「経営改革3」カテゴリーアーカイブ

リーダーはストーリーを語りなさい!

企業理念や方針を社員に浸透させるために、「リーダーはストーリーを語りなさい」(日本経済新聞社刊、ポール・スミス著、栗木さつき訳、2013.3.22)と呼びかける本が出た。話をストーリーにして話すことで社員を魅了し、説得し、鼓舞できると言う。逆に精神論を何度唱えても心に響かないと。以前紹介したTEDプレゼン(http://jasipa.jp/blog-entry/7708) は自分のテーマを18分以内でプレゼンし、終了時、聴収がスタンディングオベーションで賛辞を送る様子が印象的だが、このプレゼンも、自分の経験談(神経解剖学者のジル博士が語る脳機能不全時の体験談など)や先哲、友人の話などを織り交ぜながら見事に聴衆を引き付けている。

戦略的な目標を説明する場合の事例として、レンガ職人の「今何をしている?」と聞いた場合の答として「ただレンガを積んでいるだけ」と、「立派な大聖堂を建てている」との違いを指摘している。企業の一員として、組織の目標と、自分の仕事の関わり合いを把握していれば仕事の質も上げられ、同僚や部下に対する適切な指導も可能となる。システムプロジェクトでも、プログラマーが、今どんな企業のどんな業務をどんな目的でやっているのかを知らず、ただ黙々と指示されたコーディングをしているだけということも有りうることだ。

ノキアの成長事例も面白い。自社の成長戦略などの話に使える。ノキアは1865年製紙会社としてスタート。途中電力供給もやり、1920年代に電話サービス事業としてケーブル事業に参入、成長を遂げた。コアビジネスはコミュニケーション関連(製紙業も、新聞・書籍に見るようにコミュニケーション業)だ。企業の成長ビジョンを描く際参考になる話だ。

「顧客第一」を標榜する会社で、一遍に社員の心を打ったCEOの事例が紹介されている。大型スーパーマーケットが新たなCEOを迎えた。このCEOは「顧客第一」主義を信奉しており、この理念の普及に心を砕いていた。スーパーを訪ねたときの駐車場所が階層別に決められ、管理職は店の正面に近い場所、平社員は遠いところとなっていたが、近くは客の為にあけておき、管理職も遠いところに止めることにルールを変更した。ある時CEOが訪問した時、ひどい土砂降りだった。そのCEOは傘も持たなかったが、ルール通り遠いところにとめ、ずぶぬれになりながら店に入り、台無しになった背広を、量販店向けの低価格紳士服を買って着替えた。この話は、従業員全体に瞬く間に広がり、CEOが「顧客第一」を貫き通した事実を見て取った。この話も使える。

このブログでも、新商品などの売り文句にストーリーが必要だと、アップルの「iPod」の「1000曲をポケットに」の文言の有用性を説いた(http://jasipa.jp/blog-entry/8416)。リーダーとして部下に対して、方針・考え方を部下に納得させ、浸透させるためにストーリーで語ることを考えて見てはどうか?ストーリーは、自分の経験談(成功談、失敗談)、身近に起こった事例、人に聞いた事例、本などで知った事例など、その気になれば、あちこちに散らばっている。当ブログでも、そのような事例をこれまでにもUPしてきたつもりだが、これからも皆さんの参考になる話を挙げていきたいと思う。

自責文化を吹かせろ!

以前も「全員経営」に関して記事を書いた(http://jasipa.jp/blog-entry/7685)が、その中で「リーダーは“自責”の文化を吹かせろ」(PHP Business Review松下政経塾2012.7・8号)という新将命氏の記事を紹介した。「全員経営」のためにも「自責の企業文化を作る」ことの必要性を説いている。全員経営とは、社員全員が自分が責任を取ろうとする態度であり、社内にそのような習慣が定着していることであると新氏は言う。さらに「会社の中に吹く風を「社風」という。社風が社内に定着すると、そこに企業文化が生まれる」とも。一人の人間が自責の風を吹かせ、3人、4人が真似するようになるとソヨソヨと自責の風が吹き始める。20人、30人になると、ザワザワと音が高まる。50人、100人になるとゴウゴウといううねりを立てて自責の風が吹き巡る。

