あなたは部下を信頼していますか?

米国の雑誌「フォーブス」の発行人リッチ・カールガード氏が本を出版されている。「グレートカンパニー(ダイヤモンド社、野津智子訳、2015.9)」だ。氏はアントレプレナーとして数多くの起業を成功させているベンチャー投資家だ。その氏が、企業が“成功し続ける”上で欠かせないもの、真に優れた企業(グレートカンパニー)が戦略や数字以上に重視するものについて書いている。変化の激しい時代にあって、成功し続ける会社を築くために必要なものは、次の3つ。

  • ・戦略的基盤:市場、顧客、競合他社、競争優位性、変革者
  • ・ハードエッジ:スピード、コスト、サプライチェーン、流通、資本効率
  • ・ソフトエッジ:信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリー

多くの企業は「ハードエッジ」を重視しており、「ソフトエッジ」は無視されている。しかし、リッチ氏が多くの優れた企業を取材した結果、「成功し続ける優れた組織は、ハードエッジとソフトエッジの両方で卓越している」と自信を持って言えると主張する。そして、「現代の厳しくグローバルな経済において、ソフトエッジで卓越することは、ハードエッジで卓越するのと同じくらい(あるいはそれよりはるかに)重要になるだろう」と言う。そしてソフトエッジの5つの項目について解説している。各項目のキーワードを紹介する。

  1. 信頼:チーム全体の信頼を高めること。ヤフーのCEO,マリッサ・メイヤーの在宅勤務に関する話。「他の人とうまく仕事をするのに、互いに信頼し合うことは欠かせない。特に重要なのは、どこにいても、上司の目がなくても、社員は必ず仕事をやり遂げると信頼する事だ。わが社では、仕事はしたい所でしてもらっている。」行動科学者のエルンスト・フェールは「人々を信頼すると、その人たちはいっそう信頼のおける人にする。不正行為をさせまいとして制裁を加えると、人びとはかえって不正行為をする。」そして、リッチ氏は「信頼こそがイノベーションを生む」と。
  2. 知性:変化に対応し続けるための「知性」を育てる。「もっとも知性の豊かな人と言うのは、知能の高い人ではなく、“気概”の必要な状況に何度も自らを置く人だ。そうした勇気ある行動は順応に直結するため、学ぶ速度が高くなる。」「早く成功するために、頻繁に失敗せよ。失敗は本物の学習をするチャンスであり、私たちをもっと知性豊かにしてくれる。」すなわち、失敗から逃げるのではなく、果敢に挑戦する気概が知性を伸ばすと言っている。(当ブログで紹介した「オフィスはなわ」社長塙昭彦氏の「なんとかなるではなんともならない」http://okinaka.jasipa.jp/archives/3450の話に通じる)
  3. チーム:チームで仕事をする方が効率的と言う筆者は、10人前後の、情熱を持った人で構成するチームを推奨する。そして失敗を恐れないチームつくりでクリエイティブな成果が期待できる。
  4. テイスト:デザインでもなく、美学でもなく、製品と人を感情的に結び付け、人びとの最も深い部分に訴えかけるテイスト。例えばコカコーラの瓶、ソニーのウォークマン、Ipodなど。
  5. ストーリー:心に響く「ストーリー」の語り手になる。人々の心に響き、印象が残るのは言葉の羅列ではなく、物語であり、ストーリーだ。組織を活性化させるリーダーの役割も、目指すべき未来をストーリーで話せることが必須。新ブランドを世に出したり既存ブランドのイメージを高めたり、新人教育にも、ベテラン社員への活にも使われる。

“企業力”は“人財力”。信頼される人たちの集団こそが、時代の変化やグローバル化への変化などに対して、イノベーションを生みながら自らも成長し、企業も成長させる。まさに松下幸之助氏など多くの人が語る“全員経営”は信頼あってこその経営とも言える。

生命は利己的ではなく、本質は利他的のはず!

朝日新聞12月3日朝刊から、動的平衡理論で有名な生物学者で青山学院大学教授福岡伸一氏のコラムが始まった。最初のテーマは「生命の惜しみない利他性」だ。

「横浜みなとみらい駅で降りて、長いエスカレーターを上っていく。すると黒い大きな壁一面に端正な碑文が刻まれている。独語の詩とその和文。これはいいたい何だろう。」で始まるコラムだ(インターネットで調べると、クイーンズスクエア横浜のステーションコアにあるパブリックアートで“The Boundaries of the Limitlessというタイトルの作品だ)。

