佐藤優・高永詰対談集「国家情報戦略」を読んだ

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韓国の政治紛争に巻き込まれ政治犯にされ投獄されてしまった韓国の情報将校高元大佐と日本の元外交官佐藤優さんの対談集を読んだ。佐藤さんはソ連通で鈴木宗男議員の疑惑との絡みで同じ様な目にあっている。息の合った対談になっている。

ここでも日露戦争における明石元次郎大佐の活躍や太平洋戦争で陸軍中野学校の果たした役割を見直すべきだとの意見が有った。明石大佐については余り異論はないと思うが、中野学校については大いに異見があるのではと思う。

アメリカはNSAを始として何万人もの諜報員と毎年10兆円近くの費用を注ぎ込んで諜報の分野でも世界を牛耳っていることは誰でも知っている。平和国家を自認して海外で武器も使えない軍隊しかもてない「日本国」は、地政学的な世界戦略など描けないし、国際感覚を研ぎ澄ます事も出来ない。政治家も内向きな矮小化した議論ばかりで「世界戦略」どころではない。

アメリカの大統領選挙の予備選を見ていると指導者選びの熾烈さが伝わってくる。この試練に耐え抜いて本選で勝った人がアメリカの指導者になる。日本で2世議員から総理大臣が選ばれるプロセスを考えると情けなくなる。政治で勝てる訳がない。政治家個人の能力や資質のレベルがまるで違うのだ。その上に国家の国力や政治力・軍事力が覆いかぶさって来る。白洲次郎じゃないが少なくとも個人レベルで勝てないとどうしようもない。もっとも白洲次郎で言えば対マッカーサー戦略の後ろにはアメリカを牽制したいオックスフォード閥を中心としたイギリスのバックアップが有ったのかも知れない。

インテリジェンスについて言えば私も情報機関の復活には基本的に賛成だ。が、しかし、この組織は腐敗し易い性格を持っている。最近の事例でも元内閣府情報調査室長が詐欺まがいの事件で逮捕されている。諜報の世界では生殺与奪の権限を現場のエージェントに与えざるを得ない場合が出てくる。与えなければ実際問題として機能しない。アメリカ映画でもCIAやFBI,NSAなどが絡んだ犯罪が絶えずテーマとして登場する。モラールの問題だが。国家への忠誠と思ってやっていることが民主主義のルールを逸脱することが結構多いのではないか。正義の衣を着ているだけに始末が悪い。

もう一つ重要なことは独り歩きして戦前の「特高」みたいな存在にならないようにコントロール出来るかどうかだ。

時の政権に密着しすぎても問題だし、国民に選ばれた政府の統制が利かなくなることはもっと危険だ。毒を旨く制御できる政治であり、国民であることが必要だ。

国際外交戦争の現場では情報収集能力の欠如は致命的だ。日本もいい加減に「国際情報音痴」から卒業すべき時に来ている。政治の成熟度から見ると怖い選択ではあるが・・・