部を任され6年後に日本一にしたり、中国への出店責任者として日本・中国含めていまだに売上・利益ともにナンバーワンの店を作ったり(成都2号店)、44億円の赤字のセブン&アイ・フードシステムズの社長を任され、「3年以内に黒字にする」と宣言して目標を達成したり、その業績には目を見張るものがある。その中で、お客様の視点での行動に特に注目した。

まず、中国では「感動・感激・感謝」と言う言葉を掲げ、「3感」を実践した。すなわち、感動する商品と売り場、感激する接客とサービス、感謝する礼節と信条だ。中国人の味覚を覚えるために、現地の人で賑わう店(汚いとか臭いのは当たり前)に通い、自分の味覚も変える努力をされたそうだ。

中国から帰り、セブン&アイフードシステムズの社長を命ぜられた時、創業者の伊藤雅俊氏に「“3感”もいいが、日本ではもっとやさしく、誰にでもわかる言葉に」と言われ、雨に日にあるレストランで親子の交わした言葉を参考に「おいしかったね。楽しかったね。また来ようね。」の三つの“ね”を合言葉にした。そして、全国に展開しているデニーズを主体とした店舗800か所を3年間、休日をすべてつぶして周り。一人で食事をする様子を全従業員にブログで発信し続けられたそうだ。

中国では他にも大晦日の開店時間の延長や、寒い日にかき氷やアイスクリームを売るなど、前例がない事にも積極的にチャレンジされ成功をおさめられた。日本のお家芸と思われている「感動、感激、感謝」のサービスを中国で徹底されたことには驚くが、何事もリーダーの強い思いと、それを達成するための継続的で挑戦的な行動力があれば、達成できないことはないとの信念が、表題の「なんとかなるではなんともならない」という安易な生き方を諌める言葉となったのだろう。

小倉昌男「経営学」に学ぶ

日経13面の日経Bizアカデミー「経営書を読む」欄に、この7月3回(7、14,21日)にわたって、ヤマト運輸で宅急便を立ち上げた小倉昌男氏の名著「経営学」(日経BP社刊)に関して、入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール准教授)が解説している。国と戦い、“宅配便”市場を作った小倉昌男氏の創造性がどのように発揮されたか、非常に興味深い解説だ。

1回目(7日)は、「経営とは自分の頭で考えるもの」との小倉氏の発言を受けて本書の神髄は「学習の経営学」にあると入山氏は言う。新しい知見は、近くの知だけではなく、自分とは関係ない事を幅広く探索し、学ばねばならない(知の探索“(エクスプロレーション)と言う理論)。いろんなセミナーや講演から得た知見を試行錯誤しながらヤマトの経営に反映させた様子が「経営学」に記されている。”知の探索“とは、自分から離れた遠い知と、今自分が持っている知を組み合わせること。その点、小倉氏は例えがうまかったと指摘する。宅急便ビジネスの営業活動を行う配達員に「寿司屋の職人であって欲しい」と言う。その心は(1)送り主の家や取次店に出向いてモノを受け取り(朝、魚河岸で仕入れ)、(2)それらを必要な形に梱包し(魚を必要な形にさばき)、(3)自社サービスや発注方法などをお客に説明し(お客が来ればネタの説明をし)、(4)世間話をしながらセールストークをして(世間話をしてお客の機嫌をうかがい)、(5)満足度を高めてリピート率を上げる、ということ。

2回目(14日)は、”知の探索“の事例として、宅配便ビジネスに乗り出した契機が、2つの異業種からの学びだったと本書を紹介している。一つは「吉野家の牛丼」。牛丼だけに絞ることで高収益を上げていることを知り、ヤマトも個人向け宅配便に絞り込むべきと考えた。もう一つは日本航空の「ジャルパック」。行先も時期も個人の嗜好はバラバラの中で、パッケージツアーとして商品化することで市場を拡大したことを知り、宅配便も同じように送り先もタイミングもバラバラの中で「買いやすさ」が認知されれば大きな市場になるとの確信を持った。入山氏は、トヨタ生産システムも、スーパーマーケットの仕組みにヒントを得、「TSUTAYA」は金融ビジネスモデルを見て確信を得たように、「異業種に学ぶ」ことが新しいビジネスを考える基本だと言う。

3回目(21日)が最も興味深かったが、小倉氏の第2の学習姿勢は「顧客から学ぶ・現場から学ぶ」ことで、この姿勢がすべてのビジネスで重要であり、さらに小倉氏の凄い所は「相手の立場に立って考える」ことで、この学習姿勢を高めている所だと言う。入山氏は、近年「プロソーシャル」と言う考え方が注目されており、そこでは「相手の立場にたって考える人の方が、クリエイティブな成果を生み出しやすい」との考え方を紹介している。小倉氏は「利益よりサービス」を理念とし、潜在需要の開拓を目論んだ。不在なら何度でも配達を試みることで、顧客の満足度を上げる「在宅時配達」に舵を切ったのも小倉氏だ。小倉氏は労働組合との関係においても、「組合の人達の求めるものは何か」を考え、それを制度などに反映させることで信頼関係を築いた。そのことで、現場からの情報を組合員から得られるようになり、顧客の要望を聞き取り元旦配達を開始し、年中無休の営業体制を組合員の反対もなく実施することになったそうだ。

詳しくは日経Bizアカデミーの記事(http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/career/article.aspx?id=MMACz9000001072015)を参照ください。

冲中一郎