日本の豊かさは世界一!?

「ほんとに経済成長至上主義でいいのだろうか(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1946)」との問題提起を11月にしたが、期せずしてGDP至上主義からの脱皮を訴える2種類の記事に遭遇した。一つは、「英エコノミスト誌のいまどき経済学(サウガト・ダッタ編・松本剛史訳、日本経済新聞社。2014/9)」、もう一つは「文芸春秋SPECIAL2015年季刊冬号」の「衝撃レポート これが日本の実力だ」(福島清彦氏)http://hon.bunshun.jp/articles/-/3003だ。

前者は、世界のエリートが読む英「エコノミスト」誌の経済学担当記者たちが、現実の経済問題を基に、経済学の基本と最前線を解説している。お二人の記事には、2008年にフランス大統領のニコラ・サルコジが設置した米コロンビア大学のジョセフ・E・ステイグリッツ教授(ノーベル賞受賞者)を委員長とする委員会の調査結果の話が出てくる。この報告書は「暮らしの質を測る」として邦訳されているそうだが、「GDP崇拝を捨てよう」と言う呼びかけだそうだ。リーマンショックを契機に、経済政策に関する議論が百出し、多くの通念に異が唱えられているようになったと言う。各国の人達が感じる豊かさ、幸福感はGDPのような財貨とサービスの価値のみでは表わすことが出来ず、「暮らしの質」すなわち、健康や医療、教育レベルなどGDPでは捉えられないものの評価をどうするかが焦点の議論だ。

前者では、2003年から2007年にかけての最高の経済実績を上げたのは米国か日本か?との問いを投げかける。一般の認識は、米国の平均実質GDP成長率が2.9%で日本の2.1%を大きく上回っていることから米国を挙げる。しかし、当時は米国の人口は1%の伸びを示していたが日本は2005年を契機に減り始めていた。そこで「一人あたりのGDP成長率で見ると、日本は年率2.1%で増加、米国は1.9%、ドイツは1.4%と日本がはるかに上回っている。すなわち、日本はGDPがゼロ成長でも人口が減っているため、平均的な市民の暮らしはよくなっている一方で。米国市民の暮らしは悪化していることになる。エコノミスト担当記者は、政府がなぜそれをGDPとともに発表しないのか?と疑問を呈する。日本は特に発表することが利益につながる筈で、当時の日本国内の「低迷している」との暗い雰囲気を払拭し、「近年の一人当たり所得はむしろ成長している」との報で、消費増につながったかもしれないと指摘する。

後者では、スティグリッツ教授の委員会報告を契機に、2012年国連が主要20か国を対象に新しい経済統計を発表したが、この経済統計「一人あたりの総合的な豊かさ」で日本は米国を抜いてダントツの一位となっていることを報じている。この指標は(1)国民の頭脳力である人的資本、(2)ヒトが生産した資本、(3)国民の信頼関係である社会関係資本、(4)農業や鉱物資源を中心とした天然資本に着目し、これこそが、国民の生活の豊かさと経済の持続性を表わすものだとしている。この4資本のうち、数値化の難しい(3)を除く3資本の資本残高を計算した結果(数値は2008年データを使用)だそうだ。特に日本が評価されたのは国民の教育水準や業務遂行能力である人的資本の水準の高さと、人が生産した資本、すなわち軽罪が高い生産性を維持するのに必要な企業設備や道路港湾などの諸設備の水準の高さと言う。

福島氏は、今後の日本の人口減少と高齢化を考えると、「GDP偏重のアベノミクス」のGDP2%目標達成は困難と予測する。そしてGDP目標未達成で構わないと主張する。GDPの成長とは時として相反する4資本への投資を促進することで、国民は豊かになれる(環境や教育への投資)。日本人はもっと自信を持っていい。「経済成長をし続けなければならない」という古い思い込みから自由になり、4資本の充実と言う、日本が既にトップを走る目標に向けて経済戦略を設定し直した時、日本経済は新たな未来を見出すだろうと締めている。既にEUでは2020年に向けての長期戦略で、GDPという言葉は使っていないと言う。資源有限の世界で各国間GDP競争からの転換をし、「足るを知る」世界を未来に向かって創っていくことを是非とも推進してほしい。その意味でも、一度福島氏の記事(文芸春秋)を読まれることを勧めたい。

「やせ」の女性、過去最多に!8人に1人(厚労省発表)

今日のニュース(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141210/k10013854501000.html)で、

女性で「やせ」の人(BMIが18.5未満)の割合が昨年は12・3%と8人に1人にあたり、1980年以降最も多くなったことが、9日公表された厚生労働省の国民健康・栄養調査でわかった。年代別に見ると、やせている人の割合が最も高いのは20代の女性で21.5%、次いで30代が17.6%、40代が11%だった。厚生労働省は「以前は20代の女性でやせている人が目立ったが、最近は30代や40代でも増えている。

とあった。

前回のブログ「お産を控えた女性はダイエットに注意」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/2077)で警告を発したが、低出生体重児(出生体重が2,500g未満の赤ちゃん)問題が、ますます重要となることを現している。すなわち

