”心の資本”を増強せよ!(日経)

7月1日の日経朝刊「核心(Opinion)」(7面)のタイトルで”心の資本“と言う言葉を初めて知った。これまで、”ソーシャルキャピタル“とか、”ナレッジキャピタル”などの言葉は聞いたが、今回の“マインドキャピタル”とは?(論説委員西條郁夫氏の記事)
記事の出だしには「組織の活力を高め、イノベーションをどう起こすか。世界中の企業の関心事だが、米グーグルが大掛かりな社内調査を経てたどり着いたキーワードが「心理的安全性」だ。」とある。この概念は、ハーバード大学の研究者が唱えた概念で、「この職場なら何を言っても安全」と言う感覚を構成員が共有することだと言う。グーグルでは、こんな「心理的安全性」の高いチームは仮に個々人の能力が劣る場合でも「安全性」の低いチームに比べて、高い成果を挙げ続けることが判明したそうだ。この成果を踏まえて管理職向けの心得帳をまとめたそうだが、その一部が紹介されている。

・部下と話すときは、知らぬ間に否定的な表情を浮かべてないか注意する。
・チームメンバーから学ぼうと言う姿勢で質問する。
・問題が起きても、相手を責めるような言い方はせず、どうすれば問題を解決できるかに焦点をあてる。

こうした小さな取り組みを重ねることで職場の「心理的安全性」が高まり、そこから新しいアイディアやイノベーションが湧き出す。グーグルの急成長の軌跡は心理的アプローチが組織の活性化に多大な効果をもつ証左と西條氏は言う。
カリフォルニア大学のある教授によると「自分は幸福だ」と感じている人はそうでない人より生産性が31%高く、創造性は3倍になると言う。「成功が幸福を招くのではなく、幸福(だと感じること)が成功を生む」とも指摘する。西條氏は、日経論説員として、日本の生産性革命に関して日本のエンゲージメントの低さを懸念する記事を書いている(https://jasipa.jp/okinaka/archives/7809)。“エンゲージメント”とは、「いわれたことを忠実にこなす受け身のまじめさではなく、改善や新機軸に主体的、意欲的に取り組む姿勢」を指す。そして、枯渇気味の”心の資本“を増強するための手掛かりを3つ挙げている。
まず、日立製作所のハピネス計測技術の活用。社員にウェアラブルな心のゆらぎセンサーをつけてもらい、どんな場面で幸福感が高まるかを計測する。あるコールセンターで、上司が適切なタイミングで一声かけると、社員の幸福感が目に見えて上がり、受注率が有意に上昇した事例もあるそうだ。朝礼や会議に社員が満足しているかどうかも即座に分かる。
2つ目は職場の仲間が互いに評価して報酬ポイントを送りあうピアボーナス。送られた人は会社から少額だがボーナスを手にする。このサービスをユニポスが提供するが、メルカリやライオンなど240社の26000人がこのサービスで“”感謝の気持ち“を日々交換し、仕事への意欲が目に見えて上がっていると言う
3つ目は、”自己決定”の重要性だ。進学や就職先を自分で決めた人は、”主観的幸福感”が高いとの踏査結果もあるらしい。会社では今の仕事や配属先を「他人から押し付けられた」と思うか「自分で選んだ」と思うかで幸福感や意欲に大きな差が出るとの事だ。
この記事では、最後に「真の働き方改革を実現するには、社員の心の領域にも光を当てることが必要」と締めている。

ますます厳しくなる社会の変化に追随するには、社員のイノベーション力を高めるしかない。マズローの欲求5段階説の高次の要求(内的欲求)である第4階層(尊厳欲求)、第5階層(自己実現欲求)を満たすのが”心理的安全性“でもあり、考えてみる価値はありそうだ。

”人材戦略”の開示を投資家が要求し始めた!(日経)

6月25日の日経朝刊の社説「投資家に支持される人材戦略を競え」に目が留まった。先先週末、ある企業から講演を依頼され、まさにこれからの時代の急激な変化に対応するには、イノベーション力をいかにつけるか、エンゲージメント度(仕事に対する熱意)をいかに上げるかが大きな課題であり、人材育成がより重要だとの話をしてきたところだった。特に生産性、デジタル化で後れを取っている日本では、AI人材、DS人材の育成が急がれている中で、今回の日経記事で、投資家も「従業員の力を引きだす工夫、それがどのように業績につながるかと言った”人材戦略“の具体的な開示を求め始めている」との情報提供だ。