論語でも、自責の文化を言う言葉があった。「致知2013.6号」に連載中の「子供に語り継ぎたい論語の言葉」(安岡正篤師の令孫、安岡定子氏著)より。

君子は諸(これ)を己に求む、
小人(しょうじん)は諸を人に求む

「諸を己に求む」とは何事も自分の責任で行動したりすること、「諸を人に求む」とは何か失敗した時に言い訳をしたり人に責任を押し付けたりすること。安岡氏が言うには、小さなお子さんでも本能的に善悪の判断が出来るのは、人間は生まれつき正しい心、清い心を持っているから。「失敗したり、友達との約束を守れなかっときどういう気持ちになる?」と問いかけ「まずい」「あんなこと言わなかったらよかった」と自分を顧みることが出来る。この素直な感情が湧きあがったあと、どうするかがポイント。間違いを反省してきちんと友達に謝れるか、それとも誰かのせいにして誤魔化してしまうのか?誤魔化すといつまでも後ろめたい気持ちを引きづる。寺子屋で子供たち相手にこんな教育をされている。

論語には、似た章句は多い。

過ちて改めざる、これを過ちという

過てば則ち改むるに憚ること勿れ

このことを噛みしめ、会社でも、失敗した人を責めるのではなく、「折角失敗してくれた」教訓を、みんなが自責の念を持って、みんなで反省し教訓とすることが出来れば、強い会社文化が作れるのではなかろうか。

「日本一楽しい会社」を目指す群馬県の会社

新聞・テレビなどのメディア登場回数が1000回を超え、全国からの講演要請も数多く著作本も多数という、群馬県の中里スプリング製作所社長中里良一氏。自動車、パソコン、医療機器など様々な分野で使われるバネを製造する会社だ。「致知2013.5号」のインタビュー記事に登場されている。30年前廃業寸前状態の会社を創業した父親から引き継ぎ、「日本一楽しい会社を目指す」をキャッチフレーズにする「非常識経営」で、23名の小さな会社を、それまで県内しかなかった取引先を47都道府県すべてに拡大するまでに成長させた。

大学卒業後商社に勤めて(昭和49年)2年後に父親から「会社を閉める」との連絡が入った(オイルショック時)。父親に負け戦をさせるわけにはいかないと、「俺が立て直す」と言って戻った。会社の雰囲気は、社員も中途半端なプライドばかりで、ダラダラ残業をする状態。社長の息子だからと言って誰も言うこと聞かない。自分が結果を出さなければ社員の信用も得られないと、昼は営業、夜は時間を惜しんで現場のバネ製造技術を自ら勉強し、ベテランが出来ないと言ったバネを作って見せた。その時から社員はついてきてくれるようになったそうだ。そして入社9年後名実ともに社長になった。「人間は環境が悪いから頑張れる。頑張っている姿を人に見せちゃいけない。多くの人はちょっとした努力を人に分かって欲しいと思うが、結果だけ示せばいい」と経験から中里氏は言う。

まずやったことは「夢会議」の創設。最初は「夢なんか考えた事も無い」社員に夢を持たせるために月1回車座になって夢を語る会を開いた。「車が欲しい」「家族旅行をしたい」「もっと大きいバネを作りたい」等など。社長の夢は「営業マンを一人も置かずに、営業所を一つも出さずに全国制覇する」。そして、昨年高知県を最後に目標達成。どうやって達成したか?人前で喋るのが大嫌いだったが、ある人の勧めで「今までやってきたことを思い切ってしゃべって見て」と言われ、思い切ってしゃべった所、それがきっかけで次第に増えていき多い時は年間60回を超えるまでになったそうだ。その講演の機会を利用して、営業活動を全国で展開(交通費も相手もちのため、費用かからず)。

会社のすべての判断基準は「損得」ではなく「好き嫌い」。取引先もすべて社員の希望制で、どうしても好きになれなければ、取引先を切るのもOK.自分の評価は自分で、給料は幾らもらいたいか、どの役職につきたいか、誰についていきたいか、誰を部下にしたいか、なども希望制。一緒に仕事をしたい希望者がいない時は社長直轄とし、自分のいい所をもっと伸ばせと指導する。「人の人生はすべて‘好き嫌い’で動いている、学校選び、クラブ活動、伴侶選びなどでもそうなのに、仕事だけ損得で考えても上手くいかない」というのが中里社長の持論。後は頑張るために「夢」を持って、逃げ場を無くして頑張る。

ホームページに講演テーマなども細かく記載されている。上記記事だけでは、すべてに納得できるわけではないと思うが(少なくとも私は)、会社は上手く回り、社員も活き活き仕事をしていると思われる。何よりも講演回数がすごいことを考えても、経営にヒントになることは多いのだろう。JASIPAの会員が群馬県には多いが、情報があれば教えて頂きたい。

余談だが、18日のJASIPA交流会で、「立派納情報システム㈱」の和田社長と名刺交換した。先月創業されたそうだが、「立派納」は中国語で「立派な」と言う意味とのこと。オフショア開発を事業とする会社だが、「立派な会社にする」との意気込みを社名にしているのがユニークで面白い。