この詩は18世紀のドイツの詩人フリードリッヒ・フォン・シラーの詩で、壁面自体は米国の現代アート作家ジョセフ・コスースの作品とか。コラムで紹介された詩を下記する。

  • 樹木は、この溢れんばかりの過剰を、使うことも、享受する事も無く自然に還す
  • 動物はこの溢れる養分を、自由で、嬉嬉とした自らの運動に使用する

福岡氏は、上記詩の「過剰」にハッとする。「そのとおりだ。もし植物が、利己的に振る舞い、自分の生存に必要最小限の光合成しか行わなかったら、われら地球の生命にこうした多様性は生まれなかった」と言う。さらに「一次生産者としての植物が、太陽のエネルギーを過剰なまでに固定し、惜しみなく虫や鳥に与え、水と土を豊かにしてくれたからこそ今の私たちがある。生命の循環の核心をここまで過不足なくとらえた言葉を私は知らない。生命は利己的ではなく、本質的に利他的なのだその利他性を絶えず他の生命に手渡すことで、私たちは地球の上に共存している。動的平衡とは、この営みを指す言葉である。」と。

殆どの人が急ぎ足で通り過ぎるなか、碑文に心打たれる人も多いようだ。インターネットで調べると多くの記事が出てくる。その中には、「植物は無事芽吹くことができるよりはるかに膨大な種を実らせ、魚は成魚にまでならない卵を大量に生むが自然は産み出したものをただのごみにすることはなく、余った種や卵は他の生物に食べられたり、分解されてまた養分になったりすることで、次の生命の滋養となる。人間はその大量生産だけを真似ていますが、人間の創るものはいつも不完全で、使われなかったものはごみになってしまう。」と人間社会の不合理性を説く方もいる。

地球も人口がいずれ100億人を超え、食糧危機に陥ることが懸念されている。厳しい自然淘汰の世界を生き抜いてきた植物や、動物の知恵に学ぶことも多いと思うが・・・。

総合スーパー「成城石井」はなぜ元気なのか?

「イオン、イトーヨーカドー。食品から衣料品や住居関連用品などを幅広く扱う総合スーパー(GMS)が苦しんでいる。(中略)昨年の消費増税後、スーパーは二極化の様相を見せた。特徴を打ち出せないGMSが振るわない中、ライフコーポーレーションやヤオコーなど、首都圏を中心に展開する主要な食品スーパーは生鮮食品や惣菜に力を入れた結果、値上げの反動減をはね飛ばして業績を伸ばしている。そうした堅調な食品スーパーの中でも異色の存在が、「成城石井」だ。」で始まる東洋経済オンラインの記事(「成城石井は、なぜ「安くない」のに売れるのか」)に目が止まった(11月26日 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151126-00094092-toyo-bus_all&p=1 )。成城石井の特徴は、決して安いとはいえない高価格帯の商品を扱う高級スーパーなのに、突出した利益率を上げている。なぜ?

結論は、まさに前稿でも書いた「顧客支持率の高さ」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/3980)だ。経営者から販売員まで口をそろえるのは「お客様のため」というキーワードだ。「お客さまにご満足いただく、お客さまに喜んでいただく。それだけを目指し、動いている。」特に創業の地、成城(東京都世田谷区)は都内でも屈指の高級住宅街であり、そこに住む人たちの食に対する興味や関心は高いものがあった。本物志向で、妥協はしない。「高くて良いもの」というだけでは不十分で、「いいものを適正価格で」が求められた。そのため品揃えと共に、お客さまの要望に沿える品質を確保するためのこだわりが随所に見られる

例えば、ワイン、外国生活経験者が多い成城で「ヨーロッパのワインの方がうまい」とのお客様の声を受け、船での定温輸送を徹底するために貿易会社を作って直輸入としたり、1日5000本以上売れるというプレミアムチーズケーキは一つ一つ手作りし常温でも保存できるのが人気となっている。こだわりの自家製ソーセージ(本場ドイツでも認められている)など自家製商品は2000点以上。こだわりは惣菜にも。他のスーパーでは外注しているが成城石井は自家製にこだわり、一流ホテルなどの料理人がこだわりの食材を使いすべて手作業で作る。生ハム、紅茶、コーヒー、オリーブオイル、ジャム、味噌、牛乳、豆腐、納豆、昆布、鰹節、ダシ、チーズケーキなどなど、有名なメーカーのものも置いてあるが、成城石井でしかお目にかかれない商品も多い。昨年10月に成城石井を子会社化したローソンの玉塚社長も、都市型生活のニーズを満たすモデルに目を見張る。

「高いから売れない」は勝手な思い込みにすぎないと言う。お客さまの期待は価格だけではなく、「この店に行けば買いたいものが必ずある」との安心感や信頼感も要素としては大きい。徹底した顧客優先の姿勢であり、コストは後からついてくるとの考え方だ(でなければワインやチーズの定温輸送のために貿易会社を作ったりはしないだろう)。そして品揃えやこだわりの品質に対して、価格は高くてもお客様の支持を得ている。昨今の成城石井の快進撃が、それを裏付けている。