「教育問題」カテゴリーアーカイブ

勇志国際高等学校(天草市)

以前、当ブログで日本人の矜持を育む学校、海陽学園(http://jasipa.jp/blog-entry/7196)を紹介した。教育改革に取り組む人は数多くおられるが、今回も荒廃する一方の日本の教育界において、日本人の誇りを徹底して植え付けることで、子供たちを問題行動から立ち直らせている教育者を紹介する。熊本県の勇志国際高等学校長・野田将晴氏である。「致知2012.9」に青森県で現役の中学校教師時代、日教組と戦い、多くの非行少年たちを更生させてこられた木村将人氏との対談記事がある。タイトルは「日本人の誇りを取り戻せば子供たちは変わる」。

勇志国際高等学校は、広域通信制高等学校としてH17年に熊本県天草市(御所浦町)に設立された(小泉内閣時代の教育特区指定を受けて)。全体の7~8割が不登校経験者、2~3割がやんちゃではみだしてしまった生徒との事。そこの校長として、元警察官、熊本市会議員、県会議員だった野田氏が要請を受け着任された。基本は自宅学習と、4泊5日の集中スクリーニングだが、ここの生徒たちの特性に応じたカリキュラムが特徴だそうだ。一に生徒の長所を見て、それを伸ばす教育に徹していること。二つ目は日本人としての誇りを取り戻すこと。この2本柱が評判となって、入校する生徒は毎年増え、114名でスタートしたが、今は1000名を超える規模になっているとか。教育方針は

一、親孝行する青年たれ
二、志ある人間たれ
三、誇りある日本人たれ
四、役に立つ国民たれ
五、尊敬される国際人たれ

全国から集まるスクリーニングの際に、如何に心のバリアを無くしてあげられるかが勝負と言う。漁業体験やマリンスポーツもあるが、最も力をいれているのが、明治維新から大東亜戦争に至る近現代史の教育だ。GHQ占領時代の「歴史、修身」を教育課程から外し、日本の罪意識を植え付ける教育で、最も疎かにされていたのが近現代史。教師にも徹底的に近現代史を勉強させ、生徒と「日本は自ら戦争に突入していった戦犯なのか」や、「天皇陛下の存在意義」などについて議論させる。そして、日本人の誇りを感じた生徒は、目の前で明らかに変わっていくと言う。

野田氏が「日本人の誇り」を感じたのは、24歳の時JAICAからマレーシアに派遣された時。東京での事前研修の際、「マレーシアに赴任後は、戦争の話は厳禁。すれば石が飛んでくる」と諭された。が行って見ると相手から戦争の話をされ「ありがとう」の連発。柔道を指導した若者からは「日本軍がイギリスを追い払ってくれたお蔭で独立できた。日本の天皇を尊敬している」と家族で家に招待され歓待されたとか。この時、子供たちに正しい歴史観を伝えるのが自分の役割と認識されたたそうだ。そして、「教育の本質とは、祖国の尊い歴史と文化を次世代に語り継ぐ営みだ。生徒と教師が祖国への誇りを取り戻せば、いまマスコミを騒がせる問題の多くは解決できる」と確信を持っておられる。

(「日本人の誇り」についてはhttp://jasipa.jp/blog-entry/6662の記事も参照ください)

教育現場は以前にも増して荒れている!?

今、滋賀県大津市の中2の自殺事件が、マスコミを賑わしている中、学生の不登校や発達障害の増加などの問題がテレビ・雑誌でもよく取り扱われている。13年前にNHKテレビの特集で取り上げられ「学級崩壊」という言葉が普及したことがある。最近ではこの傾向がさらに激化し、「新型学級崩壊」と言われているそうだ。すなわち、これまでは新米先生の教室において生徒が言うことを聞かず、勝手放題の行動を取るケースが多かったが、最近は学校でも一目置くベテランの先生の教室でも荒れているとか。

埼玉県の教育委員長、自治省委員会座長などを歴任され、現在も教育関係の社団法人やNPO法人を通じて教育現場の改革に取り組んでおられる明星大学教育学部の高橋史朗教授の「親学の普及徹底なくんば国は浮上せず」という教育現場からの提言を読んだ(致知8月号)。この記事によると、今の授業風景をビデオで見た人は、これは休憩時間ではないかと一様に驚かれるそうだ(授業中に机を離れて動き回っている)。このような現象は、その数が1クラスに1割以上いると言われる軽度発達障害に似た症状を持つ子供が増えたためと言われる。このような状況を生み出す原因の一つは、近年増加の一途を辿る児童虐待で、親から虐待を受けた子供たちは傷や打撲などの外傷にとどまらず、脳にも悪い影響を受け、それが子供たちの異常な行動となって現れるという。あるレポートによると、クラスで昔は「親に殴られたことのある人」と問うと2-3人が手を挙げたが、今は逆に「殴られたことがない人」が2~3人という状況らしい。教師が精神疾患にかかる比率も急上昇しているそうだが、もう一つ問題視されているのは、子供たちによる万引き増加だそうだ。警察庁によると平成21年度被害総額4615億円、万引きが主な原因で閉店に追い込まれた書店が年間で1000軒を超えているそうだ。ユニセフの「子供の幸福度調査」によると「孤独を感ずる」との回答が日本は30%、2位以下はいずれも10%未満とのこと。高橋氏は、この問題の根っこは、家庭教育に問題があり、昔に比して親の子どもに対する関わり方が変化してきたのではないかとの思いから「親学(おやがく)」を提言されている。

