「松下幸之助」カテゴリーアーカイブ

『道をひらく』は私の“心の救急箱”(押切もえ)

松下幸之助氏の「道をひらく」(初版1968、PHP研究所)が500万部を突破したそうだ。永遠のベストセラーと言われているこの本が、ファッションモデル、タレントの押切もえの愛読書との記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年3・4月号」のトッに掲載されている。実は名前は聞いたことがある程度で、あまり押切もえを良く知らないが、インターネットで見ると恋人の死、家庭崩壊、ハワイでの大事故など波乱の多い人生を歩んできたとある。そして読書好きで週3冊は読んでいるらしい。20代の時、本屋でこの本に接し、‘人を立てる’ことの大切さや、素直さ、謙虚さを説く文章が並んでいて心に響き買った。以降、こころが弱くなってパワーがほしい時に本棚から手に取って読み返すと立ち直る力がもらえる、まさに私にとっての“心の救急箱”だと言う。「道をひらく」のことは各種メディアでたびたび語っているそうだ。押切もえが感銘を受けた言葉を紹介する。

“心を通わす”の項目:つらい時、絶望感で一杯の時、心を閉ざさず周りの人たちと心を通わさなくてはと思った。

はじめからしまいまで徹底的に悪いということもなければ、
また徹底的によいということもない

”心配またよし“の項:行き詰った時、これを転機と考え気持ちがすごく楽に。

心配や憂いは新しくものを考えだす転機ではないか

”道“の項:テレビ番組で弱音を吐いたのが強調されて、自分の弱さが悔しくて・・・。この経験も‘自分しか歩めない道’だと思えば大事にせねば。

自分には自分に与えられた道がある。
天与の貴い道がある。
どんな道かは知らないが、他の人には歩めない。

”プロの自覚“の項:自分にモデルと言う仕事があっているのかと悩んだとき、

プロとしての厳しい自覚と自己練磨が必要

押切もえは言う。「この本は決して甘いだけじゃない。ピシッと背筋が伸びるようなビターな部分もある。心に寄り添ってくれて、たまに活を入れてくれる。厳しい言葉で叱ってくれる人があまり周りにいない中、この本には自分を律してくれる効果がある」、さらには「自分の事を考えさせてくれるだけではなく、常に人の事、社会の事、国の事を考え、人との関係の中で自分の立場と言う、とても基本的なことを思い起こさせてくれる」と。

先輩、同僚、上司、友人など信頼できる人脈を創り、持つことは自分の人生にとって非常に重要なことであるが、本もまたその役割を担ってくれる。自分の人生の羅針盤として。自らも「浅き夢見し」と言う小説を出版し、臆病で、人見知りな性格だった自分が、いろいろな人や本から知恵をもらってポジティブに人生を歩みたいと言う気持ちに変った自分を投影し、今の若い子たちに「気持ちの持ち方次第であきらめてはいけない」と言うことを伝えたくて書いたとか。

リーダーの自己観照

いつも紹介していますPHP Business Review「松下幸之助塾2021.11.12号」の特集テーマが「リーダーの自己観照」だ。冒頭記事に“松下幸之助が心がけた素直な心で自己観照”のテーマ説明記事がある。

松下幸之助は、失敗する経営者の特徴として、自分の適性や力を正しく認識していないことを挙げている。自己観照が必要なのだ。松下幸之助の言う自己観照とは、自分の心をいったん外に出し、その出した心で自分を見直してみることである。つまり、あたかも他人に接するような態度で、客観的に自分を観察することだ。そんなことができるのか。経営者あるいはリーダーなら、たとえ難しくても、しなければならないことだと言う。

本文では、松下氏が昭和39年に、それまで相当つぎ込み、実業化近しと思われていたコンピューター事業からの撤退を決断した時の話が載っている。当時松下含め7社が、コンピューター事業をやろうとしていたが、多すぎて共倒れになるとの判断だったが、当時は好ましくない批判に晒された。その後コンピューター事業は伸び悩んで再編が起こり、松下幸之助の判断は賢明だったとの評価を得たと言う。撤退判断と言う思い決断の時、まさに自分自身を客観的に見るため、意地になることなく素直な心で自己観照に努め、自分の判断の正しさを確信していたそうだ。

「自分の力とか適性が分からなければ、他社や人の言う事、することが気になる。他社がいいところにビルを借りたり、たくさんの人を採用して成長したりしたら、それをまねて大失敗することが往々にして起こる。」と松下幸之助は言う。「自分の事は自分は自分が一番知っている」とよく言うが、自分の考えや行いがはたして独善ではなく、道理にかなっているのかどうか、社会的に正しいかどうか、人情の機微に適したものかどうかを評価する段になると別。人間というのは、どうしても自分中心に、自己本位に物事を考えがちで、他人から見たらずいぶんおかしいことでも一生懸命に考え、それを正しいと信じている場合が多いのではなかろうかと記事編集者は指摘する。しかし、自己観照を自ら実施するのも限界がある。「みずから自己観照するということは、よほどの達人、名人ともならなければできない。けれども、自分というものはどんな格好をしているか、どんな長所や短所があるかということは、自分の友人なり、自分の先輩なりに観照してもらったならば、私は良くわかると思うんです」と松下幸之助氏はある講演会で言っている。