社説では、「女性管理職比率や、教育訓練費用、人事処遇制度などの情報を単に並べるだけではなく、経営戦略に照らして、どんな人材を確保する必要があるのか、成果主義制度がどのように収益に結びつくのかなど、人材活用の工夫と企業の成長力の向上と連動させて説明することが大事」と指摘する。
海外企業は人材をめぐる情報開示で先行する。例えば、独SAPでは、社員のワークライフバランスを調査し、仕事への熱意や組織に貢献する意欲を“エンゲージメント指数”として算出し、指数と業績を関連付けて開示しているそうだ。

同じ日の日経6面「Deep Insight」“Y・Z世代は知っている”で、やがて働き手の多数派となるミレニアル(Y)世代(今年28~38歳)と、それに続くZ世代(9~22歳)が、ITリテラシーが高く、新しい発想とSNSなどを通じたネットワーク力で今まで誰も想像しなかったビジネスを生み出すとの評価が高まりつつあるという。既に来年の米国大統領選でY世代候補が初めて現れ、日本では、“ESG投資に積極的”とされるY,Z世代の投資家の動きが関心を呼んでいると言う。そのような中で事例として挙げられているのが、社員のエンゲージメントを即座に測定するサービスで、働き方改革の追い風もあり、2年間で1000社近い顧客を獲得したという転職求人メディア「アトラエ」(18年に東証1部上場)だ。これを開発したのがY世代の4人の社員だそうだ。同社の社員(約50人)の5分の3がY世代、5分の1がZ世代だ。同社の新居CEOは「ニーズに敏感で、ITを使いこなせる人材だからこそできる技術革新。こういう人材を年功序列で埋もらせる経営であってはいけない」と話し、組織運営も社員の間に上司と部下の上下関係のない”ホラクラシー組織“を導入している(https://jasipa.jp/okinaka/archives/8774)。

生産性やエンゲージメント度で世界に後れを取る日本は、特にイノベーション力を高めるため、社員のやる気を如何に高めるかが喫緊の課題だ。何か不都合なことがあると部下のせいにする某大臣は官僚のエンゲージメント度を下げ、官僚の仕事のレベルも下げていると思われる。これを反面教師の一つの事例として、企業には、人材育成にもっと力を入れ、やる気をイノベーション力につなげる施策が日本の発展のためにも求められている。

人生100年時代”脱おっさん”で生き残れ!(NHK)

標題は、6月6日NHK総合テレビのクローズアップ現代+(22時~)番組のタイトル。人生100年時代、“脱おっさん”して、もう一度会社で輝こうと言う動きが広がっているとの事。
専門家が、そのための“5つの力”を勧める。「まずやってみる」「仕事を意味づける」「年下とうまくやる」「居場所をつくる」、そして「学びを活かす」。これは40代以上の会社員4700人を対象に行った調査で、生き生きと働くための具体策として出されたものらしい。
日頃上司から与えられた仕事をこなす事になれている自分を見直し、前向きに“やってみる”挑戦意欲で“いきいき”を思い出すために、ベンチャー企業を経験してみる事例を紹介していた。副業を容認する方向の中で、なんでも受け入れ、なんでも挑戦せねばならないベンチャー企業は格好の場となりそうだ。そんな事例を挙げながら、その効果を示している。派遣できるベンチャー企業を紹介する会社もあるとか。
「年下とうまくやる」と「居場所をつくる」では、“TOO”という聞きなれないキーワードがでてきた。「となりのお節介なおじさん・おばさん」との意味らしい。役職定年の大手飲料メーカーの方の活動は、役職に関係なくいろんな人の相談に乗り、職場環境を良くし、若手と幹部とのパイプ役ともなっている。この会社ではTOOの人事発令を行い今では11人が活動しているそうだ。会社の風土改革、社員のやる気にも効果を発揮している。

人生100年時代、希望すれば、70歳まで働ける時代。50歳そこそこで役職定年になっても、後20年近く勤めあげなければならない。その間、モチベーションを維持し、働き甲斐を感じ、維持し続けるために、今回の番組はいろんなヒントを与えてくれている。日本の生産性が先進国の中でも低いことが大きな課題となっている。少子化による人口減少の波を断ち切ることは難しい。そのような中で、高齢労働者自身が”活き活き働ける“こと、そしてそのような環境を積極的に作っていくことが大きな課題ではないだろうか。
番組の詳細は、インターネットで。https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4285/index.html

冲中一郎