「親学」とは、親が親として学んでいくこと、つまり親になるための学びを言う。ある母親が保育士に言い放った。「私たちは生むのが役割、あなたたちは育てるのが役割」と。3世代同居から核家族化になって、子育ての伝統が継承されず揺らいでいる。今こそ、家庭での子育てを取り戻したい。母性的な慈愛に基づく愛着形成があって、「ならぬことはならぬ」父性的義愛(子供の我がままと対決する形での躾)が成立する。母親の8割がテレビやビデオを見ながらの「ながら授乳」とか。しかし、授乳中のアイコンタクトこそ子供に安心感を与え、親との一体感が生まれる。子供たちの恥や罪悪感、共感性といった感性が育つ臨界期は2歳の終わりころだとの説がある。この知見によれば、2歳の終わりころまでに親がどう子供に関わるかが決定的に重要ということになる。そして「教育の道は、家庭の教えで芽をだし、学校の教えで花が咲き、世間の教えで実がなる」(埼玉県のある高校で親たちに配られた文章)を噛みしめ、みんなで未来をしょってたつ子供たちの育成に努めなければならない。

学校がいまだに荒れているとは知らなかった。少子化に加えて、子供たちの成長が期待通りに進んでいないとすると、日本にとっては大きな問題である。これからも、大きな関心を持って見つめていきたい。

大学の入試改革、教育改革議論に期待!

東京大学の「5年後に秋入学に全面移行」の提言を契機に、国際人育成のための教育議論が活発化してきた。今朝の朝日新聞の「オピニオン(17面)」では、「時期変えるだけで国際人は育たぬ、入試改革の方が先」と題した京都大学松本紘総長のインタビュー記事が掲載されている。松本総長は、昨年当ブログでも紹介しました(http://jasipa.jp/blog-entry/6857)が、「綾の会」を毎年東京で開催され(昨年が20回目)、人と人の絆を広めるきっかけを作られている(昨年は水谷八重子さんも来られました)。学生時代から私も非常にお世話になり、今でも気さくにお付き合いしていただける尊敬する先輩です。

日本経済が世界の中で存在感を低下させている主な原因は、いわゆるグローバル人材が育っていないことにある。グローバル人材とは、英語でコミュニケーションできるだけではなく、日本の歴史や文化を国際舞台で伝えられるような幅ひろい教養を身につけた人材だ。真に創造的な仕事が出来るようになるには、基礎的な知識の集積が不可欠。現在の入試のような限られた少数科目の点数競争ではダメで、複雑な問題にぶつかっても解決策をみつけだせるような柔軟で強靭な思考力こそ必要だ。自分に自信を持って、何かにチャレンジした経験を持ち、意欲のある人が必要だ。

そのために高校と連携して、受験科目に力を入れるだけではなく、実験や発明、芸術、スポーツ、ボランティア活動なども含め、多様な活動をさせているかどうかも評価する。大学と高校で「こんな人材を育てたい」という目標を共有化し、その活動を評価し、入試にも反映する。連携高校の選定には多くの議論を呼ぶだろうが、これ位の改革をやらないと、点数偏重の教育から脱皮は出きないし、チャレンジ精神に富んだ創造性の高い生徒は育たないとかなり意欲的だ。

さらには、5年間全寮制の大学院の創設を2013年度に実施するそうだ。20人程度に絞り、次代のリーダー育成のために、研究だけではなく幅ひろい教養も身に着け、海外留学経験を積ませ、国内企業や官庁で自ら立案したプロジェクト経験も積ませると言う。ほぼすべての授業は英語で、恐らく海外留学生も今以上に受け入れるものと思う。

現在、日本の人口当たりの研究者数やGDPあたりの科学技術研究費は世界1,2位を争っているが、人材の質の低下に歯止めがかからない。今やまったなしの改革が求められている。今回の記事で京大総長の覚悟を感じた。松本総長を知る人は、この記事を読んで本気度に大きな期待を持たれたと思う。東大の「秋入学」を契機とした主要12大学の協議会が発足し、その中で入試改革や、教養教育の在り方など、大学教育が抱える様々な問題を議論したいと言われている。早期改革実行を期待したい。