胎児期子宮内で栄養不足が原因で小さく生まれた赤ちゃんは、少ない栄養でも生きぬいていける代謝系を持って生まれる。しかし、栄養豊富な現代生活の中ではその代謝系では適応出来なくなる 。その結果成人病のリスクがより高くなる、という(「成人病胎児期(発症)起源説」(バーカー説))。

厚生労働省の言うように「女性の方は、やせすぎにならないよう食事をしっかりとって適正な体重を維持するよう心がけてほしい」。特に出産を控えた方や妊婦の方は特に留意していただきたい。

お産を控えた女性はダイエットに注意せよ!(福岡秀興早稲田大教授)

東京で定期的に集まっている高校同期の会が2日にあった。20名近く集まったが、今回は本を出版した友人が姫路から本のアピールに参加したり、いつもは忙しくて出られなかった福岡秀興君(東大医学博士、現在早稲田大学総合研究機構研究院教授、産婦人科学・分子生物学・分子栄養学)が出席してくれたりで、賑やかな会になった。同級生も福岡君には病気の時のアドバイスや医者の紹介などで何人かが救われたこともあり、ほんとに頭の下がる男として評判だ。彼とはほんとに久しぶりに会ったが、日本の将来を憂い、全国駆け廻って訴え続けていることがあると言う。今叫ばれている少子化問題以上に深刻な問題だそうだ。

低出生体重児(出生体重が2,500g未満の赤ちゃん)は、将来、高血圧、冠動脈疾患、2型糖尿病、脳梗塞、脂質異常症、血液凝固能の亢進、神経発達異常などの生活習慣病といわれている病気になる可能性が高い。そして、低出生体重児の比率が、OECD加盟国では日本はトップで、今ではほぼ10人に一人(9.6%:2012)が該当すると言われている。この数値は日本で生活習慣病が、今後著しく増加する事を予想させるものである。

英国サウザンプトン大学医学部の故デイヴィッド・バーカー教授は、約30年も前から「成人病胎児期(発症)起源説」を唱え、「胎内で成人病は始まっている ~母親の正しい食生活が子どもを未来の病気から守る」(デイヴィッド・バーカー著 福岡 秀興 監修・解説)が日本では出版されている。ちょっと過激なタイトルですが、著者が私たちに訴えようとしているのは、副題にある「母親の正しい食生活が子どもを未来の病気から守る」という点。胎児期子宮内で栄養不足が原因で小さく生まれた赤ちゃんは、少ない栄養でも生きぬいていける代謝系を持って生まれる。しかし、栄養豊富な現代生活の中ではその代謝系では適応出来なくなる (ミスマッチ)。その結果成人病のリスクがより高くなる、という考え方である(「成人病胎児期(発症)起源説」(バーカー説))。世界的には莫大な疫学調査が行われており、現在それを否定する報告はない事や、膨大な動物実験が重ねられてその分子機序が明らかとなってきており、かなりの説得力のある説であると、福岡君は言う。ヒトでも分子のレベルでそれが実証されつつある、との事である。日本では妊娠適齢期の女性の多くが、10代からのダイエットを経験しており、やせた状態で妊娠したり、巷では「小さく産んで大きく育てるのが良い」と言われていたり、妊娠中も体重増加の制限が一部では行なわれている現状を考えると、この本の内容はかなり衝撃的。しかし、そこで改めて気づくのは、妊娠する前でも、妊娠中でも、大切なのは「バランスのとれた必要で十分な食事」を常に心がける事の重要さである。この当たり前のことを軽視してきたために、生まれてくる赤ちゃんの将来にまで暗い影を落とすとしたら? 私たちの生活の基本である「食」について、改めて考え直さなければならない。実際若い女性の食事内容は多くが目を覆うばかりに劣悪であると報告されている。

今の状況で推移すると、日本はやがて成人病大国へと移行してしまう。との想いから、福岡君は、全国各地で、学会の特別講演や一般の方々を対象とした講演を通じて、このままでは日本民族の劣化へとつながっていくのではないかとする警鐘や、この新しいテーマの研究の重要性を訴え続けている。しかし、他国では対策に取り組んでいる問題でもあり、日本でも早急に「小さく産んで大きく育てる」事が良いのだとする考え方を改め、栄養の重要性を女性のみならず社会全体で共有して行かねばならない。その為には、低体重児の多く誕生する現状とその原因を正確に捉える研究・調査が必要と主張する。またその実現に向けては、政治家にことの重要性を認識してもらい、政治主導で早急に調査体制を築くことも行われることが先決だろう。JST(科学技術振興財団)からは今春その政策提言がなされたとの事である。着実に機運は広まり、福岡君と共に活動する仲間は増えているそうだ。(福岡君に関するインターネット記事,Babycom「胎内で将来の病気の原因が作られる」(http://www.babycom.gr.jp/kitchen/kodomo/kodomo1-1.html)などで補完した)

冲中一郎