セブン&アイが目指す「オムニチャネル」戦略とは

12月2日にセブン&アイHLDGSが、カタログ通販のニッセンを買収することを発表した(日経12月3日朝刊)。その記事に「セブン&アイは“オムニチャネル”と呼ぶ戦略を推進する。いつでも買えるネットなどと国内1万7千もの実店舗を結び、欲しい商品を消費者それぞれの事情に適した形で販売。その一環でニッセンとはリアル、ネットの垣根なく連携していく」とある。

一方で「セブン&アイHLDGS.9兆円企業の秘密~世界最強オムニチャネルへの挑戦」(朝永久見雄著、日本経済新聞出版社刊、2013.9.2発行)と言う本も出版されている。この本には、「消費者がリアル店舗、スマホ、パソコン、テレビなどオムニ(全て)の環境で、継ぎ目なく(シームレス)買い物をする時代が到来しつつある。この“オムニチャネル”の時代において、セブン&アイ・ホールディングスは、オムニチャネルリテイラーとして世界最強になる潜在力を秘めている」とある。

私は恥ずかしながら、この言葉に初めて触れた。米国ネット界では一般的用語となっているらしい。長年にわたり国内小売セクタを代表するアナリストとして高い評価を受ける朝永氏は、国内で1万7000店以上の店舗を持ち、セブン‐イレブン・ジャパン、西武、セブン銀行、イトーヨーカ堂、赤ちゃん本舗など114社を抱える巨大流通グループが、その店舗網、顧客接点の量(頻度)と密度(距離)、商品の多様性、それを支える人材、物流を考えると、セブンネットショッピングを新たなプラットフォームとして各事業会社が一つに繋がることで、世界に類を見ない小売グループへ発展し、最終形では、日本の消費シェアを根こそぎ獲得する可能性を指摘する。

「オムニチャネル」の時代を、物語風に著している。大手商社に勤めるある独身女性(ちあき)が休日朝起きて、スマホにインストールしたセブンアプリを開き「自分の冷蔵庫」をクリック。ちあきの冷蔵庫にある材料で作れるメニューが出てきた。つくりたい料理をクリックし、人数を入れると不足材料が出てきて、注文。「3時間後にお願い」とクリックするときっちり3時間後に材料が届く。以前、その料理の時に同時にぶりの刺身を注文したことがあったが、注文の時に「ぶりはいかが?」と聞いてきた。届く45分前に調理された新鮮なものが届いた。スマホで注文するまでの時間は55秒。

朝永氏は「特に都市部では徒歩のお客さまが多く、“小売業の競争力は売り場面積に比例し、距離の4条に反比例する”」と言う。私も時々、自転車で5分位のイトーヨーカ堂に行くことがある。歩きはきついが、自転車でも坂があるときつくなる。インターネットでも注文することがあるが、これだけ近いとついつい実店舗に行ってしまう。しかし、年を取ると重いものや新鮮なものはインターネットでと使い分けができれば便利だ。イトーヨーカ堂のような実店舗が、ネットスーパーの商品加工拠点であったり、周辺のセブンイレブンへの商品供給拠点であれば、ますますイトーヨーカ堂の存在意義が広がっていく。

「オムニチャネル」戦略、リアルとネットの融合に注目したい。コンビニエンス事業、スーパーストア事業、百貨店事業、フードサービス事業、金融関連事業をシームレスにつなぐインフラづくり、IT業界の真価の発揮どころか。

”信頼性“と”信頼感“の違い?!

以前、当ブログで「会社では業績などによる評価(査定)基準に則って処遇や人事を決めるが、主観的である「評判」も大いに加味されている、あるいは加味されるべしというのが、多くの企業の人材育成・評価に関する支援をやってこられた著者の主張である。評価は短期間で作れるが、評判は長期間にわたって築かれるもので、一旦評判を落とすと再び高めるには、相応の時間を要するもの。お客様から得る評判(信頼)と同じ性質を持つ。「評価」には反論しがちだが、評判には反論できない(反論する対象が決まらない)。」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/231)と「会社人生は評判で決まる(相原孝夫著)」の本を紹介しながら、「評判を得る」ことの重要性を書いた。

12月3日の日経朝刊29面に「“信頼感”で仕事円滑(脱・独りよがり 3つの“ない”)」のタイトルの記事で、「信頼性」と「信頼感」の違いが書かれている。関西大学の安田雪教授の解説によると「“信頼性”とは、「この製品は信頼性が高い」というように、スペックや能力を評価する時に使う。人に例えるとその時点で身に付けている能力が高いかどうかが判断基準になる」と言う。その人が自分の期待に応えてくれるかどうかは能力とは別物。一方、「“信頼感”とは「必ずやり遂げる」という意図や意志を評価する時に使う」と。能力が多少足りなくてもそれを補う努力をし、何らかの結果を出してくれる、そうした相手が信頼できる人と言うわけだ。いくら能力が高くても、頼んだことをやり遂げてくれるはずだと言う信頼感を持てる相手でなければ頼まないだろう。周囲からの信頼を高めるには、まず、自らが誰かの力になろうと言う意思を明確に持ち、そのために何が出来るかを考えて行動することだ。それが相手にきちんと伝われば、信頼関係を築く第一歩となる。