本田宗一郎氏には藤澤武夫氏という相棒、井深大氏には盛田昭夫氏という相棒がいたというのは、理想的な経営スタイルと思える。稲盛氏は、第二電電を起こす決断をしたとき、「動機善なりや、私心なかりしか」と自問自答したと聞く。経営者、リーダーは常に謙虚に自分を振り返り、素直に耳を貸す姿勢が、経営の安定化に必須と言う事だろう。

今回の号には、小林陽太郎氏や、齋藤孝氏などの記事もある。追々紹介したい。

「全員経営」のすすめ

PHP Business Review「松下幸之助塾7・8月号が昨日届いた。5.6月号に関してはその一部を5月3日(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/5/3)、5月5日(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/5/5)に紹介した。今回の特集は「全員経営の凄み」。そのリード文を紹介しておく。

「‘全員経営’――この言葉が近年マスコミ上に頻出し、多くの企業の課題として問われている。その背景には、‘全員経営’ではない経営、すなわちトップの経営判断だけに頼る経営ではこのグローバル化の時代、スピードに劣り、とても乗り切れないからという危機感がうかがえる。そしてまたそれは一人ひとりのビジネスパーソンの尊厳を考える上でも、必然となってきたようだ。社員全員が目標を共有しつつ、経営者感覚を持ち、機能すれば、いったいどれだけ高度な経営ができるのであろう。一流経営者たちが求める‘全員経営’のための哲学と方法を探る。」

成功事例として「ヤマダ電機」やブラジルのコングロマリット「セムコ社」が紹介され、大手外資系(シェル石油、ジョンソン&ジョンソン、フィリップスなど)のトップを歴任された経営のプロフェッショナル新将命(あたらしまさみ)氏が「全員経営を根づかせるために必要な仕組みつくりとは」を提言されている。新将命氏は「経営の教科書」などの本も出版されており、私もこの本を読んで同氏に興味を持ち、講演会でお話を伺ったが、経験に裏付けされて経営論に感銘を受けた。新氏の今回の提言の一部を下記に紹介する。

ワンマン経営では、ワンマンの能力以上の成長、発展は望めない。あるレベルまで大きくなった会社がそれ以上伸びない原因は、そのトップにある。その壁を突破するためには、社員の衆知を集めた全員経営が必要。その全員経営を実行するためのポイントは

  • ① 方向性
  • ② 関与
  • ③ フィードバック

この3つのキーワードを会社の中にしっかりと根づかせることと言う。筆者はいろんな会社から企業研修を依頼され、毎週のように幹部や部課長クラスの研修を実施されている。その中で頻繁に出てくる言葉が「疲労感」「疲弊感」そして「閉塞感」だそうだ。目先の売上高や利益の確保、新規顧客の開拓などで、朝から晩まで鞭を振り回され、部課長はそれに応えんと遮二無二働いている。部課長にこの3つを感じたことがあるかと聞くと、「強くまたはある程度感じる」と答えたのが90%で、「全く感じない」は0%だったそうだ。

これを解決するためには、「方向性=理念+目標+戦略」を社員の納得性の元に作ることがまず重要と言える。トンネルの先に光が見えれば、今の疲れは我慢でき、頑張れる。部課に目標を与えるとき、一方的に与えるのではなく、目標設定に部下も参画させ、納得性のあるものにする。会社の理念や戦略を作る過程においても参加させることも意味がある。これが2番目のキーワード「関与」である。目標が決まれば、その結果が出たときに、きちんとフィードバックすること。目標の立てっぱなしは逆効果で、部下に対する無関心を表わし、部下のモチベーションを下げてしまう。この3つが、きちんと定着すれば、社員のやる気に火をつけられる可能性が大きくなり、経営に対する関心も惹起し、当事者意識も湧き上がる。「関与」によって部下のやる気は3倍になると筆者は言う。このような風土が出来れば、「自責の企業文化」(何か問題が起こった時、他者に責任を求めず、自分の責任で考える)の定着も可能となる。

松下電器は松下幸之助氏の「全員経営」の発想で大きくなった。新氏は、グローバル企業のトップを数社経験してきた中で、「全員経営」は、企業経営の普遍的な要諦であると言う。より大きく成長するためにも、「全員経営」は一考の価値あると思うがいかが・・・。