記事では、「脱・独りよがり 3つのない」の事例として、“妥協しない(日産プリンス東京販売雪谷視点の伊藤数馬さん)”、“遠慮しない(東京ドームの岩瀬菜穂子さん)”、アピールしない(マザーネットの小野里仁子さん)“が紹介されている。特に伊藤さんの話で興味があるのは、「お客様の話に耳を傾け、想像力を全力で働かせながら、お客様の気付いていないニーズを把握する。そして、お客さまが新車を買うのにベストなタイミングを見つける。それまでは一切、車を買ってほしいとの話をせず、時には「今は待った方がいい」と助言することもある」との話だ。「自分の都合で相手を説得して目先の1台を売っても、”その次“はない」というのが信条と言う。すべての営業に通じる「営業ノウハウ」ではなかろうか。

「評価」より「評判」、「信頼性」より「信頼感」。会社生活においてはもちろんのことだが、日常的な人間関係つくりにおいて信頼関係を強固なものにするための参考にしたい。

車いすだったら、日本に住みたくない(佐藤真海)

日経ビジネスの11月25日のインターネット記事(http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131120/256090/?n_cid=nbpnbo_mlp&rt=nocnt)に表題の記事があった。副題は「五輪招致の顔、佐藤真海氏が語る7年後の東京」だ。佐藤さんは前稿のレーナ・マリアさんとは違って早稲田大学在学中に骨肉種を発症し、2002年から義足での生活を余儀なくされている。リハビリを兼ねて陸上競技を始め、驚くことに2004年にアテネパラリンピックに出場し、その後続いて北京、ロンドにも出場した。健常者から急に障害者になったショックは大きかったと思うが、義足生活2年でパラリンピック出場とは驚く。その精神が、五輪招致の際のプレゼンで、地元気仙沼を襲った東日本大震災を振り返り「大切なのは、私が持っているものであって、私が失ったものではない」との言葉に表れていると思う。まさに前稿のレーナ・マリアさんの「悲しんだり、落ち込んだりしたことは一度もない」と自分に出来ることに邁進した姿勢と相通じるものがある(http://jasipa.jp/blog-entry/9193)。

その佐藤さんが10年間世界各国を回る中で、「世界との違い」に何度も愕然とし、東京でのパラリンピック開催に向けて「まだ」を何個つけても足りないくらいやることがあると言う。例えば、日本における障害者のスポーツトレーニング環境。「味の素ナショナルトレーニングセンター」はオリンピック選手専用、コーチや競技団体も健常者と障害者は別々。ロンドンでは健常者と障害者が同じフィールドで練習することも珍しくなく、リハビリ施設の横にはスタジアムや体育館が作られ、現役パラリンピック選手が指導する。障害者がスポーツに取り組むハードルは日本に比べて極めて低いと言う。

さらにはスポンサー企業の違いにも触れる。ロンドンでは大手企業がパラリンピックを精力的に盛り上げた。大手スーパーマーケットチェーンのセインズベリーは「1ミリオン・キッズ・チャレンジ」と題して数年前から子供にパラリンピック競技に関心を持ってもらうために100万人の子どもに競技を経験してもらうプログラムを実施した。そのキャンペーンのアンバサダーがあのベッカム選手だったそうだ。そのような活動の結果として、ロンドンでのパラリンピックは、朝の部も夜の部もいつも満員、スタジアムが期間中ずっと8万人の観客であふれかえるほど盛り上がったとのことだ。その頃には日本は、オリンピック選手の凱旋パレードが実施され、テレビでもパラリンピックはほんの一部しか放映されなかった。ロンドンでは朝から晩まで生中継で、パラリンピック盛り上げのための選手登場のCMも大きな評判になった。

ロンドンでの障害者に対する接し方も自然体で、日本のように障害者を特別扱いしない。電車に乗ろうとすれば「お手伝いを必要とされているお客さんがいます」と注目され、仰々しく専用エレベーターに乗せられる。佐藤さんは「障害者に対してと言う目線ではなく、全ての人に対しては思慮の視点を持つ」事を提言する。足が不自由なお年寄りもいる。すべての人に対して、子供も大人も自然体で「おもてなし」の心で接することが出来るような社会に日本がなって欲しいと。

「おもてなし」を日本古来の慣習と言うが、「現在の日本社会におもてなしの心や文化があると思うのは幻想」(日経夕刊11.9・青木保国立新美術館館長)と言う方もいる。7年後のオリンピック・パラリンピックを、日本をアピールできる場にするには、障害者・健常者、そして外国人の区別なく、同じ視線でおもてなしが出来るハード・ソフト面での環境つくりが大きな課題となる。